おばあさんと存在進化
ご高覧いただきありがとうございます。
「聞こえておるのじゃろう?返事せんか」
「え、あ、はい、すみません!」
ちょっとした圧を感じて思わず返事が出た。なんだかこのおばあさん(?)からは逆らってはいけないオーラが滲み出ている。年長者特有のあれだ。
「・・・む?おかしいな、声が聞こえぬ。念話スキルは持っておるのじゃが」
どうやら王龍さんの特別製の念話スキルは普通の念話と互換性はないようだ。ちょっと不便かも。
しかし、せっかく王龍さん以外の知的生命体と遭遇できたというのに話せないのは悲しい。どうにか意思疎通をできないかと身振り手振りでいろいろしてみたけどだめだった。テレビで芸人さんがやってるような、勢いだけのボディランゲージが通じるほどAAOは甘くないらしい。
「ふーむ、仕方ないの。ちょいとスキルを使うぞ、いいな」
おばあさんがそう言うと、ないはずの内臓が引き絞られるような感覚がした。これ鑑定だ、吐きそう。吐くものないけど。
「ほうほう、これまた面白いスキルを持っておる。これはヨルのものじゃな。久しぶりにあのダメ蛇の様子を見に来たらこんなものを従えておるとはのう。しかし異界人、か。それに名前も持っているし、ずいぶんと面白いものを拾ったのう」
どうやら私の情報が丸裸にされてしまったようだ。ていうか、私がプレイヤーってばれてるってことは称号まで見られたの!?鑑定ってそんなことまで見れるんだ、すごいね。ってことはこのおばあさんは私とかなーり実力が離れている可能性が高い。少し興味が沸いて声のする方向へ目を向けて鑑定しようとするが、おばあさんの魔力が見えない。周囲を見渡しても魔力のまの字すら見えない。もしかして幽霊だったりする?
「どれだけ探しても下級骸骨ごときの目では儂の魔力は捉えれぬぞ。それよりもディラとやら。お前さん、強くなりたくはないか?そのままではこの階層の雑魚敵ですら屠れぬじゃろう。それでは進化するのも夢のまた夢というものじゃ」
あ、見えないんだ。ごときって言われたよ、ごときって。
そりゃあ、強くなりたいよね。具体的な目標はないにしても、この最下層の魔物さんを普通に相手取れるくらいには強くなりたい。それに、私は人間や亜人で呑気にお日様のもとを闊歩してるゆとりプレイヤーたちに負けたくはない。
肯定の意を表すようにおばあさんの言葉に頷く。
「うむ、いい返事じゃな。ではこれをやろう」
《繧ィ繝ォ繝■?繧ケより、スキルスクロール『吸魔』が譲渡されました》
さっきぶりです文字化けさん。元気にしてましたか。私はいろんなことが起こりすぎて眩暈がします。
「ほれ、呆けてないでさっさとそのアイテムを使うのじゃ」
今貰ったスキルスクロールを使うと、またメッセージウィンドウが目の前に現れた。
《スキル『吸魔』を獲得しました》
《『存在進化のスクロール』の所持を確認。スキル『吸魔』の取得により、存在進化ルートが解放されました。現在解放されている進化先は通常進化先の骸骨のみです。存在進化『???』の解放には任意の魔物を5体、討伐する必要があります。現在1/5》
《また、存在進化『???』の解放には劣種竜骸の頭骨が必要となります。条件を満たしています》
もう勘弁してくれないかな。私の頭はパンク寸前だよ。明らかに私の強化イベントみたいなことが起こりに起こってるけど、もう少しこう、なだらかにできなかったのだろうか。とりあえず、今ある情報を整理していこう。
まず、私は『吸魔』というスキルをおばあさんからもらった。このスキルはどうやら『吸魔』を使用した相手からHPとMPをランダムに吸収できるらしい。なにそれ強い。しかもMP消費なし。これ、バランス崩壊してない?大丈夫?デメリットとかが無いとむしろ安心できない。でも一応、持続時間に限りはあるみたい。そりゃそうだ、ずっと使えたらこのスキル使うだけで完封できるしね。
