追いつめられた獣は恐ろしい
ご高覧いただきありがとうございます。
『ディばイんフぃールド』
研究室全体に白い魔法陣が広がる。名前的に光系統の魔法だろうから私の弱点だし、死霊さんも弱点でもある。急いで研究室を出ようとしたけど、扉の前には死霊さんが立ちふさがっていて通れない。細剣で攻撃してみたけど、まるで水を切っているかのような感覚で全く手ごたえがない。
『にガシハセぬゾ・・・』
足元の魔法陣が光ると、体が急に重くなった。重力魔法を使われた時とは違って、全身が重だるい。まるでインフルエンザにでもかかってしまったかのような感覚に襲われる。この魔法陣、アンデッドにスリップダメージを与えてくる系かと思ったけど、動きを封じてくるタイプだったのか。でも重力魔法じゃないなら・・・
「キュー!」
ヴィオが自由に動ける。ヴィオは口からまたもや自身の体よりも大きい火球を吐き出して、研究室の床にぶつけた。さっきとは違って火球に黒い炎が混ざってて厨二心を擽られる。カッコいい、某忍者漫画のアレみたいだ。
床が物理的に破壊されたことによって魔法陣が消えて、私の体から重だるさが消える。助かった、じゃあこのままなんとか死霊さんの核を・・・ない。あれ?確か天井に虹色の宝石みたいなのが釣るしてあったよね?
『きサマノサガしもノハこレか?』
死霊さんが胸の心臓に当たる部分に手を突っ込んでまた手を胸から引き抜いた。するとその手には虹色に輝く、握りこぶしよりも少し大きいくらいのサイズの宝石が握られていた。うわ、あれだ。死霊さんの核は間違いなくあれだ。無い時点でなんとなく察してはいたけど、まさかこうも予想通りの展開になるとは思わなかった。よくある展開だと、間抜けな敵がどうすれば奪い返せるかとかを教えてくれたりするけどさすがに死霊さんは教えてくれなさそう。そうこうしてる間に死霊さんは核を胸にしまってしまった。
「ヴィオ、ちょっとだけ死霊さんの動き止めれない?」
「キュウ!」
ヴィオは胸を張って自信満々そうに返事してくれた。言ってることはわかんないけどこれはできるってことでいいんだよね。ここはヴィオを信じてみることにする。何せ私より強いしね。
本当は使わずに済む道を探したかったけど、仕方ない。さっき竜騎士さんたちの残骸から見つけたモノをインベントリから取り出して逆手に構える。
『さァ、きサマハドうホロぼシてクれよウカ』
死霊さんが物騒なことを言うと、死霊さんの掌に光の玉が浮かび上がる。そしてその光の玉を炎が包み込んで、キラキラと輝く炎の玉が出来上がった。それを投げつけてくるのかと思ったら、それと同じものが10個くらい複製されて、そのうちの1つが私に向かって飛んできた。
一応魔法だし、大したサイズでもないから構えていた細剣で受け流す。輝く炎の玉は私から逸れて部屋の壁にぶつかって爆発した。爆発した後を見ると、かなり大きく抉られていた。あんなの私が喰らったらただじゃ済まなさそう。そういえば、魔法を受け流したらMPを消費するんだっけ?どれくらい減ったんだろう。
◇◆◇◆◇
Lv:‐
HP:320/320
MP:7148/8900
◇◆◇◆◇
いやさすがに減りすぎじゃない?MP1800くらい減ってるんだけど。でもそれだけ大きい威力の魔法だったってことだよね。私はMPを回復できるアイテムを持ってるわけじゃないから、どうにか避けるか『吸魔』で適宜MPを回復しないといけない。
なんて考えている間にも次の1発が放たれた。なんとか躱せないものかと思ったけど、部屋が狭すぎて躱したところでその衝撃が私に当たってしまう。仕方がないからまた細剣で受け流した。残りのMPは5848。まだ余裕はあるけど、死霊さんが出した分全部を捌き切るほどのMPはない。
『まグレではナイトイうコとカ・・・』
『コレなラどウダ・・・』
死霊さんは残りの輝く炎の玉を掌の上に集めると、輝く炎の玉を握り潰した。そしてまたゆっくりと手を開くと、死霊さんの手が輝いていた。
『ウ、グぁ・・・!』
