第一、第二村人
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ビュートさんにお城の出入り口である門まで送られて、あとは自由行動になった。お城から出て数歩歩いたところでくるりと後ろを振り返ってお城を見上げる。
「おっきい・・・」
そう、お姉さんのお家であるこの城、ハチャメチャに大きい。何メートルとかの目測も立てれないくらいには大きい。ビュートさんの話によると、このお城の真ん中には大きな吹き抜けがあってそこから地上で死んでしまった人たちの魂が迎えられるらしい。その吹き抜けがスペースを取っているだけで城としてはハリボテなんだって。掃除が大変なんですよとぼやくビュートさんはなんだか可笑しかった。私の理解が及ばない実力の人たちも案外普通の悩みがあったりするものなんだね。
「ねーヴィオ?」
「キュ?」
ヴィオはまん丸の目をクリクリさせながら私の方を向いて首を傾げる。うーんあざとかわいい。
いつの間にか私の頭の上が定位置になったヴィオだけど、今は私の隣を飛んでもらってる。この肉体、何故か筋肉痛みたいなものがあって、ヴィオを1日中頭に乗せてると次の日首がすごく痛かった。だからヴィオが本当に甘えたい時だけ乗せるようにしてたりする。うう、弱いママでごめんねヴィオ。
お姉さんから『ここではディラの見た目はそこまで珍しいものではないわよ』と言われてはいるものの、なんとなく外套についてるフードを深めにかぶってしまう。ヴィオのおかげで気が紛れているとはいえ、やっぱりこの姿を衆目に晒すのはなんだか気が引けてしまう。もしこんな姿で知り合いにでも遭遇したらと考えると鳥肌が立つ。
城から少し歩くと、人々が行き交う街に出た。そこら中を人が行き交っていて、とてもここに住んでいる人たちが死人だとは思えない。精神が摩耗するまでここの人たちは生き(?)続けるらしいけど、どんな気持ちでここに残ることを選択したんだろう。
「ほらお嬢ちゃん!そんな辛気臭い顔してどうしたんだ!生前どんな死に方したんだか知らないが、ここでそんなこと考えるだけ無駄だ!死人なら死人なりに楽しく生きたほうがいいぜ!」
忙しなく行き交う人たちを避けながら街中を観光していると、突然大きな衝撃が背中に走るとともに大きな声が頭の上から響いてきた。耳元で話されたら鼓膜が逝ってしまいそうな声量だ。
「えっと、どちら様ですか?」
「おっと、こりゃすまねえな!俺の名前はガームだ!この街の冒険者ギルドのギルドマスターをしている!で、お嬢ちゃんはなんていうんだ!」
「ディラといいます」
「ディラか!よろしくな!でだ、何か悩みでもあるんならうちに相談に来い!暇だからな!」
言うだけ言ってガームという人はどこかへ行ってしまった。嵐みたいな人だったなあ。というか、今ギルドって言ってた?どこの街でもギルドっていうのはあるものらしい。まさかアンデッドが住人の街にまでギルドがあるとは思わなかった。どっちかって言うと討伐される側なのに。
「すみません、ここを脳みそが筋肉でできてそうな馬鹿が通りませんでしたか?」
気を取り直して観光を再開しようとしたら、今度は丁寧な口調&綺麗な声が私を呼び止めた。振り返るとそこには幸薄そうな女の人がいた。でもそんな見た目とは裏腹に口調はかなり厳しめだった。脳みそが筋肉でできてそうな馬鹿って。
「えっと、もしかしてガームという人だったり・・・?」
「ああ、やっぱりここにいたのね。業務が溜まってるっていうのに何ほっつき歩いてるんだか・・・君は何かされなかった?大丈夫?」
「暇だから困ったらギルドに来いって言われました」
「暇なのはお前だけだろうが・・・!」
目の前の女の人の顔がまるで般若のお面をかぶっているかの如き形相になっていた。その怒りは私に向けられてるわけじゃないのになんだか肝が冷えた。
「・・・みっともないところを見せちゃったね。ごめんなさい。ところで君は?ここじゃ見たことないけど」
「私はディラっていいます。この街にはついさっき初めて来たので・・・」
「そうなのね、私はネリンよ。よろしくね新人さん」
「あの、ガームさんはギルドマスターって言ってましたけど、この街に冒険者ギルドがあるんですか?そうなら場所を教えてもらいたいです」
