不法侵入
明けましておめでとうございます。今年も『白骨少女が逝く』をよろしくお願いします。そしてご高覧いただきありがとうございます。
1/11 誤字報告ありがとうございます
あれから色々あった。何とか脱出できそうなところで衛兵っぽいのに見つかって、城中で追い回されてやっとの思いで衛兵を撒いたと思ったら、次の日には黒マントの人間の似顔絵(?)が街中に張り出されてたり・・・というわけで私、東雲理菜はお尋ね者になってしまいました☆
・・・うーん、どうしてこうなったとは言わないけど、逃げ道を確保してくれなかったお姫様にも非はあると思うんだよね。あれから王都を出てその辺を当てもなくウロウロしてるわけだ。今日があの日から3日後で今は午後3時というおやつにピッタリな時間なのだ。つまりだ、もう約束の夕方まで時間が無い。どうしよう。この特殊イベントとかいうの放ってちゃ駄目ですか?駄目だよねえ・・・
「ヴィオ、ちょっといい?」
ここで私、思いつきました。早速それを実践するために外套の中で胸のあたりにしがみついているヴィオをちょんちょんとつついて呼ぶ。
「キュ?」
「3日前にさ、飛んだあの庭覚えてる?」
「キュウ!」
お、しっかり覚えていそうな雰囲気。それならできるかも。
「あの場所にもう1回転移ってできる?」
「キュウ~・・・」
ヴィオは難しい顔をして考え込んでしまった。ありゃ、これは望み薄かもしれない。
「ヴィオ?無理なら別にいいんだよ?」
「キュ!」
私の言葉に反発するかの如くヴィオはやる気に満ち溢れていた。ほら、目の中に炎が見えるもん。昭和の熱血キャラか何かなのヴィオは。私に頼られて嬉しいのかわからないけど、全身で「俺はできる!」というのを表しているように感じる。不安が無いのかと言えばそりゃあるけど、ヴィオがここまでやる気になってくれてるのを無下にするのもなあという親心もある。それに、このままだとどちらにせよお姫様のイベントには間に合わないからヴィオに頼るのも悪くはない・・・のかな。
「じゃあヴィオ、ママを運んでくれる?」
「キュウ!」
ヴィオにそう言うと、ヴィオが頭の上にドサッと乗ってきて、その衝撃と一緒に例の感覚がやってきた。うん、もう慣れたものだね。
「んん・・・おぉ、あの庭だ!」
相変わらず転移後は霞みがちな目を擦りながら周りを見ると、そこは3日前に不慮の事故で侵入してしまったあの庭だった。生まれて全然時間たってないのに座標特定して転移までできるなんて、いよいよ私の立場がなくなってきたような・・・
「ありがとねヴィオ。誰か来るかもしれないしおいで」
そう言ってヴィオを外套の中に入れて見えないようにしておく。さて、これからどうするかだけど、如何せん約束の時間よりまだ早い。周囲の警備を気にしながら庭の中を移動するけど、お姫様の姿は見当たらなかった。ちょうど今いる場所が低木で囲まれてる場所だからここで寝転んで時間が来るまで待ちますか。
「・・・何者ですか」
それからしばらく経って気持ちのいい日差しでウトウトしてきた頃、急に上から声が降ってきた。驚いて目を見開くと、私の首に短槍を突き付けているメイドの格好をした黒髪短髪の女性がいた。
あー、見つかっちゃったか。この庭の芝生が気持ちいいのが良くない。あんなのに寝転んだらそりゃ眠くなって注意力散漫にもなる。この状況で私ができることは何もないから、大人しく両手を上げて降伏の意を示す。む、隠しているヴィオが外に出ようとしてる。こら、大人しくしなさい。
「ここがアリアーナ皇女殿下の庭だと知っての行いですか?」
へー、ここはあのお姫様の持ち物だったんだ。それは知らなかったけど、妙な手段でお姫様に会いに来たことは事実だしコクリと相槌を打つ。このままだと牢屋にぶち込まれそうな感じだからあのメダルを出したいんだけど、この状況で外套の中に手を入れたら明らかに危ないことしようとしてる奴に見えるからできない。そんなことしようものなら即首を落とされかねない。
