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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
死者の国
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待望の地上へ

ご高覧いただきありがとうございます。


 ペシャスさんの家を後にして、あの後はお姉さんの城に向かって一晩過ごした。さすがのお姉さんもヘルヘイム以外で起きたことは把握できていないらしく、それとなく『ヨルムンガンド』の名前を出したらわかりやすく目を剥いて『その名前は簡単に人前では言わないで』と念押しされてしまった。禁忌的な扱いをしている理由はよくわからないけど、人前でそう簡単に出していいものではないらしい。客室に案内してもらってる時にビュートさんにも聞いてみたけどうまく躱されてしまった。そしてそのままお城で夜を明かして、改めてペシャスさんの家を訪ねた。


「よく来てくれた、もう情報はまとめてある」


 今日もペシャスさんは数回のノックで顔を出してきてくれた。やっぱりこれが平常運転なのかな。ペシャスさんは私を椅子に座らせて、机の資料をまとめている。なんだか沈黙が気まずいけど、私が何を言っても無駄というか、特に意味はない気がする。


「さて、さっそくだけど本題に切り込ませてもらう。ライラの研究資料からわかったことは・・・」


 私とペシャスさんの間に緊張が走る。


「少し期待外れだが、どうやら太陽光は超強力な聖属性のエネルギーを内包しているようだ。信じられないレベルで凝縮された聖属性の力でそこらのアンデッドは消滅しているように見えるんだと。まあ、ようは君の弱点属性の魔法が常に降り注いでいると考えればいい」


 どうやら、日の光がアンデッドを殺す効果を持っているわけではないらしい。


「でもそれって・・・」


「ああ、対処法があるのはいいんだが、問題はその対処法でもダメージが抑えきれるかどうかだ」


 そう、私が装備している『聖穢の外套』は確かに聖属性ダメージを大きく軽減してくれるらしいんだけど、外にいるアンデッドが一瞬で消滅するようなダメージをこの外套で抑えきれるのかという問題が発生してくる。さすがに地上に出て光を浴びて「はい駄目でした」はできれば避けたい。手間的な問題で。

 何か聖属性ダメージを無効化できる手段でもあればいいんだけど、属性ダメージを無効化なんてそう簡単に手に入る代物ではない気がする。


「高位のアンデッドの素材でもあれば外套の強化が望めるのだけど、何か持ってたりしないかい?」


「えっと、これ、なら」


 そう言ってライラさんだった塵を瓶に詰めたものをペシャスさんに渡した。うう、できればライラさんのことは話題に出したくなかったのに・・・


「・・・これは?」


「ライラさんが最期に自分の胸を自分で貫いて、体が崩れた後にこの塵が残ったんです。あ、あの、不快だったらすぐに仕舞うので・・・」


「素晴らしいじゃないか!ここまで純度の高い素材はそうない!ライラの体を構成していたものならば魔力も申し分ないだろう!さあ、グズグズしている暇はない!早くその外套を寄こしたまえ!」


 ペシャスさんは私の予想と180°違った反応をして、テンションが最高潮のまま私の外套と塵を持って家の奥に飛び込んでいってしまった。良くも悪くも研究者気質ってことなのかな。あの様子なら心配はいらなさそう。


「ねーヴィオ」


「キュウ・・・」


 相変わらず私の頭の上に乗っかって眠そうにしているヴィオを膝の上に乗せて時間をつぶす。そういえば、AAOでアイテムを混ぜるのを他人がしているのを私は見たことが無い。私は『錬成』とかいう便利スキルを持ってるけど、他の人はどうしてるんだろう。ちょっと気になってしまって、ペシャスさんが飛び込んでいった部屋の扉を少し開いてそっと覗き見る。


「できたぞ!」


 私が部屋の中を覗いた瞬間、ペシャスさんの声とともに部屋にまばゆい光があふれて、体に刺すような痛みが走る。やばい、これ聖属性の光だ。慌てて扉を閉めてもといた場所に退避する。うん、余計なことをするのはやめといた方がいいね。大人しくしておこう。

 それから少しするとペシャスさんが部屋から出てきた。着ている白衣が煤けているのには突っ込んだ方がいいんだろうか。


「私が生きてきた数百年で一番の出来だ!さあ、手に取って確かめてくれ!」


◇◆◇◆◇


滅聖の外套

効果:聖属性のダメージを軽減(極大)、スキル『鑑定』『看破』の妨害、装備時、一部NPCからの好感度低下(極大)


