追跡者
ご高覧いただきありがとうございます。
今回は本編中に視点移動があります。☆★☆←これの後から視点が変化します。
お姫様に手を引かれて路地を抜けると、そこは沢山の人が行き交う大きな街路だった。マップを確認すると、『トゥーリ王国王都メインストリート』と表示されていた。そこら中を商人っぽい人とか、白金の鎧を着て腰に剣を携えている人とか、貴族みたいな恰好の人が歩いている。中世ファンタジーって感じだ。
マップによると、このまま右に真っすぐ進むと貴族街があってその先にさっきまでいた王城が、左に進むと広場があってそこから住宅区や商業区、工房区に分かれてるらしい。
「すごいわ・・・これが市井なのね」
私の隣で庶民的な服に着替えたお姫様が街の様子を見て感動してる。市井に出たことが無いって言ってたし、何か感じることがあるんだろうな。
「さあディラ、行くわよ。私はこの国を治めるために、民がどのような生活をしているか知らなくてはならないの」
「さっき言ってたどうしても行きたい場所って街のことだったんですか?」
「いいえ、でも先に王都を見て回りたいわ」
だそうだ。ここで無理やり本来の目的地を聞き出したりして直行するとイベントは進むんだろうけど、間違いなくお姫様の不興を買うだろうしお姫様に付き合おう。クエストリストを見てみると。イベントの欄に『特殊イベント:お転婆王女の戯れ 進捗率35%』と表示されていた。この調子でお姫様の行きたい場所に同伴すればいいのかな。なんかペットのお散歩してるみたい。
「何してるの?ほら、あっちからいい香りがするわ!」
お姫様がそう言って人ごみの中に突撃していくのを慌てて追いかけていく。
☆★☆
王都の商業区を歩く2人の男がいた。どちらも黄金の鎧を身に纏っており、只者ではないことは目に見えてわかる。
「ちょっとNo.3、どこに行くんだよ」
「こっちから気配を感じるんだ・・・」
「はあ?何のだよ」
「お前にはまだわからないかNo.17。あっちの広場の向こうからアリアーナ様の気配がする」
「はあ?まだ王都が解放されて2日だぞ?そんなに早くイベントが発生するわけないだろ」
「それはわかってはいるんだが、βの時と同じ気配がする」
「わかったわかったついていくよ。しかしお前の変態的な第六感は一体どうなってんだか」
2人の男はそのまま王都を進み、メインストリートに到着した。どこを見ても人人人。さながら渋谷のスクランブル交差点といったところだろうか。
「んで?そのアリアーナ様の気配とやらはどうなんだ」
「進むにつれて濃くなっている。この辺りにいるのは間違いない」
「ふーん・・・ん?なんだあの黒マント。自分から不審者ですって自己紹介してるみたいだな」
「黒マント?どこだ」
「あそこだよあそこ。今屋台で串焼きの肉買ってる・・・」
「黒マントと言えばあれだな。商人捜索スレというのが立ち上がってたな。アルスやサンディのパーティに例のポーションを売ったと噂の」
「ああ、あれか。身長や背格好は結構似通ってるし、話しかけてみるか?」
「確認してみるか」
「少し追いかけて・・・ちょっと待て、黒マントと手を繋いで歩いているあの女の子がいる。黒マントのせいで犯罪臭しかしねえんだけど」
「・・・追うぞ」
黄金の鎧を着込んだ2人組のうち、1人がそう言って黒マントの後を早足で追いかける。
「おい、ちょっと待て!いきなりどうした!」
「あの少女からアリアーナ様と同じ気配を感じる」
「はあ?どう見ても違うだろ。そもそもアリアーナ様は金髪だろうが!」
「そんなことはわかっている」
「ほんっっっとにお前は・・・」
☆★☆
お姫様がフラフラと歩いた先に串焼きの肉の屋台があったから、とりあえず1本買ってどこかゆっくりできる場所を探してるんだけど・・・なーんか尾けられてるんだよね。金ぴかの無駄に派手な鎧を着た2人組の男がガチャガチャうるさい音を立てながら私たちの後を追ってきている。お姫様によると近衛とかの王に仕える騎士やお姫様の従騎士はあんな鎧じゃないらしいし、シンプル不審者なんだよね。さっさと撃退したいんだけど、さすがにお姫様や街の人が見ている状況で刃傷沙汰は起こしたくない。
「お姫様、ちょっと失礼しますね。しっかり摑まっていてください」
「え、なに・・・きゃあ!」
「このまま路地裏まで行きます」
無礼を覚悟のうえでお姫様を左手で抱き抱える。最初は混乱して少し暴れていたけど、私たちを追う男たちに気付いたのか大人しくなった。
「少しだけ目を閉じていてください」
お姫様がコクコクと頷いて目を瞑ったのを確認して背後にいる人の男に向き直る。
「で、何か御用ですか」
「いや、その、用というかだな」
私たちを追ってきた2人組は、黒髪の大男と中肉中背の犬耳のついた男だった。どっちも趣味の悪いギラギラの黄金色の鎧を着ている。
「少し聞きたいことがあってな。俺たちは手荒な真似はしない」
「・・・そうですか。なんでしょう」
「まずあんたのことなんだが、掲示板・・・いや、わからないか。噂で知ってな。なんでもアンデッドに凄まじいダメージを与えるポーションを売っている商人がいるって噂だ。それがあんた本人のことなのか知りたくてな」
なるほど、こいつらはプレイヤーか。でも魔除がそんなに大層なものだとは思わなかった。私はあれがないと生き延びるのが困難だったから、最初の街で売ってる薬草程度のものだと思って使ってたけどどうやらそうではないっぽい。あのパーティに適当に在庫売ったの失敗だったかな。
「そうだとしたら何なんですか」
「だー!俺たちは危害を加えるつもりは無いって言っただろ!その物騒なモンをしまってくれ!」
「そうですか。で、話はそれだけでしょうか」
「いや、もう1つある。あんたが抱えているその少女なんだが、少し顔を見せ・・・は?」
黒髪の男が話を終える前に細剣をもう一度抜刀して胸に突きを放つ。もちろん『呪法』のおまけ付きで。なんでプレイヤーがお姫様のことを知ってるのかわからないし、もしかしたら向こうは向こうで何か依頼を受けてるのかもしれないけど、私もイベント中だし邪魔者は容赦なく殺す。
黒髪の男が立ち上がってくるのを警戒していると、黒髪の男は地面に倒れ伏したまま光の粒子になって消えた。おお、プレイヤーが死ぬとこうなるんだ。というか一撃で死ぬんだ。駆け出しの人だったのかな?
「な、No.3が一撃で・・・?」
私に攻撃することなく狼狽えていただけの犬耳の男には『呪法』を乗せた『闇波』を放ってみた。直撃は避けれたみたいだけど状態異常で苦しんでたから、黒髪の男と同じように胸を突くと光の粒子になって消えた。
《熟練度が規定値に到達しました》
《スキル『細剣術・致命』を取得しました》
《称号『情け無用』を取得しました》
お、なんかスキルと称号ゲットした。じっくりチェックしたいけど今はお姫様優先かな。
「大丈夫でしたか?」
「問題ないわ、ありがとう。カッコよかったわ、ディラ!」
お姫様の無邪気スマイルが眩しい!でもやったのは人殺しだからそんなに誇れないんだけどね。
「じゃあメインストリートに戻りましょうか」
というわけで初めてのプレイヤー戦回でした。
理菜初めての対人戦でしたね。お話にならなかったですが。ちなみに理菜の相手をしたNo.3というプレイヤーは1度登場しています。




