王の乱心‐1
ご高覧いただきありがとうございます。
結論から言うと大丈夫だった。こっちのことをチラチラと見てくるプレイヤーはちらほらいたけど、これまでみたいに親の仇かってくらいに追いかけてくる人はいなかった。これだよこれ、こういうのでいいんだ。
他の街と同じように街には普通の市民はほとんど残っていなかった。ただ1人、残っているNPCの中に興味深い存在がいた。他のプレイヤーからは『チュートリアルおじさん』と呼ばれているらしく、その名の通りノーリに降り立ったプレイヤーにこのゲームの基礎を教えてくれるらしい。
期せずしてそんなチュートリアルおじさんをすっ飛ばした私が話しかけるとどうなるか試してみたところ、「君に教えることはもう無いようだ!」とサムズアップしながらすごくいい笑顔で言われて何も言えなくなってしまった。
これは私だけがそうなっているわけではなく、掲示板を見る限りすべてのチュートリアルを終えた人はみんなそう言われるらしい。「AAOにおいて唯一話すことが固定化される希少なNPC」や「この世界が仮想現実だと思い出させてくれる気付け薬」として一種の名物にもなっているそうな。
完全に忘れてたけど、私がこれまで関わってきた人(?)たちはみんなNPCなんだよね。いっその事「実はこのNPCは人が操作してました~」と言われる方が腑に落ちるくらいにはみんなNPCっぽくない。
その後、ノーリの中をウロウロしていると街に鐘の音が鳴り響いた。夜の7の鐘だ。
「いよいよだね」
「キュ~」
外套の中のヴィオが私を見上げてくるけど、君はここでは外に出せないんだ!すまねぇ!・・・あ゛ぁ゛!そんなに可愛い顔してもダメだよ!メっだよ!
《ワールドクエスト『王の乱心』を開始します》
《ノーリ、アーチ、ツヴァイ、王都にて大量の魔物を確認しました》
《プレイヤーは各自、NPCと協力しながら魔物の殲滅にあたってください》
私はアナウンスが鳴り響いて少し時間を置いてから街の外へ出ていくことにした。アナウンスが鳴ったタイミングで出て行ったらプレイヤーだってバレちゃうしね。
プレイヤーが粗方外に出て行った街は静まり返っていて、数時間前までは大勢の人が行き交っていたとは考えられない程に静寂に包まれていた。
しばらくすると、北の方に炎の柱ができていた。誰かが火炎魔法でも使ったっぽい、なんて物騒な。
「そろそろいいかな」
なんとなく街の東門から外に出ると、目の前に隼みたいな魔物さんが迫ってきていた。『看破』で名前とか見たかったけど、そんなことしている暇はなさそう。だってもう目と鼻の先まで魔物さんが迫ってきてるし。
「そこのお前!危ないぞ!」
遠くの方から何か聞こえたけど、特に気にすることなく予めインベントリから出していた細剣で魔物さんを突く。すぐそばまで迫ってきてたから脳天を貫くことはできなかったけど、片翼の翼膜に大穴が空いたからもう飛べないんじゃないかな。
「クルルルル・・・」
翼に穴を開けられて地面に落ちた魔物さんは力なく鳴いている。瀕死だけど『看破』くらいは使・・・
「どおりゃあ!」
・・・う前に突然現れた皮鎧のおじさんによって魔物さんの首が断たれた。うへー、描写の設定変えてないとこんなにリアルに断面が映されるんだ。この設定を切り忘れて強制ログアウト喰らった人が何人もいるって掲示板で見た。NEXT社さん、力の入れどころが若干ズレてる気がします。
っていうか!『看破』を使おうとしたのに邪魔された!『鑑定』とか『看破』のスキルは使う対象が死んでしまうと無効化、というか使えなくなる。
「危ないと思ったが、アンタ1人でも問題なさそうだったな」
皮鎧のおじさんがいい顔でそんなことを言ってくる。あれ、この人って・・・
「いえ、助かりました。あなたは?」
「俺はノーリの警備隊長のブレイだ。平民だから姓はねェ」
おお、やっぱりNPCだ。明確な証拠とか理由があるわけじゃないんだけど、なんとなくNPCっぽいと思ったんだよね。
