始まりの街へ
ご高覧いただきありがとうございます。
2/12 誤字報告ありがとうございます。
翌日の昼前、宿屋からこっそり顔を出して外を見るとそれはまあとんでもない量の人が。今のところ王都って攻略最前線のはずなんだけどこんなに人が集まるとは。改めてAAOというかNEXT社の人気を思い知った感がある。
それでだ。これだけ人が増えたとなると、その分私がプレイヤーの目に留まる機会が激増するということでして。外に出るたびにあんな目に合うなら王都から離れようかななんて。
「そうでもしないとイベントどころじゃないしなぁ・・・」
イベント内容としては「結界がなくなるから押し寄せてくる魔物倒してね」的な感じだと思うんだけど、それが王都のみなのかそうじゃないかで話は変わってくる。この王都に来るまでの街である、ノーリとアーチとトルヴァもイベント範囲に含まれているなら私にもチャンスはある。始まりの街なら初心者も多い、つまり私のことをまだ知らない人も多いということになる。
ただここで1つ問題なのが私はアーチ以外に行ったことがないということ。だって初っ端王龍さんのところに飛ばされてその後はヴィオだよりだったわけだし・・・まあ最悪アーチからノーリまで歩けばいいんだけども。
昨日王都に居たNPCなら別人だと思われるだろって?残念ながら私はプレイヤー間で『訳の分からない効果を持ったポーションと調合スキルを持ってる上に、後衛とはいえ最前線プレイヤーの鑑定を弾くだけでなく一撃で殺してテレポートまでできる謎のクソ強NPC』ということになっているため何をしてもおかしくないと思われている。後半は私じゃないですー!この子がやりました!この子です!
「キュ?」
かわいい・・・じゃなくて。まあヴィオは何も悪くない。私を守ってくれただけだし。
そんなわけで王都から離れようとしているわけなんですけども、どうやら王様が今回のイベントの概要を説明してくれるらしいから人目に付かないところで身を潜めています。王様ってそんな易々と人前に出ちゃいけないと思うんだけどどうやってプレイヤー全員に説明するんだろう。
《トゥーリ王国国王よりプレイヤーに向けてメッセージが届いています》
なんて考えてたらメッセージがきた。え、文面?と思ってメッセージを開くと、手のひらサイズの髭を蓄えたおじさまのホログラムみたいなものが宙に表示された。おお、なんて世界観に似つかわしくないんだ。
『トゥーリ王国に降り立った異界人よ、喜ぶがよい。我が貴様ら野蛮な者どもに相応しい戦場を用意してやろう。ノーリ、アーチ、トルヴァ、そして王都の結界を今日の夜の7の鐘より解除する。結界を解除した瞬間、無数の魔物共が押し寄せてくるであろう。それを全て掃除するのが貴様ら異界人の役目だ。精々死なない程度に励むがよい。もっとも、貴様らは死んでも死なぬらしいがな』
なんか嫌な王様だったね。貴族を知らない人間が想像する貴族をそのまま具現化したような人だった。まあ、貴族というか王族なんだけども。
それにしてもあの憎たらしい王様からどうやったらあんなに可愛らしいお姫様が生まれてくるのやら。王妃が余程いい人だったりするのかな。
それでイベント内容だけど、これは予想通りだったね。街に押し寄せてくる魔物の軍勢を倒しきればいいというタワーディフェンス形式。タワーディフェンスだとWAVEで別れてたりするけど、このイベントの明確な終わりってどうなるんだろう。王様は殺し尽くすとか言ってたけど、文字通り魔物さんを一匹残さず倒しきったらいいのか、それとも魔物さんを率いているボス的なものがいて、それを倒せばいいのか。まあこれに関してはやっていればそのうちわかることだしいいかな。
それで戦場よ!戦場!これまでプレイヤーが通ってきた街が対象みたいで、ノーリもバッチリ対象になってた。ノーリの住人には悪いけどこれは嬉しい。
「じゃあ早速アーチまで行こうか、ヴィオ!」
「キュキュウ~!」
しっかりと周りを見て誰もいないことを確認してからヴィオに転移を使ってもらう。もうヴィオ無しじゃ生きていけない体になっちゃったかもしれない。変な意味でなく。
「・・・」
・・・
アーチに着くと、住人の人たちが目まぐるしく移動してた。理由はわかり切ってるけど一応門番の人に話を聞いてみると、案の定イベントのせいだった。生まれ故郷や別の街に一時的に避難するらしく、アーチの住人はギルドの責任者や兵を除いてほとんど街から避難してしまうらしい。物資補給はどうするのかと聞いたら一応国が抱えている商人をそれぞれの街に送り出すらしい。これは「プレイヤーは金払えよ」という運営からのメッセージなのかもしれない。
門番の人にノーリまでの道を聞いてアーチを出る。道を歩いていると、時々魔物さんに絡まれるけど特に問題はない。序盤の方というだけあってレベルが一桁の魔物さんもいるからほんとに弱い。まあ私はレベルが無いんですけども。いつになったら私はレベルアップの感動を得られるんだろう・・・
「お、これがノーリかな」
魔物さんに絡まれながらのんびり歩いていると、マップの端っこの方に街らしきマークが表示された。街の方向からいくつも乗合馬車が出ているところを見るに、ノーリでも避難が進んでるっぽい。今は午後4時過ぎだから皆焦ってるんだろうね。ちなみに王様が言ってた『夜の7の鐘』って言うのは午後7時のこと。AAOでは朝と夜の鐘で分けられててそれぞれ12の鐘まである。まあ午前と午後で鐘の数字が時間ってことだね。
そういえば、公式サイトに載ってたイベントストーリー?みたいなものによると街に張られている結界は魔物を寄せ付けない的な説明があったけど、私とヴィオが普通に街に出入りできてるのはなんでなんだろう。別に街に入るときに嫌な感じはしなかったし、そもそも結界なんてものはお爺さんの話で昨日初めて知った。
「見えてきた見えてきた」
少し目を凝らせばノーリが見える距離になった。ノーリはアーチとは違って、壁で囲われているわけでもなければ特段大きいわけでもない。平々凡々としたごく普通の村って感じだ。そりゃ始まりの街だもんね、そんなものか。
そろそろノーリに到着するわけだけど、本当に大丈夫だろうか。どこかで服を買って着替えるのもありか?と思ったけど、私はこの外套を脱ぐともれなく一瞬で蒸発してしまうことを思い出した。別に脱げないわけではないんだけど、脱ぐと瞬きの間に命が尽きるというプチ呪いの装備みたいなことになってしまっている。
この外套の見た目をどうにかできれば私を追う面倒な連中の目を欺くこともできるんだよねぇ。でもこんなイカレた性能の装備をどうにかできる人がその辺に転がっているとも思えないし。ペシャスさーん!へるぷみー!
「最悪街の外で待機かな・・・」
一抹どころじゃない不安を抱えながらノーリの街へと足を踏み入れた。
というわけで理菜の移動回でした。
もう王都にはいられねぇ!ということで若干の賭けをしてノーリへと理菜は向かいました。果たしてこの判断が吉と出るか凶と出るか。
次回は掲示板回を予定しています。理菜を取り巻く環境が若干変化するかも・・・?




