スタートライン
ご高覧いただきありがとうございます。
12/28 一部修正しました
暗くなった視界が開けると、そこは暗闇だった。う~ん、暗い!何も見えない!
ネリンさんによって理不尽に地上まで飛ばされた私は、どこかよくわからない真っ暗な石造りっぽい部屋に出ていた。ここがネリンさんの言ってた“ある場所”なのかな?
「ヴィオは大丈夫?」
「キュウ!」
ヴィオは完全に定位置となった私の頭の上にしっかりと乗っていた。ヴィオだけがヘルヘイムに取り残されるなんてことが無くてよかった。これでヴィオがいなかったら、指輪使って戻っちゃってたかもしれない。
とりあえずじっとしてても何も始まらないということで、そろりそろりと壁伝いに歩いて扉的なものがないか確認する。
「あれ?」
部屋を壁伝いにぐるりと一周したはいいものの、何もなかった。壁に掘られた模様みたいな手触りはあったけど、外につながるような出入口は見つからない。
「あんまり気は進まないけど・・・」
この部屋がそこそこに丈夫であることを祈って近くの壁に『闇撃』を撃ってみる。『闇撃』が壁にぶつかった音は聞こえたけど、特に壁が崩れるような音はしない。何も起きないかあ。
と思っていたら部屋が急にパッと明るくなった。おお、当てずっぽうも馬鹿にはできないものだね。この世界には電気なんて高度な文明はないから、魔力でそれを補ってるとか公式ページに書いてあったのを思い出して「じゃあ部屋に魔力通したら色々動くんじゃない?」って思いついただけなんだけど、まさか本当にその通りだとは思わなかった。
「おお・・・なんだか遺跡の中って感じがする」
私が転移してきた部屋は、石レンガを積み上げて作ったような模様の壁や天井に生い茂った蔦、そして部屋の中央に魔法陣と「私が遺跡です」と丁寧に自己紹介でもされてるのかってくらいにはイメージ通りの遺跡だった。そういえば、AAOは古代遺跡を探索するのがメインなんだっけ。ここまでがハードすぎて完全に脳内から消え去ってた。じゃあ、私がいるこの場所も古代遺跡の1つだったりするのかな。
「キュ~!」
部屋の中をウロウロしながら観察していると、ヴィオが壁を指さして私に何かを訴えかけてきた。どうしたんだろう、何か見つけたのかな。
ヴィオの元へ行くと、ヴィオが指さしていた壁が少し出っ張っていた。
「え゛~?」
こんなに気の進まない仕掛けが他にあるだろうか。いや、ない。断言できる。これが仮にハズレだとしたら何か私たちを排除しようとする罠が作動するわけでしょ?今度は「私が罠です」って自己紹介しているように感じる。でも他に何か目ぼしい物も無かったし、これを押すしかないってことかあ。はぁ。
「ヴィオ、一応警戒しておいてね」
「キュウ!」
意を決して出っ張ってる壁の一部を押し込む。ガコンという重ためな音が部屋に響くと、壁の模様が目まぐるしく組変わっていく。何これ、何が起こってるんだ。この仕掛けのせいで壁が突然崩壊とかになったら洒落にならないから、できるだけ安全そうな部屋の中央に移動してその様子を見守る。こうしてちょっと遠ざかると、万華鏡みたいで綺麗かもしれない。
それから少しすると、ズンという重い音が響いて壁の異変は収まった。そして私の正面の壁に2メートルはある巨大な出入口?のようなものができていた。その先には通路が続いていて、壁掛けの松明で照らされている。
「どういう仕組みなんだろう・・・?」
色々気になることはあるけど、ヴィオのおかげで道が開けたし先に進んでみる。部屋の中はハイテクだったのに、通路はずいぶんと原始的な方法で照らされてるのには理由があるのかな。
そのまま通路を進んでいくと、めちゃくちゃに長い階段が現れた。上に向かってるはずなのに、先がまるで見えないというまるでヘルヘイムに繋がるあの階段のような雰囲気があった。
しばらく階段を上っていると、階段の先に光が見えてきた。もしかしてこの階段を上り切ったら即地上?そんな、私にも心の準備ってものが必要だというのに。あー、緊張してきた。AAOを始めて初の地上ということもあるし、太陽光で私が消滅しないかという面での緊張もある。
「うわ、もうすぐそこだ」
ついにその時が訪れてしまった。あと階段を10段も上れば私は光の中に飛び込んでしまう。ゆっくり噛みしめながら上るのも悪くないけど、一気に上り切って完全に地上に出た状態で視界を解放したい。
というわけで外套のフードを目深にかぶって足元以外見えないような状態にする。
「ヴィオ!行くよ!」
「キュウ!」
足元だけ確認しながら勢いよく走り出す。階段を飛ばし飛ばしで上って光があふれる方へ飛び出した。うわ、足元の草が見えちゃった。どうしよう、今、どうしようもないくらいテンションが上がってる。足元に草が生えてるってことはここ外だよね?うわ、うわ、周り見ちゃう?ドキドキがすごい、死んでるはずなのに心臓がバクバク鳴ってるのを感じる。ダメージを受けてる感じもないし、じゃあ顔、上げちゃうよ?
