初めてのプレイヤー
ご高覧いただきありがとうございます。
森を出て、遠くの方に見えた街っぽいものを目指してのんびりと平原を歩いていた。一応森から少し離れた位置に街まで続く道みたいなのがあったけど、極力人と会うリスクは遠ざけておきたい。なんて考えながら歩いていると、私の前に数匹の狼さんが出てきた。
「グルルルル・・・」
「地上初めての魔物さんだね」
特に迷うことなく『看破』を使う。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:猟狼
Lv:18
HP:581/581
MP:0/0
スキル:‐
◇◆◇◆◇
「よっわ」
なんだこれ、いくら複数体いるとはいえ弱すぎるでしょこの狼さんたち。しかもスキル無しってよく今まで生きてこれたね。いや、慢心はよくない。これまで相手にしてきた魔物さんたちより弱いといっても、私よりはHPが多いわけなんだし思ってるよりも強敵かもしれない。心して相手しないと。
・・・と思ってたんだけど、やっぱり弱い。狼さん同士でそれなりに連携はとれているんだけど、別に目で追えない程じゃないから攻撃を簡単に受け流せる。試しに狼さんを一匹細剣で突いてみたら急所でもないのに一撃で倒せちゃったし。うーん、まだ序盤の街なのかな?でもレベルは相応に高いんだけど。
そのまま何かスキルが得られないかと思って狼さんたちの相手をダラダラやっていると、街の方から3人くらいの人がこちらに向かって走ってきた。え?まさか目当てはこっちじゃないよね?
「大丈夫かーーーー!!!!!!」
ああ、こっちに来てるね。アレは。プレイヤーかどうかわかんないけど、とりあえずヴィオには外套の中に隠れてもらって少しでも面倒事が起きないようにする。どうしてこうなったかなあ、さっさと狼さん倒しておけばよかった・・・
「間に合った!無事か?」
「まあ、はい」
私の元に一番早く駆け付けたのは上裸の筋肉質な男だった。何で上裸なんだろう。防御力0じゃん。
「おい!せめて足並みを揃えろ!何かのイベントかもしれないだろ!」
「そもそも僕らが来る必要あったかなあ?この人強そうだよ?」
上裸の男の後を追って2人の男が駆けつけてきた。弓とメイスを持った細身の男と身長が控えめの男の子だ。恰好的に狩人と聖職者って感じかな。それと発言的にプレイヤーだねこいつらは。一応人助けで来てくれてはいるんだろうけど、イベント狙いって・・・いや、イベントか。なるほど。いいこと思いついちゃったかもしれない。
「それでも凶暴な猟狼の群れに囲まれている人を放ってはおけない!」
上裸の男が拳を振るって狼さんたちを薙ぎ払っていく。その薙ぎ払われた狼さんたちの眉間や胸に細身の男が的確に矢を放つ。おお、いいコンビネーションじゃん。その分聖職者の子は暇そうだけど。
そのまま私が守られた状態で狼さんは殲滅されてしまった。この辺じゃ強いほうの人たちだったりするのかな。そもそもプレイヤーを見たのが初めてだから基準が全く分からない。意地張ってないで掲示板見た方がいいのかな。
「ふう、片付いたな」
そう言って近くの岩に腰を下ろした狩人の男だけど、後ろに狼さんいますよー?はぐれっぽいの残ってますよー?とまあ口に出していないから伝わるはずもなく、狼さんは虎視眈々と狩人の男を狙っている。しかもパーティーメンバーと思わしき上裸と聖職者の子は狼さんに気付いていない。
「危ないですよ」
狩人の男にそう言って『闇波』に『呪法』を乗せて隠れている狼さんに向かって放つ。狩人の男は私の撃った魔法に驚いて岩から飛び降りたけど、『闇波』が岩に当たった衝撃で転んでいた。さて、魔法の通りはいかほどの物だろうか。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:猟狼
Lv:18
HP:72/530
MP:0/0
状態:呪い[毒、麻痺、沈黙、出血]
スキル:‐
◇◆◇◆◇