死霊さんが苦しそうにしている。日記にも書いてあったけど、アンデッドが弱点の魔法使ったらああなるってことなのかな。死霊さんの場合は体にさっきの魔法宿してるみたいだし。
死霊さんは私に向かって掌を向けて魔法を解き放った。
大きい。直径2メートルはありそうなサイズの火球が私目がけて飛んできた。純粋にさっきの輝く炎の玉を8個分凝縮させてるってことでしょ?そんなのMPが最大値でも受け流せない。
「『吸魔』!」
それなら魔力を吸って魔法を消滅させるしかない。前からできるんじゃないかと思ってたけど試す相手がいなかったから丁度いい。もし駄目だったらヴィオにお願いすればなんとかなるんじゃないかな。
死霊さんが放った火球から魔力を吸いまくる。研究室が狭いこともあって時間いっぱい『吸魔』を使うことはできなかったけど、結構火球のサイズは縮んだ。よし、このまま受け流せば・・・
『スきアリ、トハこノコトヲいウノダな』
いつの間にか死霊さんが私の背後に回り込んでまた新しい輝く炎の玉を作っていた。そしてそれを私の背中目がけて放とうとしてくる。私の目の前には小さくなった火球が迫っていて、背後の死霊さんと魔法に構っている暇はない。
「ヴィオ!」
「キュウ!!」
今か今かと出番を待っていたヴィオが死霊さんに向かって黒い炎の塊を放つ。死霊さんはヴィオから放たれた黒い炎に気を取られて、私から目を離して輝く炎の玉をヴィオの放った黒い炎にぶつけて相殺させる。
そして私は、私に目がけて飛んできた火球を受け流して、黒い炎にかかり切りになっている死霊さんにぶつける。
『グオぉ・・・!』
「今だ!」
火球が直撃した死霊さんは体勢が大きく崩れる。いくら私が『吸魔』で魔力を吸い取ったとはいえ、あのとんでもステータスから放たれた魔法を喰らって無事であるはずがない。
その隙に、ずっと片方の手に隠して装備していた剣を死霊さんに突き立てる。大したダメージにはならないけど、目的はダメージじゃない。
『ナンダ、コれハ・・・!ちカラがハイラぬ・・・!』
今死霊さんに刺した剣は『封魔剣』というもので、竜騎士さんの持ってた双剣の片割れだ。効果は魔物に攻撃したときにほんの少しだけ動きを封じるというものだった。ただ、与えたダメージの1/4を自分が喰らうという諸刃の剣でもあった。どれだけダメージが入るかも確認してなかったからできるだけ使いたくなかったんだけど、私は賭けに勝ったようだ。まだ生きている。
もたもたしている間に死霊さんに動き出されても困るから、死霊さんの胸、即ち核がある場所に細剣を突き立てて今ちょうどクールタイムを終えた『吸魔』を発動させる。
『ぐオォォぉォおぉぉ!!!!!!!!!!!!!』
死霊さんが苦しそうに叫ぶ。『吸魔』は発動できたけど、すぐに死霊さんが暴れだして振り払われてしまった。結果死霊さんの核に『吸魔』をぶち込めたのは6∼7秒程度だった。どう見ても死霊さん、まだ生きてるよねえ・・・いや死んでるんだけどさ。
『おォオ・・・ユルさヌ・・・ゆるサヌゾ・・・!』
『こノ、コノミズガるズずいイちノマどうシでアるワタしヲ!コのよウナメにあワセテ、たダでシネるトオモワナいコとだ!』
そう言うと死霊さんは研究室の空間に灰色の魔法陣を浮かばせた。
『ジゅウりョクノオそロシサ、ソノみヲもッてアじわワセてヤろウ!』
その瞬間、研究室の中に戦闘の余波で散らばっていた瓦礫が部屋の中心に集まり始めた。壊れていない壁や床もビシビシとひびが入って割れた傍から部屋の中心に集まっていく。そしてもれなく私とヴィオも吸い込まれていく。
『アらタナわくセイタんじョウノいシズエとなルがイイ!』
というわけで今度こそ戦闘回でしたね。
戦闘を書くのは楽しいです。時間こそかかりますが、投稿者の頭の中にのみ存在しているキャラが縦横無尽に駆け回る姿は、想像とはいえ筆舌に尽くし難いものがあります。
死霊さんが最後に使っていた重力魔法は、某忍者漫画の地爆〇星みたいなイメージが1番しっくりくるかと思います。