特に何か目的があるわけではないけど、私も生きていくうえで自分の身元くらいはハッキリさせておきたい。別に冒険者じゃなくてもいいんだろうけど、この見た目で生産職なんかやっても人が寄り付かない気がする。それに、もし地上に出る時が来たら街に入るとき面倒だろうし。普通のプレイヤーはノーリに何個かあるギルドのどれかに入ってから町の外に出るらしいから、これで私もスタートラインに立てるってことね。ずいぶん長いチュートリアルだよねほんとに。
「私はそのギルドの副マスターをしているのよ。うちに用があるなら案内するけど」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいますね」
なんとギルドマスターに続いて副マスターに出会ったようだ。ギルドに責任者2人ともいないってそれ大丈夫なのかな。悪い人たちじゃなさそうだけど、変に寂れてたりするのかな。実は犯罪ギルドでしたみたいなオチだけは勘弁してもらいたい。見た目は化け物でも真っ当な生き方目指してるんです。
「じゃあ決まりね。ついてきて」
・・・
移動しながらネリンさんにこの街についていろいろ教えてもらった。まず、この街のギルドはネリンさんたちが務めているギルドしかなく、名前は冒険者ギルドだけど街の雑事を担ってる重要な場所らしい。定番の魔物討伐の依頼はあるにはあるけど、お姉さんの国の近くで悪さをする馬鹿な魔物さんはいないらしい。お姉さんの威光がやばい。
これはお姉さんからも聞いた話だけど、この街には生前人族だった人や亜人だった人しかいなくて私のようなアンデッドは基本見たことがないらしい。概ね予想通りだけどここにはプレイヤーはいなさそうかな。そして亜人を迫害するような思想を持つ人は強制的に輪廻に戻されて地上で生まれ変わるらしい。なるほど、そりゃ平和だしみんなお姉さんを慕うわけだ。
「私の正体は明かせなさそうかな・・・」
「ん?何か言った?」
「なんでもないです」
ここで実は私はアンデッドでした!みたいなことをするとガームさんが飛んできてあの肉体で粉砕されてしまいそうだ。自分の立ち位置をしっかり理解できておいてよかった。
なんてことをしている間にギルドに着いた。おお、結構綺麗だし大きい。中に入ると、所狭しとカウンターが並んでいて中では職員らしき人たちが忙しそうにしている。
「今はどこも忙しそうだし、ディラの登録は上で済ましてしまいましょうか」
ネリンさんと一緒にギルドの2階に足を運ぶ。2階には扉が何個かあって、そのうちの1つの扉の前には兵士っぽい恰好をした人が立っていた。
「副マスター、その人は?」
「客人よ。私の部屋に通すから人払いしておいて」
兵士さんは私を一瞥して、ネリンさんに向かって深々とお辞儀をして横の扉を開ける。おお、兵士の鏡みたいな人だね。いやどっちかというと召使いかな?
部屋の中に入ると、ネリンさんがソファに腰かけて私に手招きをしてきた。
「ディラ、おいで」
特に疑問もなく向かいのソファに座ると、ネリンさんが頬を膨らませて私をじっとりとした目で見つめてきた。え、なんかしちゃったかな。
「え、あの、何か粗相をしたでしょうか・・・?」
「そうじゃないわよ。私はこっちにおいでって言ったの」
ネリンさんはソファの空いている隣の部分をちょんちょんと指さした。え、横に座れってこと?せっかく2つもあるんだしこうやって座った方が話しやすいんじゃ・・・
「いいから、こっちに来ないと話せないことがあるのよ」
腰が引けている私に痺れを切らしたネリンさんは、ソファから立ち上がって私の隣にドカッと座った。見た目は大人しそうな人だけど結構荒々しい人なんだね。人によってはギャップ萌えとかあるんだろうか。
「あの、それでお話っていうのは」
「うふふ、ねえ、ディラ」
「は、はい」
「あなた、昨日女王様に連れられてきた骸骨よね?」
「え”」
「どうしてアンデッド風情がここを出入りしているのかしら?それも確かな意志を持った希少な存在が」
私、早くもピンチのようです。助けてお姉さん。
というわけで早くも身バレ回です。
ネリンさんの言い方からしてアンデッドを下に見てそうですが、理菜はどうなってしまうんでしょうか。ヘルヘイムの女王であるお姉さんの客を殺すなんて無礼なことはしないと思いますが。