「それよりアンタはここで何を?」
「大変なことになってそうなので加勢をと思いまして」
「そりゃあありがてぇな。こっちは兵が足りてるが、北の方がまずいことになっているそうだ。俺は今から北に向かおうとしていたんだが、お前も来てくれるか」
「もちろん」
ブレイさんは私の返事にニカっと笑うと街の中に戻って北の門まで案内してくれた。身長差とか諸々のせいで子どもを連れて行ってるみたいな絵面になってそう。街に誰もいなくてよかった。
北の門から外に出ると、そこには地獄という言葉がよく似合う光景が広がっていた。周囲に生えていたであろう木や草は焼け落ち、石で舗装された道は熱で融解してマグマの水溜まりという言葉が似合うようなザマになっていた。私は平気だけど、ブレイさんが息苦しそうにしているところを見るに空気も悪いのかな。
「なんなんだこいつは!」
声がする方を見ると、10人程度の人が燃え盛る人型のなにかと戦闘していた。あいつが北の門周辺をぐちゃぐちゃにしたっぽい。
「なんなんだアイツは・・・この距離でも皮鎧が焦げちまってんぞ」
人型のなにかの周りをよく見てみると、地面のあちこちに金属製の兜や鎧だったものが転がっている。どれもドロドロに溶けてしまっていて原形をとどめていない。ついでに地面に人の形をした焦げ跡がついてるんだけどこれはそういうことでいいのかな。いくらグロ表現を自分で調節できるとは言ってもこのゲームが全年齢対象でいいの・・・?
そうこうしているうちに人型のなにかは周りを囲っていたプレイヤーらしき連中を一蹴していた。何人かは生き残ってるけど半分以上消し炭になってしまった。
「始まりの街にこんな奴が出るなんて聞いてねぇぞ!」
「どうやって勝てってんだこんなバケモン!」
そう叫んでいるプレイヤーらしき人たちに人型のなにかは燃え盛る拳を振り下ろす。
「『闇撃』!」
拳が振り下ろされる前に『呪法』を乗せた『闇撃』で人型の体を後方へ弾いた。まあわかってはいたけど全然元気そうだね。
「な・・・誰だ?NPC?」
「黒マント・・・?もしかして噂のしょうn」
はいそこまでー。あんまりうるさいのも嫌だから生き残りの人たちには死んでもらった。発言的にプレイヤーだとわかったから容赦はしないよ。細剣で頭を貫かれたプレイヤーたちは光の粒子になって空高く昇って行った。ばいばい。
「よかったのか?まああれじゃ盾にもならなかったが・・・」
「いいんです。彼らは死んでも死なないので」
「ん?ああ、異界人とかいう連中か」
そう言ってブレイさんは所々焦げている皮鎧を脱ぎ捨てて背負っていた大剣を構える。この人型のなにかを見て逃げ出さない時点で普通のNPCじゃないんだろうなと思ってたけど、また変な人と関わっちゃったかもしれない。
「さて、お前さんはコイツを倒せると思うか?」
「さあ・・・」
とりあえず相手のことが何も分からないんじゃやりようがないし、『看破』使おう。ヘイトは・・・知らない。盾役なんていないし。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:スルトアバター
Lv:52
HP:17709/19999
MP:4999/4999
スキル:「獄炎魔法Ⅱ」「岩石魔法Ⅶ」「頑健」「魔装」「轣ス遖阪?蟾ィ莠コ」
『頑健』
効果:被ダメージを2/3に軽減。
『轣ス遖阪?蟾ィ莠コ』
効果:???
◇◆◇◆◇
というわけで第1回イベント回でした。
理菜はよくわからないけど強そうなNPC、そしてボスっぽい敵と遭遇しました。これまでのやばそうな敵とは違ってまともに『看破』が通りましたが、果たしてどんな敵なんでしょうか。
次回は別視点を予定しています。
この話が投稿されるのと同じくらいに活動報告を投稿していると思います。時間がある方は見てやってください。ただ、このお話とはあまり関係ない投稿者の自己満足なので気を付けてください。




