嵐の前の静けさ
ご高覧いただきありがとうございます。
あれから追加の襲撃が来たりとかいうことはなく、いたって平和なお姫様とのお忍び視察を楽しんでいた。そんなお姫様は1度見られてしまったからという理由で服を変えている。と言っても商業区にあった古着屋で少し大きめの上着を買って、髪を横に流すワンサイドダウンにしただけではあるけど。古着屋で着替え終わって「ど、どうかしら。似合っている?」と少し不安げになっていたお姫様は実に可愛らしかった。
ちょくちょくクエストリストを確認すると、今現在で『進捗率49%』ってなってるし時間経過で達成率がじわじわ上がっているところを見るにただのデートイベント的なものだったりするのかな。でもこの前に見た特殊イベントの説明がめちゃくちゃに不穏だったから、気が抜けないのもまた事実なんだよね。そして今現在も非常に気の抜けない状況になってしまっている。
「あのー・・・お姫様?」
「・・・」
何故だかさっきからお姫様に無視されてしまっている。膨れ面で早足で前をトコトコ歩くお姫様はとっても可愛いんだけど、何故こうなってしまったのかまるでわからない。これではイベントの進捗に影響が出るし、何よりお姫様に無視され続けるのはシンプルに悲しい。
「何かお気に障りました?」
「それよ」
「え?」
「その話し方が気に入らないのよ。ディラは私の従僕でも家来でもないのに、そんな畏まった話し方されるのは嫌なの」
どうやら私の敬語がお気に召さなかったらしい。
「でも一国のお姫様に不躾な態度を取るのも違うかなって・・・」
「その呼称もよ。私にはちゃんとアリアーナっていう名前があるの」
あーこれ見たことあるやつだ。立場だけ見られてて誰も自分自身を見てくれない的なよくあるアレだ。どうやらお姫様は思春期真っただ中っぽい。
「ディラは私の友人なんだから!そんな呼び方は許さないわよ!」
「・・・私ってお友達だったんですね」
どうやら知らぬ間にお姫様にお友達認定されていたらしい。嬉しいやら恐れ多いやら。
「これからはアナって呼んでいいわよ。この愛称は家族にしか許していないんだから」
おっとこの流れはもしや・・・
《称号『アリアーナの友』を取得しました》
やっぱり。これまで王龍さんとお姉さんの同じような称号をゲットしてるけど、いまいち基準がわからないからNPCごとにラインが違うんだろうね。お姫様の場合はアナっていう愛称呼びが許されたら取得みたいな感じっぽい。それとも隠しパラメータに親密度的なものがあるんだろうか。それじゃギャルゲーだけどね。
なんて考えているとメッセージウィンドウが目の前に出てきた。なんだなんだ。
▶『アナ』と呼ぶ
▷『アナ様』と呼ぶ
何かギャルゲー始まったんだけど。噂をすればなんとやらって言うけどここまで早いとは思わなかった。これ明らかに今後のお姫様との関係に関わってくるやつだよね。友って言ってるくらいだし、様付けはさすがに選ばないかなぁ。
というわけで上の選択肢を選ぶ。この名前呼びイベントはどちらかを選択した時点で対象のNPC・・・つまりお姫様には、私が「アナ」と呼びかけたことになってるっぽい。だって私は何も言葉を発していないのにお姫様満面の笑みだもん。うん、かわいい。
《目標が更新されました》
んん?メッセージウィンドウが突然出てきたけど何のことだろう。目標?多分今のイベントのことなんだろうけど、そんなもの最初からあったっけ。
クエストリストを開いて『お転婆王女の戯れ』のタブを開いてみると『New!』のマークと一緒に『目標』というのが表示されていた。ここまで見たことが無かったからよくわかんないんだけど、もしかしてさっきまで別の目標がここに表示されていたってことなんだろう。今目標の欄には『広場に向かう』と表示されていた。広場ってあのメインストリートに通じてる広場でいいのかな。
お姫様を伴って広場に向かうと、教会っぽい建物の前に何やら人だかりができていた。建物の扉の前で白で統一された防具を身に纏っている騎士っぽい人たちが人だかりを抑えている。物売るってレベルじゃなさそう。
「何かあったのかしら」
お姫様は難しい顔をして人だかりを睨んでいる。
「少しだけ近づいてみますか。私から離れないでくださいね」
お姫様は無言でこくりと頷いて私の手を強く握る。
「どうなってるんだ!」
「説明しろ!」
「早くしないと魔物が・・・!」
「聖女様はどうした!」
・・・どういうこと?この教会で何か不祥事でもあったのかな。説明とか『聖女』とか言ってるし、なんか不穏だなぁ。あ、誰か出てきた。
「皆様、どうか落ち着いてください。この事態は教会側もついさっき把握したばかりで皆困惑しております。明日、お触れが出ないならば私から王へ奏上いたします。この身は結界を張る以外にはそれくらいにしか使えないので・・・」
「聖女様のせいではないのか」
「でも安心なんてできないぞ」
「王は何を考えているんだ・・・」
「王都が魔物で溢れたらどうするつもりなんだ!」
んー、なんかやばそうなイベント起こってんね。結界だとか魔物だとか、聞こえてきた言葉だけでも関わりたくないオーラが滲み出ている。でもこれって今やってるお姫様イベントの一部っぽいよねぇ・・・当事者だけど逃げちゃだめですか。あ、ダメ?そうですか。
・・・ん?なんか今視線感じた。確かに人目を集めやすい恰好してるのはわかってるけどなんかず~っと見られてる気がする。
視線が気になってキョロキョロしているとお姫様が繋いでいる手をくいっと引いてきた。
「どうしましたか?」
「今日はここまでみたい。ここで何が起こっているのかは後日お父様からお触れが出るから」
どうやらお姫様は何が起こっているかわかるらしい。無理に聞き出そうとしてもお姫様の物言い的に無理なんだろうな。
《目標が更新されました》
またアナウンスがきたからクエストリストから確認すると、目標の欄が『アリアーナ・ギュルヴィ・トゥーリを王城へ帰す』というものになっていた。ここでデートも終わりらしい。
「わかりました。ではまた人目のないところまで行きましょうか」
・・・
あの後、お姫様が誘拐されるみたいなテンプレイベントが起こることもなく、無事にヴィオの転移で元居た中庭に戻ってお姫様はお城の中へ消えていった。
後日どうこうって言ってたし、私も去るべきなんだろうな。街の人に事情を聴きたいからさっさと出てしまおう。
それにしてもどれだけ厄介なイベントを踏んでしまったんだか。どうか私の存在が他のプレイヤーに露呈されるみたいなことだけにはならないでほしい。切実に。
「あ~、忘れてた。さすがに掲示板に投下はしておいた方がいいかな」
多分だけどこのまま大きめのイベントに繋がりそうだし、このまま何もしないのもねぇ?結局今の今まで掲示板を見たことはないけどこのゲームの民度ってどうなってるんだろう。
・・・
117:名無しの異界人
なんか私が踏んだフラグで明日辺りから大きめのイベントが起こりそうだからお知らせしておきます。イベント内容は私もまったく知らないのでいくら聞かれても答えれません
というわけで教会&聖女回でした。
本文中にちらほら書いてありますが、ようやくオンラインゲームっぽいことが起こります。ゲーム要素薄くてごめんよ・・・
お久しぶりです、投稿者です。ちょっとした事情で一月近く投稿を開けてしまいましたが、神に誓って失踪はいたしません。死んでも完結させます。