「・・・3日前、ここにいたお姫様に招待を受けまして」
「それが罷り通れば法はいらないです。そのまま手を上に挙げて立ち上がってください」
とりあえず話したけどそりゃ信じてもらえないよねえ。こんな全身黒マントの人間が一国の重要人物に用があるなんて言っても誰が信じてくれようか。どうしようものかと考えていると、メイドさんの握っていた短槍が私の首筋を撫でた。ひゃ、ゾクゾクする。
「いいから立ち上がってください。・・・というかその姿、お尋ね者の黒マントとそっくりですね」
だよねえ・・・このお城から騒ぎになったんだから当然知ってるよねえ。このまま事情聴取とかもなく即処刑とかだったらどうしよう。プレイヤーだけどリスポーンした後に何かペナルティでもつくのかな。
私はメイドさんに手枷のようなものをしっかりとはめられた。まさかゲームでこんな体験をすることになろうとは・・・これが現実なら末代までの恥だよ。
「大人しくついてきてください」
「ちょっとシンシア!私のお客さんになんてことしてるのよ!」
ああ、救いの声だ。私をこの窮地から救ってくれるお姫様の声がする。
「アリアーナ様、この者は・・・」
「コウモリさんは私が招いたのよ!ほら、早く手枷を外して!」
メイドさんが私の手枷を外して両手が自由になる。
「大変申し訳ございません。アリアーナ様の客人にこのような無礼な振る舞いを・・・私の首1つで収まる怒りならばどうか今すぐ処断を・・・」
メイドさんは綺麗な佇まいを崩すことなく流れるような動きで額を地に押し付けた。これってあれ?ジャパニーズドゲザってやつ?
「いやいやいや!不法侵入したのは私の方ですから!だから、だから土下座はよしてください!」
「しかし・・・」
「コウモリさんがこう言っているのだから、今は退きなさい。追って沙汰は下すわ」
「はっ」
メイドさんは恭しくお辞儀をして姿を消した。・・・ここ、天井とかないのにどうやって忍者みたいに移動したんだろう。
「ごめんなさいね、あの子ったら昔から頭が固いの。どうか彼女を許してあげて」
「私の入り方にも問題はあったので、お互いさまということでメイドさんも許してあげてください」
そりゃ普通主人のプライベート空間で見ず知らずの怪しい黒マントが寝転んでたら誰だって捕縛するよ。今回ばっかりは私が悪い。
「あのメダルは使わなかったの?こういうことになるだろうから先んじて渡しておいたのだけれど」
「気が付いたらあのメイドさんに槍を首筋に突き立てられてまして、その状態で懐に手を突っ込みなんてしたらすぐに私の首が物理的に飛ぶと思ったんです」
「うふふ。それは正解かもしれないわね」
「それじゃあ、こっちへ来てくれるかしら。大丈夫よ、今はこのことを知ってる者しかいないわ」
お姫様に手招きされて茂みの向こうに出ると、そこにはお茶菓子が並べられた何とも上品な空間が広がっていた。うわ、ま、眩しい。別に何か発光する物があるわけじゃないのに光り輝いて見える。
「じゃあ向かいにお座りになって」
「は、はい」
今私は一国の王女様にエスコートされてるわけだけど、何か粗相でもしたらと思うと若干手が震える。小説でお嬢様世界に転生・・・なんて話はよく見るけど、なんで主人公たちはあんなにすんなりと馴染めるんだろう。私には絶対に無理だ。
「まあ、そんなに緊張なさらないで。別に貴族同士のお茶会をしているわけではないのだから」
「え、えっと・・・それで、私に用っていうのは」
「うふふ、要件って程重たいものではないのよ、言ったじゃない『また遊びましょう』って。じゃあ何から話そうかしら」
というわけでお姫様の庭に不法侵入回でした。
こういう言葉遣いの人を登場させると、執筆速度がガクンと下がってしまいます。お嬢様転生系の作者様方は本当にすごいと思います。
というわけで3章開始です。何が起こるかはまあ数話前で察している方もいるのではないでしょうか。