うーん、まあまあかな。一撃で倒しきれないのは残念だけど、なんか凄い状態異常になってる。これが『呪法』の真価ってことなのかな?呪いって状態異常がどんなものなのか気になってたけど、狼さんの様子を見るに複数の状態異常をランダムにかけるとかそんな感じっぽい。これまた便利なスキルだね。あ、狼さん死んじゃった。
「・・・おい、見たかよ今の」
「うん、こんなに威力のある魔法見たことない」
「あんな魔法撃てる奴なんて最前線にもいねえよ。ナニモンだこの全身コート」
「そもそも魔法って・・・」
男たちがコソコソ話していてよく聞こえないけど、私の方をチラチラ見ながら話してるから私をどうするかでも相談してるのかな。早くあの街に行きたいんだけど。
「あの、どこか行きたい場所があるんですか?」
「え?」
「いえ、頻繁に周りを見ていたので・・・」
男たちを待っていると聖職者の子が話しかけてきた。
「ああ、はい。あの街に」
「あの、良ければご案内しましょうか?」
ええー・・・なんでその結論に至ったんだ・・・?というかもう街見えてるから案内もなにもないし、何より守られるほど私は弱くない。んん?あー、なるほどそういうことね。
「いえ、結構です。それはそれとして、助けていただいたお礼です」
そう言って外套の中に手を突っ込んでインベントリから聖水を1つ取り出して聖職者の子に渡した。奥で細身の男が軽く腕をグッとしていたから報酬が欲しかったんだろうな。イベントがどうとか言ってたし、そういうことなんだろうね。
それはそうと、これでこの男たちは私をNPCと勘違いしていることが分かった。あと私の魔法を見てざわついてたし、何かしら現行のプレイヤーたちとはズレてるんだろう。ならそれを存分に使わせてもらおうじゃないか。私はこの顔がどうにかなるまであんまりプレイヤーと交流したくないから、NPCと勘違いしてくれるならそれは助かる。
「あの、それとあの魔法は・・・」
「ごめんなさい、急いでいるので」
聖職者の子がまだ何か聞きたそうにしていたけど、これ以上話すとボロが出そうで怖いから早々に話を切り上げて男たちから離れる。あの聖水がどんな価値の物なのかよくわかってないけど、雑魚を数体倒しただけだしそれで我慢してほしい。
しばらく早足で歩いて後ろを振り返ると、もう男たちの姿は見えなくなっていた。ストーカーとかされなくてよかった。もう街もすぐそこだし、ヴィオには悪いけどしばらく外套の中に隠れていてもらおう。
街は結構高い壁で囲まれていて、城塞都市みたいな雰囲気を醸し出していた。門番の人に止められないかビクビクしてたけど、特に何事もなく通過できた。ファンタジーものとかでよくある、身分証が無いとぼったくられるとかそういうのも特になかった。なんなら街の名前とかどこに何があるとか親切丁寧に教えてくれた。勝手に悪いイメージ持っててごめんよ。
んで、門番の人によるとここは『アーチ』という街らしく、ノーリの次に来る場所らしい。それで今はアーチでマーケットをしているらしくて、誰でも出品ができるちょっとしたイベントが行われてるそうだ。私も何か出品してみようかなあ。
出品方法に関しては結構メタくて、アーチにいる状態でメニューからタブを選べばどのアイテムを出品するか選んで、出品するアイテムの値段を設定して完了を押せば自動的に市場に並ぶらしい。店番はNPCがしてくれるらしいけど、プレイヤーが店に顔を出すこともできるそうだ。アイテム収集を兼ねた交流会みたいなものだね。
「何か出品できるアイテム持ってたかな」
インベントリを流し見て、何か目ぼしいものはないか探す。お、これなんかいいじゃん。しばらく使わなさそうだし。えーと、値段設定は・・・相場がわかんないし自動設定でいいや。よし、出品完了。誰か買ってくれるかな?
「しばらくは観光してようかな」
というわけでプレイヤー遭遇&アーチ到着回でした。
よくある門番との揉め事はありません。すぐ諍いを起こす人間に門番なんて重要な仕事は務まりません。
次回は別視点となります。




