王の乱心‐2
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ディラとブレイがスルトアバターと対峙する少し前、ノーリ南口にて。
「そっち行ったよ!」
「わかった!」
「まだ下のも残ってる!」
「まだまだ出てくるぞ!」
「さっきの僧侶何処だ!死んだか!?」
統率も何もない、烏合の衆の新人プレイヤーたちが迫りくる魔物の集団と戦っていた。何故新人プレイヤーたちが慣れていない集団戦をする羽目になったのか。今回引き起こされたワールドクエスト『王の乱心』は初心者であろうが玄人であろうが関係はない。ただ不運なことにたまたま今回のイベント発生地域にノーリが入ってしまっていたからだ。
ただ彼らにとって幸いだったのは、ゲーム序盤にして戦闘経験が積めること、そして出現する魔物の強さがかなり低かったことだ。本来ノーリ周辺に出現する魔物は平均レベルが8と最序盤の街にしては高めなのだが、現在押し寄せてきている魔物のレベルは2∼6。高くても8という普段のAAOから見たら易しめな難易度となっている。
これはノーリに集まっているプレイヤーたちのレベル平均から決められた値となっている。プレイヤーたちのレベルの平均値はだいたい5となっていて、算出された平均レベルから±3のレベルの魔物が大量発生しているためいくら初心者が溢れていても問題はないはず・・・なのだが、先ほどから戦場の様子がおかしい。
数分前に街の北側から巨大な炎の柱が上がった途端、魔物たちの様子がおかしくなった。炎の柱を見て少し動きを止めたかと思えば、魔物の目が赤く光り、体は肥大化し、目に見えて「強化された」ということがわかる有様になっていた。魔物によっては体が赤黒い炎に包まれたものもいて、魔物たちは圧倒的な強さでプレイヤーたちを蹂躙していた。
「絶対さっきの妙な炎が原因ね」
「ああ、でもこの状況じゃ北門には行けそうにないな!」
南口に集まったプレイヤーで最もレベルが高いプレイヤーがこの2人。イベント前はトルヴァから先に進もうとしていたが、2人の共通の友人がAAOを始めるためノーリにまで迎えに来たらイベントが発生してしまった。最初は低レベルの魔物しか出現しないため、片手間に魔物を片付けることも難しくはなかったのだが、炎の柱が出現してから魔物の強さがアーチ手前程度にまで引きあがったため、この2人をもってしても大量の魔物を退けるのは困難を極めていた。
初心者プレイヤーたちはレベルが低く、デスペナルティが軽微なもので済むためゾンビアタックを仕掛けている状況だが、この2人はそうはいかない。いくら魔物が強くなったとはいえ魔物自身のレベルが引きあがったわけではないため、今戦っている魔物たちに倒されてしまうとなかなかに重たいデスペナルティを喰らってしまう。
「ああクソ!『鑑定』使っても意味ねぇし、どうなってんだこりゃ!」
「一応さっき隙を縫って掲示板の方に情報を流しておいたけど、他がどうなってるかもわからない以上助けは来なさそうかしら」
目の前の魔物を倒しても一息つく暇もなく、また平原の奥から魔物が次々と補充されていく。
「さすがにちょっと疲れたわね・・・」
「ああ・・・ってあぶねぇぞ!」
「え?」
2人組の女騎士が片膝を地面について息を吐いている隙に、いつの間にかすぐそこまで迫っていた猪の魔物が迫りくる。女騎士がダメージを覚悟して歯を食いしばって目を閉じるが、いつまで経っても予想された衝撃はやってこない。
「・・・?」
女騎士が恐る恐る目を開けると、猪の魔物は頭を槍で貫かれピクピクと痙攣していた。
「え、どういう・・・」
女騎士が周りを見回しても、この槍の持ち主は見当たらない。
猪の方に目を向けると、どこからか飛来してきたとしか思えない角度で猪に突き刺さっている槍は、猪を貫通し地面にまで深く突き刺さっていた。いったいどんな力をしていればこんなことになるのか想像もつかない。
「とりあえず助かったってことでいいのかしら」
「そうだな」
「おーい!大丈夫だったかー!」
魔物の大群にと対峙した2人に、その場にそぐわない底抜けに明るい声が飛んでくる。
「「誰?」」
「おいおい誰とは失礼だな?そこのお嬢さんの危機を僕の流星の如き一投で華麗に助けたというのに!」
2人の元に駆け付けた黒髪ロン毛の男は、完全に動かなくなった猪に刺さった槍を軽く引き抜いて2人の前に向き直った。
「改めて、僕はロイン。この街、ノーリの警備隊の一員さ。さっきは驚かせちゃってごめんね?お嬢さんが助かるにはああするしか・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!自己紹介は後だ後!すぐそこにまで魔物が迫ってきてるんだ!」
「・・・まあ確かに。この僕の邪魔をするとはなんて無粋な獣たちだ。ちょっと大人しくしてくれないか」
ロインが怪訝そうな顔でそう言って槍を構え、魔物たちに向かって宙を横薙ぎに斬るとその瞬間、その場一帯に閃光が走り爆発音が鳴り響く。2人はあまりの明るさに目を閉じてしまい、目を開けた頃には数百体はいたであろう魔物たちが肉塊になって辺り一帯に転がっていた。
「ははははは!僕の輝きに目も開いていられないか!かわいい子たちだ!」
「何人かプレイヤーも巻き込んでそうだな・・・」
「どういう技なのよこれ・・・」
ロインが魔物を大量に殺したため少しは勢いがマシになるかと思ったが、逆に魔物たちは激昂し3人に向かって襲い掛かってきた。
「来るぞ!」
「で?君たちはなんていうんだい?お嬢さんとお兄さんでは長すぎるんだけど」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「いや、大事なことさ。戦闘中に舌でも噛んだら一大事だ」
「ああもう!わかったわよ!私はイムよ!」
「そうか、よろしくイム。で、そっちの君は」
「俺はキリ番・・・いや、キリでいい」
「イムにキリだね?よろしく、2人とも」
ロインは長い黒髪をかき上げて不敵に笑う。
「ここまでの大群を相手にすることはなかなかないからね!思う存分楽しもうじゃないか!後ろでビクビクしている君たちもだ!さあ!」
ロインがそう言うと、後ろで控えていた大勢のプレイヤーの肩が跳ね上がる。それもそのはず、後ろで見ているだけだったプレイヤーの多くは「(あの3人でどうにかなりそうだな・・・)」と傍観しているだけで積極的に戦闘しないどころかサボってさえいたのだから。
「こんな楽しいことを見ているだけで終わらせるなんて許さないよ!楽しいことはみんなで共有しないとだからね!!」
ロインはそう言ってプレイヤーたちの元に駆け寄り、プレイヤーたちの胸ぐらをつかんで迫る魔物たちの目の前まで投げ飛ばした。
「あー、お前たち、運が無かったな。お前たちが誰かは知らねえけどあのロン毛の気が済むまでの辛抱だ」
「これ、私たちいるのかしら」
「さあな。まあいい経験と割り切ろうじゃないか」
というわけでイベント回2話目でした。
どうやらスルトアバターが出したであろう炎の柱が原因で襲い来る魔物さんたちは凶暴化しているようです。ちょっと強い2人組には、なんか変なのが駆けつけたので問題ないでしょう。
次回も別視点の予定ですがもしかしたら理菜視点かもしれません。半々です。
今回、実験的に三人称視点で書いてみました。三人称視点って案外難しいですね・・・




