王の乱心‐6
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「元気・・・まあ元気ですね・・・?」
「地底を出るときに頼んだ依頼は順調か?今はそれどころではなさそうじゃが」
依頼?地底を出るとき・・・?あ、そういえば人探し頼まれてたんだった。
人と話しているのにいつまでも地面に突っ伏しているわけにもいかないから、立ち上がっておばあさんの方に向きなおる。おばあさんは前に見た時と変わらないローブ姿で相変わらず顔は見えない。この2人で顔を突き合わせて話してるのって傍から見たら絵面やばそう。
「まあ忘れていても構わぬ、どうせ急ぎの用でもないんじゃ。いずれ見つかればそれでよい」
「えっと、おばあさんはなんでここに?」
「何故、か。強いて言うならディラのためかのう?」
「え」
おばあさんの深くかぶったフードの隙間から釣り上がった唇が見えた。なんだろう、こう、完全な善意だけで今の発言をしたわけではないのはよくわかった気がする。でも実害がない・・・わけではないけど、私がこの体でやっていける術を与えてくれた張本人だから警戒するのも憚られるような。
「それはどういう・・・?」
「ここでは人の目がありすぎる。儂に摑まっておれ」
おばあさんに言われるままに差し出された手を握ると、周りの空間が歪む。
「これ・・・転移?」
空間が歪んだと認識できた次の瞬間には、私たちは既にノーリの中にはいなかった。私たちが立っていたのは紫一色の広い部屋で、その中心には部屋の色に不釣り合いな白いテーブルと椅子が置かれていた。これまで感じた転移の不快感を一切感じなかったけど、レベルを上げればそうなるものなのかな。
呆けていると、おばあさんに手を引かれてそのままテーブルの方まで誘導された。座れってことでいいんだよね?
「さて、もうこれもいらぬな」
おばあさんがそう言うと全身を覆っていたローブを脱ぎ捨てて椅子に座る。
「え!?幼女!?」
私の向かいに座ったおばあさんの姿に驚愕してしまう。いや、だって、え?あんな嗄れ声で腰も曲がって杖ついて・・・えぇ?どこからどう見ても幼女だ。茶色の長髪で真っ黒のドレスを着ている幼女にしか見えない。
「ふふ、驚いたじゃろう。なに、別に不思議なことではないぞ?今まで儂はディラに姿を明かしたことは無かったからのう」
おばあさん、いや幼女?は目を細めて楽しそうにくつくつと笑う。ええ・・・なんか声もめちゃくちゃに幼くなっていてとても同一人物だとは思えない。
「おばあさん・・・とはもう呼べないですね。なんと呼べば?」
「ふむ・・・『繧ィ繝?繝悶Λ』、と言ってもディラにはわからんじゃろう」
「そうですね、聞き取れないです」
このたまに発生するNPCたちがなんて言ってるかわからない現象、王龍さんはいずれ聞き取れるようになるとか言ってたけど、本当になんて言ってるんだろう。多分AAOのストーリーにおいて大事なことなんだろうけど、果たして私がまともに名前を呼べる日は来るんだろうか。
「そうじゃろうな。では『エラ』ならどうじゃ」
おお、今度は普通に聞こえた。エラ、エラさんね。なんだか普通の名前が出てきてちょっと拍子抜けだった。お姫様に負けないくらいの長い名前でも飛び出してくるのかとちょっと身構えちゃってたよ。
口の動き的にさっき聞き取れなかった名前は4∼5文字くらいの長さだったから本名ではないんだろうけど、あの姿におばあさんって言うよりかは断然マシだよね。
「それで、エラさんは私にどんな用が?」
「うむ、では単刀直入に言うとするかの。ディラ、半永久的にHPが回復し続けるスキルがある。欲しいか?」
「・・・ふぇ?」
☆★☆
「ああクソ!熱いったらありゃしねぇ!」
「アルス!リジェネ切れる!引いて!」
「あたしが受ける!さっさと回復受けろ!」
数十分前、何の前触れもなく王都に現れたスルトアバターは暴虐の限りを尽くしていた。幸いにも出現した場所が騎士団の訓練場だったため、周囲への被害は最小限に抑えられているがそれも時間の問題と言える。
「ただ襲ってくる魔物を大量に倒すだけのイベントじゃないだろうとは思っていたけど、まさかこんな化け物が出てくるとは思ってなかったな」
「まったくだ。しかし『鑑定』が通じるのは不幸中の幸いだな」
誰かがそうぼやく。
「ああ、どこぞのクソトカゲよかまだマシに感じる」
「変な状態異常はないけど、単純な高ステータスの暴力がこんなにキツイとはな」
これまでもβテスト時と比べて、雑魚敵のレベルが跳ね上がったり、数が若干増えていたり、そもそも違う魔物に変質していたり、と変わっている部分は多かったが、どれも慣れているプレイヤーならば対応できないこともない範囲だった。
だが此度王都に現れたスルトアバターという化け物は文字通りこれまでとはレベルが違っていた。現在のプレイヤーのレベル上限は35だが、スルトアバターのレベルは52。一回りどころか二回りほどレベルに差があったのだ。
それでも体に炎を纏っているだけならなんとかなっただろうが、スルトアバターは魔法を巧みに使用してきた。プレイヤーが遠のけば炎の魔法を使い、プレイヤーが複数で肉薄してきたならば土壁を生成してプレイヤーを分断して各個撃破してくるなど、非常に戦略に長けていた。
「負けはしないけど勝てもしないな・・・」
「ジリ貧かもなこりゃ」
プレイヤー側が手をこまねいているように、スルトアバターも攻めあぐねていた。群がってくるプレイヤーは片腕を振るえば散っていくものの、散らしたプレイヤーの分だけ同じ数のプレイヤーがどこからともなく湧いてくる。
そんな状況が一刻近く続いたころ、業を煮やしたスルトアバターが動いた。
「コノムシケラドモガ・・・!ソンナニシニタイノナラバ、オノゾミドオリマトメテツブシテヤロウ」
「なんだ!?こいつ喋るのか!?」
スルトアバターが両腕を地面に突き入れると、大地が揺らいだ。
「地震か!?」
「どう見てもこいつが起こしてるだろ!」
「天災まで起こせるのかよこいつ!」
「お、おい。あれ見ろ、上!上だ!」
その場にいたプレイヤーが空を見上げると、上空には空を埋め尽くすほどの大きさの岩石が浮かんでいた。もちろんそれだけで終わるはずもなく、上空に浮いている岩は青い炎を纏いゆっくりとプレイヤーたちに向けて落ちてきた。
「ハハハ!シュウイヲヤキハラエバゴミドモモワイテコナクナルダロウ!」
というわけでイベント回第6話目でした。
理菜はおばあさん・・・ではなくエラさんに何ともあま~い話を持ち掛けられました。いけない!美味しい話には必ず裏があるのが世の常よ!騙されないで、理菜!
一方、スルトアバターさんは周囲一帯を吹き飛ばせばプレイヤーが来ることはないだろうと考えたようですが、考えが甘いですね。グラブジャムンくらいあまあまです。