◇◆◇◆◇


 お~、純粋に強化された感じだ。軽減(極大)っていうのがどれくらいの軽減率なのかわからないけど、私の称号の軽減効果と合わせたらほぼ無効化できるんじゃない?それに『看破』も防いでくれるみたいだし、汎用性も上がってる。それとこの強化前からある『一部NPCからの好感度低下』っていうのがどのNPCを指してるのかわからないのが若干怖いけど、この効果と天秤にかけたらNPCの好感度なんてどうでもよくなる。


「無効化とまではいかなかったが、ディラには良い物ができたんじゃないかと思う」


「はい、文句のつけようがありません。ありがとうございます」


「礼なんていい。ライラの情報とこの研究資料の対価だと思えば安いくらいさ」


《特殊依頼『死に人が想う日々』を達成しました》

《特殊依頼『在りし日の夢を追う亡霊』を達成しました》


 ペシャスさんから外套を手渡されると、メッセージウィンドウが表示された。外套の強化までがこの2つの依頼だったのかな。とりあえずヘルヘイムや『邪界樹の洞穴』でやることはひとまず終了・・・ってことでいいのかな?まだ街の人と全然話したりしてないけど、もう来れないわけじゃないだろうしネリンさんの依頼を優先で地上に上がろうかな。何より私が早く外に出てみたい。


 ペシャスさんの家を出て、ギルドに向かった。ギルドは若干空いてはいるものの、受付はどこも忙しそうにしていた。みんな必死の形相で書類と格闘してて声をかけていいものかと入り口近くでウロウロしていると、見覚えのある赤毛が受付の奥から出てきた。


「あ、シリティさん!」


「数日ぶりですねディラさん。ギルドに戻ってきたということは姉に用ですか?」


「はい、頼まれてたことが終わったので」


「そうですか、ではご案内しますね」


 ギルドの2階に案内してもらって、前に来た時と同じ部屋に通される。あれ、そういえばニュラルさんがいないような。別のお仕事でもしてるのかな。


「おかえりなさい、ディラ」


 奥の机にはネリンさんが座っていて、その横にはニュラルさんがいた。護衛って言ってたし、部屋の中にいてもおかしくはない・・・のかな?


「それで?成果はあったのかしら?」


「はい、この外套があれば概ね問題が無いんじゃないかという答えが得られました」


「どういうことか詳しく聞きたいところだけれど、あまり時間が無いからまた今度聞かせてもらうわ。それで改めて聞くけど、地上に行ってくれるのよね?」


「はい。むしろ喜んで行かせてもらいます」


「そう。じゃあこの指輪を付けてちょうだい」


 ネリンさんから鉛色の装飾が施された指輪を貰った。とりあえず左手の人差し指にはめてみる。


「その指輪はヘルヘイムと地上の“ある場所”との通行証よ。ヘルヘイム内でその指輪に魔力を通すと地上とリンクした場所に転移できるわ。ただ、行きと帰りの2度しか使えないのと、他人からの魔力でも転移してしまうからそこは注意して」


 へぇ、どうやって地上まで行くんだろうと思ってたけどこんな便利なものがあるんだね。


「例えば、こんな風に」


 ネリンさんがニッコリ笑いながらそう言って私に指を向けると、あの感覚が襲ってきた。え、ちょっと待って!まだお姉さんに会いに行ってないんだけど!

 なんて抗議の声が届くはずもなく、視界が黒く染まっていった。


・・・


「姉さん、本当によかったんですか?」


「まあ仕方のないことよ。女王様にああ言われちゃねぇ・・・」


「『ディラをヘルヘイムから遠ざけなさい』なんて、どうしたんでしょうね。喧嘩くらいであんなこと言うような人じゃないですし」


「わからないものはわからないわ。それより仕事よ」


「姉さんがやる気になってくれて嬉しいです」


「そうしないとどこかの誰かが怖いもの」


「うふふ」

外套強化&地上へ転送回でした。

理菜はここにきて突然人外ファミリーから距離を取られ始めました。いったい彼/彼女たちにどんな思惑があるんでしょうか。ちなみにですが、書いてないだけでヴィオもしっかり転移してます。毎回書いてるとさすがにくどいので。


年末ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。体を壊すことが無いようお気を付けください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外に出て 「ふぅ暑い!」 ふさぁ ギャっギャァァァァ:(´;Д;`): 期待してます(笑)
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