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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
死者の国
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想う亡霊

ご高覧いただきありがとうございます。


 壁際に吹き飛ばされた死霊さんに向かって、突き出した腕から死霊さんの放ってきた合体火球に匹敵するほど大きな紫色の魔力の玉を飛ばした。死霊さんは何とか起き上がって直撃は避けたものの、壁に当たって爆発した魔力玉の余波でダメージを受けていた。王龍さんが最初不意打ち気味に攻撃したのが効いてるのか、死霊さんはまともに反撃すらできていない。


『わタシハ、ナカまたチノタメにモまダシねヌノだ・・・!』


『そのことだがな、貴様がどれだけこのダンジョンのアンデッド共を駆逐しようが無駄だ』


『ナっ・・・』


『気付かなかったのか?貴様が何百年と時間を費やしても全て殺しきれぬほどに彼の帝国は民が多かったのか?』


『なンだ、なニガイいタイ!』


ここ(邪界樹の洞穴)でアンデッドとして生まれ変わった時点で貴様らは不滅だ。たとえ粉々にしようとも、ドロドロに溶かされようとも、浄化されようとも、どこからともなく瘴気とともに蘇る。文字通り不死者(アンデッド)というわけだ』


『ハ・・・?ナ、なにヲ・・・ソレなラば、わタシハ、ワたしハ・・・』


 死霊さんは頭を掻きむしって、力なくその場に座り込んでしまった。というか、死霊さんやその仲間のことを何で王龍さんが知ってるんだろう?これまで聞いてきた情報をまとめてみよう。


 『このダンジョンの中の様子を一望できる』『我の体内の一部』『輪廻の理を外れる』『ヘルヘイムに来ることも死ぬことも叶わない哀れなアンデッド』『ミズガルズ帝国は国ごと食べられた』『ミズガルズ帝国の事情を知ってる王龍さん』


「え、それって・・・」


 そんなの、まるで王龍さんが散々話に聞いた『ヨルムンガンド』みたいじゃないか。仮にそうだとするなら、死霊さんの仇とも言えるような相手が目の前にいるってことになるんじゃ。


『・・・きサマ、ワガそコクノナにヲシッていル』


『知っているも何も、あの国を食ったのは我だ』


『・・・ナニをイってイル?ミずガるズヲノみコンダノはアノへびダ』


『ふむ、この姿では信じられぬのも仕方があるまい。ならばこれならどうだ?』


 王龍さんがそう言うと、王龍さんの体がメキメキと音を立てて骨格がどんどん人間からはかけ離れたフォルムになっていく。死霊さんも呆気にとられていて、表情筋なんてないのに表情が歪んでいくのがわかる。


『ふむ、あの時の姿と比べたら胎児にも満たぬ大きさだがどうだ?この姿に見覚えはないか?数百年も経てば忘れるのも無理はないがな・・・おっと、何をする。危ないではないか』


 王龍さんがまるで、というか蛇そのものになってしまった。そして死霊さんが放った魔法をまるで蚊でも潰すかのように簡単に消してしまった。


『ナゼ!なゼみずガルズヲ!ワガとモヲ!』


『貴様は知らなくてもいいことだ。では貴様も眠るがいい、体だけは生き続けるがな』


 王龍さんが大きく口を開けて死霊さんを頭から食べようとする。考えるよりも先に体が動いた。


『・・・何のつもりだ?ディラ。お主にそんな趣味があったとはな』


「ごめんなさい。死霊さんを殺すななんてとても言えませんけど、最後に、1つだけ聞きたいことがあるんです。どうか、少しだけ待ってくれませんか」


『・・・好きにしろ。だが、こやつを殺すことは覆らぬぞ』


「わかってます」


 よかった、そのまま無視されて2人とも丸のみにされたらどうしようかと思った。でもうまくいって良かった。死霊さんの消滅は避けられないことだとしても、今の死霊さんなら和解の余地があるかもしれない。確証はないんだけど、そんな気がする。


『・・・ナンのツもリダ』


「別にあなたをどうこうしようってつもりはないです。1つ聞きたいことがあるだけです」


『・・・なンだ』


 死霊さんはさっきまで敵対していたのが嘘かのように大人しくなってしまっている。まあ、数百年仲間のためを想ってやっていたことが無駄だったって分かれば投げやりにもなるか。


「ペシャス、という名に聞き覚えはありませんか?」


『・・・!』


「このダンジョンの遥か下に、ヘルヘイムという死者が集まる国があります。私はそこでペシャスさんと出会いました。そしてこの日記も読ませてもらいました」


『・・・』


「ペシャスさんは、私と一対一で話をするために初対面の私を落とし穴に嵌めたり、友人のニュラルさんをわざわざガスで眠らせたり、無茶苦茶でしたけど面白い人でした」


『・・・』


「ペシャスさんは私が着ているこの外套のことを聞き出したくてわざわざそんなことをしたんですよ?」


 クスクスと笑いながら外套のフードをまくる。


『・・・そノスガたハ』


「自分でもよくわからないうちにこうなっちゃってしまって。で、私がアンデッドだと気づいたペシャスさんが私を被検体だとか言い出して本当に怖かったんです」


『・・・あァ、タしカニカのジョはソウいうにんゲンダッた』


『かノジょハ・・・コウなッてしまッたわタシヲドウオもウだロウな』


「ペシャスさんならどうも思わなさそうですけどね」


『・・・ソレもソうカ』


 なんとなく死霊さんの纏う雰囲気が柔らかくなったような気がした。死霊さん、いやライラさんはきっともうペシャスさんとは再会できないんだろうけど、無念と後悔に苛まれて死んでしまうよりは少しでも心が安らいだ方がマシだと思う。


『アンでッドのシょうジョよ、ナはナンとイウ?』


「ディラです」


『でィラ、ヒとツタノみガあル。カのジょにデんゴンヲタノみタい』


「はい、必ず伝えます」


『ずット、アいしテいルト』


 ライラさんのその言葉に驚いていると、ライラさんが立ちあがり光の玉を作ってそれを右手で握り潰した。え、まさか最後に王龍さんに一発入れようとかそんなんじゃないよね?


『貴様、なんのつもりだ』


『モウキさマなドドウでモイい』


 そしてライラさんは光る右腕で自身の胸を貫いた。


『ディラ、初対面の私の話と願いを聞いてくれたこと、感謝している。あの時、君のおかげで私は踏ん張ることができた。そしてこうして愛しい彼女の話をもう1度聞くことができた。お礼になるかはわからないが、私の核を好きにしてくれていい。あんなものでも高純度の魔力と呪いが詰まっているし、君の役に立つだろう』


「ライラさん、戻って・・・」


「ペシャスによろしく」


 ライラさんがそう言うと、ライラさんの体は塵になって崩れた。塵の中には虹色に輝く綺麗な球が残されていた。

死霊さんもといライラ回でした。

数日前に予約投稿している関係から、推敲が足りていない部分がややあります。結構急ぎ足で進めてしまったため、後日書き直す可能性もあります。


それと、これが書き溜めていた分の最後の予約投稿です。明日の20時に次話が投稿されなかった場合は「あーあこいつ毎日投稿できてないでやんの」という気持ちで少しだけ待ってやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] よかった……ギャグ展開に踏み潰されるライラさんは居なかったんや……。 しかし、悲しいなぁ正気を削ってやっていた事が報われない賽の河原の石積みだったとは。 伝言、しっかりやるんやで?
[一言] 救いはあったんですね……!(メイショウドドウ並感)
[一言] 死霊よ…安らかに眠れ
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