王の乱心‐7
ご高覧いただきありがとうございます。
「うむ、では単刀直入に言うとするかの。ディラ、半永久的にHPが回復し続けるスキルがある。欲しいか?」
「・・・ふぇ?」
・・・どゆこと?
「何呆けているんじゃ。で、欲しいのか?」
「え、え~っと」
エラさんから聞いた情報だけを信じるならそりゃ欲しい。でも『吸魔』の前例があるだけに、素直に欲しいなんて言ったらHPが尽きてキャラロスト・・・はないだろうけど、なんにせよいい予感は全くしない。
「これ以上HPが減っても・・・いや別に変わらないのかな」
「なんじゃ、さすがに『吸魔』のカラクリには気付いておったか」
「これだけHPが減ればまあ・・・」
「ふむ、なるほどのう。ではすこーし見せてもらうぞ」
エラさんは私が返事をする前に何の遠慮もなく『鑑定』をぶっぱなしてきた。うぇ・・・やっぱり気持ち悪い。内臓を軽く雑巾絞りにされているような感覚になる。ゲーム内で起こっていることに過ぎないのに、ここまで変な感覚を再現できるってどういう技術なんだろう。
「なるほどのう・・・おっと、儂に向けてそれをするのは悪手じゃぞ」
「はい?え、ちょっと、ヴィオ!?」
気持ち悪くてギュッと閉じていた眼を薄く開くと、ヴィオが外套の中から這い出してエラさんに今にも襲い掛かろうとしていた。
「ダメ!エラさんは敵じゃないの!」
「ギュアウ!」
ヴィオは明らかにこれまでとは違った目つきでエラさんを睨みつけている。私が止めてないと戦いになってたかもしれない。未だに謎しかないエラさんだけど、さすがに好き好んで敵対したいとは思わない。
ヴィオは私がいくら引き留めても腕の中で暴れ続ける。そんなに『鑑定』のこと気に入らないのかなと思ったんだけど、私が『鑑定』をされたからとかではなくシンプルにエラさんに対してのヘイトが凄いように感じる。何がそんなに気に入らないんだろう。
「よいぞ、ディラ。そ奴の好きにさせてやれ」
「で、でもヴィオを離したらエラさんが」
「そのようなチビ相手に遅れはとらんよ」
エラさんはそう言うけど、見た目はこんなのでもどヴィオ強いんだよね。でも今は私の言うことも聞かないし、エラさんを信じて少しお灸をすえた方がいいのかな。
「わかりました。でもヴィオを殺すようなことはしないでください」
「問題ない。さすがにそこまで大人げないようなことはせん。それと、ディラは離れて見ておれ。そのHPでは余波だけで死んでしまうかもしれんからの」
念のためにエラさんに距離を開けてもらってからヴィオを腕から解き放った。
「ギュアアアアアアア!!!!!」
ヴィオが今まで聞いたことのない、叫び声ともとれるような荒々しい咆哮をあげながらエラさんに向かって突っ込んでいく。よく見るとヴィオの手は肥大化していて、一振りで人1人を余裕で殺せるような黒々とした爪をエラさんに振り下ろして・・・え、止まった。
目を凝らすと、エラさんがヴィオの手を指1本で止めているのが見える。しかもヴィオに直接触れているわけでもなく、ヴィオが振り下ろした手は見えない壁に阻まれているかのようだった。
「ほれ、こんなものか?」
「ギュォオア!」
ヴィオがその場で吠えたかと思うと、ヴィオの周りに青紫色の炎が10個ほど浮かんだ。
「ほう、『鬼火』をもう使えるのか!隠れて魂を喰らっておったな!」
ヴィオは周りに出現した青紫色の炎を全部食べてしまった。大丈夫?お腹壊したりしない?
「それは以前はしてこなかったな。何をしようというのか」
「ギュウ・・・ギュアアアアアアアア!!!!!」
ヴィオが再び咆哮をあげた瞬間、ヴィオの口から『鬼火』とかいう炎と同じ色のブレス・・・というか、レーザーが放たれてエラさんを飲み込んでしまった。
「エラさん!」
数秒放たれ続けたごんぶとレーザーが止むと、そこには無傷で立っているエラさんの姿が。今の受けて無傷ってどういうこと?それにヴィオがこんな技使えるのなんて私知らないんだけど!