次は存在進化。これはクソAIに持たされたであろう『存在進化のスクロール』とやらで存在を匂わせてたやつだ。メッセージウィンドウを見る限り、『存在進化のスクロール』と『吸魔』でルートが解放されたらしい。アイテムだけではダメなんだね、鬼畜。んで、私がその解放されたルートを進むためには適当な魔物さんをあと4体倒さないといけないらしい。普通の進化先の骸骨はもう解放されてるみたいだけど、それじゃ面白くないよね。
「どうじゃ、強くなる方法はわかったか?」
おばあさんの言葉に頷く。
「今、お前さんにやったスキルはあくまでもきっかけじゃ。これから先に儂のような都合のいい存在がいると思うでないぞ。だが、お前さんがそれに見合った努力をすれば、道は開かれよう。いつかは人の姿を取り戻せるかもしれぬぞ。そうなったら今度こそ儂と話をしようではないか」
おおおおおおお!私、人になれるかもしれないんだって!この先他のプレイヤーやNPCと交流する道も絶たれているんじゃないかと少し萎えていたけど、これはやる気出る。頑張ろう。
「やる気が出たようで何よりじゃ。では、儂は先へ行くとするかの」
そういえば、おばあさんは誰かに会いに来てたんだっけ。こんなところにまだ知的生命体がいるなんて感動した。いつかはその人ともお話ししたいな。
「そこの左の道の先にアンデッドの群れがおったぞ。そこで狩りでもするといい。ではまた会おう、世にも珍しき骨の異界人ディラよ」
おばあさんがそう言うと、気配が消えた気がした。行っちゃった・・・のかな。最後までおばあさんの魔力は見えなかった。何者なんだろう、あのおばあさん。こんなところにいるってことは間違いなく只者じゃない。敵対はしたくないね。
おばあさんの言われた道を進むと、見覚えのある部屋に出た。そこは思い出すことも憚られる、忌まわしきファーストデスの部屋だった。
◇◆◇◆◇
称号:セットなし
名前:ディラ
種族:下級骸骨
職業:‐
所持金:10000ギル
Lv:‐
HP:200/200
MP:5/15
SP:3
装備:なし
スキル:「闇魔法Ⅰ」「錬成」「瘴気」「念話(邪)」「鑑定」「吸魔」
パッシブスキル:なし
取得称号:『管理者のお気に入り』『艱難辛苦を求めし狂人』『最速の異界人』『邪王龍の友』『超オーバーキル』『弱点克服への一歩(聖)』『暗愚の屍』
アイテム:存在進化のスクロール、回復のポーション・破邪×1、聖水×20
◇◆◇◆◇
『吸魔』
効果:使用した相手のHPとMPをランダムに吸収する。使用時にMPは消費しない。持続時間は15秒。持続時間が切れると30秒のクールタイムを挟んだのち、再度使用可能。
・・・
《『繧ィ繝ォ繝■?繧ケ』のスキル『魔ヲ統ベル者』によりスキル『吸魔』に効果が追加されます》
《追加される効果は以下の通りです》
《スキル『吸魔』使用時に、使用者のHP最大値が一定確率で減少する。スキル『吸魔』でMPを吸収した際、吸収したMPに応じて使用者のMPの最大値を上昇させる》
《以上の情報は、『繧ィ繝ォ繝■?繧ケ』の意志により、秘匿されます》
「ふふふ、ディラはどう育ってくれるか今から楽しみじゃのう」
そこには楽しそうに嘯く、漆黒のドレスを身にまとった少女の姿があった。
今回は存在進化の詳細と謎のおばあさん回でしたね。
理菜はアイテムとスキルによってルートを解放していますが、もちろん他の方法も存在します。というかそっちが正攻法です。理菜が異端すぎるんや・・・
最後ので色々察すると思いますが、謎のおばあさんの正体が明らかになるのはそこそこ先の予定です。