「せーの!」
勢いよく顔を上げる。顔を上げた勢いでフードが脱げそうになったのを慌てて直して、改めて私の周りに広がる景色を見る。
「うわぁ・・・綺麗だぁ・・・」
私は少し盛り上がった丘のような場所に立っていて、周りの景色を一望できる最高のロケーションだった。
周りには若々しい緑の木や草、そこから生える木の実やそれを狙う小動物、まさに自然という感じの光景が広がっていた。ああ、これだよ、私はこれが見たかったんだ・・・!そしてこの中を冒険したいと公式PVや配信を見て切に思ったんだ・・・!ようやく、ようやくスタートラインに立てたんだ・・・!
《規定の行動が確認されました》
《マップ機能が解放されました》
AAOを始めて1ヶ月以上経ってからマップを解放したのって本当に私しかいないでしょ。確か他のゲームとそんなに変わらない仕様だったよね。通った場所をマップが記憶する的なよくあるやつだったはず。
「さて、それじゃあ冒険の旅と洒落込もうか!」
「キュウ!」
いやあこんなに胸が高鳴るのは何年ぶりだろう。この先私の前に何が現れるのか楽しみでならない。あとネリンさんとおばあさんの依頼もね。大丈夫、忘れてないよ。万が一、いや億が一忘れたとしてもクエストリストを見れば思い出せる!よし!今は地上を楽しもう!
私が出てきた階段の場所をしっかりマップにマークして小高い丘を駆け下りる。風が頬を撫でる感覚が気持ちいい。本当に外に出て遊んでるみたいだ。
丘の周りには小さめの森が広がっていて、小川も流れていた。まっすぐ歩けば数分で抜けれるような森だけど、そこら中に目移りしてしまってかれこれ1時間は森の中でウロウロしている。ヴィオも最初はテンション高めだったけどすぐに慣れたのか、今はあくびをしながら私の頭の上で寛いでいる。そろそろ森を出ようかな。それと、1時間以上太陽光を浴び続けてどうにもなっていない時点でだいたいわかるけど、一応ステータスも確認しておかないと。
◇◆◇◆◇
称号:セットなし
名前:ディラ
種族:呪狂竜骸
職業:‐
所持金:10000ギル
Lv:‐
HP:275/275
MP:9927/10330
SP:88
装備:瘴石英の細剣、滅聖の外套、瘴気の編み上げ靴、蜀・逡後?鬥夜」セ繧
スキル:「闇魔法Ⅱ」「錬成」「瘴気」「念話(邪)」「看破」「吸魔」「竜の因子」「詠唱破棄」「細剣術・流麗」「細剣術・猛撃」「呪法」「魔装」
パッシブスキル:「冥王の加護」「呪狂竜」
取得称号:『管理繝ウのお気に入り』『艱難辛苦を求めし狂人』『最速の異界人』『邪王龍の友』『超オーバーキル』『弱点克服への近道(聖)』『暗愚の屍』『卑劣』『冥王の友』『呪いと狂気の二重苦』『物好き』
アイテム:存在進化のスクロール、聖水×9、瘴気に染まりし錆びた長剣、英華の宝玉、回復のポーション・魔除×3、呪いに呑まれた邪なる宝珠
◇◆◇◆◇
うーん、やっぱりなんか減ってるよねえ。もうここまで来たら大して驚きもしないけど、なんか減ってるんだよね。原因は何となく察しがつくんだけど、確定しちゃったら私この世界で生きていける気がしない。もう気にしない方がいいのかもしれない。
そうこうしてる間に森を抜けて視界が開ける。遠くの方に人工的な建造物が見えた。どこかの街なのかな?とりあえずその方向を目指してみようかな。
念願の地上回でした。
古代遺跡らしき場所に出た理菜はそのまま地上に出ることができたようです。やったね。
この先理菜にはどのような運命が待ち構えているのでしょうか。
後数話で2章が終わります。この先からようやく人間との交流が生まれ始めます。