「今のはなかなかじゃな。ほれ見ろ、髪先が少し焦げてしまった」
「ギュ・・・」
エラさんはヴィオを挑発するように髪先をくるくると指で弄って退屈そうに欠伸をした。
「ゴアア・・・!」
またヴィオが聞いたことのない声をあげると、ヴィオの体がメキメキと音を立てて変化し始めた。
「ヴィオ・・・?大丈夫なの・・・?」
「ふむ、これは・・・」
ヴィオの体が元のサイズより二回りほど大きくなった頃、またおかしなことが起こり始めた。大きくなったヴィオの体がどんどん伸びていく。元の体を圧縮するようにして体が細長くなっている。元の西洋系の龍の姿から東洋系の龍のような蛇っぽい姿へ変わっている。
「ガ、アア、アァア」
《個体名『ヴィオ』が狂乱状態へと移行します》
《・・・》
《アーゲリア大陸西方にて、世界樹を蝕む者『繝??繧コ繝倥ャ繧』が目覚めます》
《神話級災害生物『繝??繧コ繝倥ャ繧』がリストに解放されます》
「ダメ!ヴィオ!」
「ディラ!何をしている!」
ヴィオの方へ駆け寄って、大きくなったヴィオの体にしがみついて必死に呼びかける。
「ダメだよ、ヴィオ!ヴィオはまだ赤ちゃんなんだから!神話だかなんだか知らないけど、ヴィオは私と一緒にいなきゃダメ!だって、私はヴィオのお母さんなんだから!」
「グルルァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」
刹那、浮遊感を感じたかと思うと、私の体はさっきまでエラさんと向かい合っていたテーブルに激突していた。体中が痛くて、精々目線をヴィオの方に向けるので精一杯だ。
「ヴィオ・・・」
まだ体が変化していくヴィオを眺めることしかできないでいると、エラさんがいつの間にかヴィオの顔の前に浮いていた。
「そこまでじゃ。あまりお前の母親を悲しませるでない」
エラさんがそう言ってヴィオにデコピンをすると、ヴィオの体がみるみるうちに萎んで元の可愛らしいヴィオに戻った。気絶してるみたいだけど、HPとか大丈夫なのかな。
◇◆◇◆◇
名前:ヴィオ
種族:暴食龍(幼体)
Lv:22
HP:1/39400
MP:1172/10810
状態:気絶
スキル:???
◇◆◇◆◇
おお、HPが1で止まってる。最大HPはとんでもないけど体力が少ないことに若干親近感が湧くね。というかいつの間にこんなに強くなってたんだろう。前に見た時はレベル7とかだったと思うんだけど。
《『繝??繧コ繝倥ャ繧』が沈静化されました》
ヴィオが巨大化してた時に流れた不穏なアナウンスは撤回されたみたい。それにしても、本当にヴィオって何者なんだろう。拾った場所が場所なだけに普通ではないことは百も承知だったけど、エラさんに異常に敵対してたことも気になる。
「さて、ディラよ。聞きたいことは色々あるじゃろうが、逸れた話を済ませるのが先決じゃ」
このひと悶着で頭から抜け落ちてたけど、そういえばエラさんが私に怖い(当社比)スキルをくれるみたいな話だった。
「とりあえず、そのスキルについて包み隠さず教えてください。『吸魔』の時みたいに頭を悩ませるのはこりごりなので」
というわけでイベント回第7話目でした。
このお話は正直イベントとの関わりが薄いのでここに入れるかどうか迷いましたが、よくわからなくなったのでぶち込むことにしました。まあヴィオとエラの掘り下げ回とでも思っていただければいいかと。
投稿者の予定ではそろそろイベントが終わるはずだったのですが、思いのほか長引いてます。この進行速度だと13∼15あたりまでだと思います。




