禁呪【魂体創造】
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まるで靄のかかったような視界の中、お姉さんについていく。なんだかヘルヘイムに来てから階段を使うことが多いなあ。視界がいつまでたっても晴れないから時々階段を踏み外しそうになって、そのたびに私の横にピッタリとくっついて飛んでいるヴィオに支えてもらっている。まったく、ヴィオ様様だね。
『さあ、着いたわよ』
お姉さんが足を止めると、靄がかった視界が晴れて六畳一間くらいの空間に出た。床や壁は何の飾り気もない石の作りになっていて、四隅にちょっとした壁掛けの蠟燭が灯してあるだけのずいぶんと質素な部屋だった。
「あの、ここは?」
『うーん、そうねえ・・・“廻魂の間”とでも言えばいいかしら。ヘルヘイムで暮らしている死者たちに肉体を与えるための場所よ』
「え、ここの人たちって元から私みたいな種族じゃないんですか?」
『ええ、最初ここに来た時に言ったでしょう?死者の魂を選別するって』
なるほど、ここには元からアンデッドだった人はいなくて、別の場所で死んだ人たちを集めてその人たちをここに住まわせたり氷獄みたいなところに送ったりするんだ。じゃあ『邪界樹の洞穴』にいた元帝国に住んでいた人たちはなんでここにいないんだろう。
『それじゃあディラ、そこの印がある場所に立ってくれる?あと、あの外套も着ておいて』
お姉さんに言われた通りに外套を装備状態にして、部屋の中心にある星印のマークがある場所に立つ。
『まずは実験からよ。ディラはいろいろとイレギュラーな存在だからこれまでと同じ方法でうまくいくかわからないし。絶対にその外套を脱がないようにね』
「は、はい」
いったい何が始まるというのだろう。この外套を脱ぐなって念押しされたってことは聖属性の魔法を使って私の体を作りだしたりするのかな。
『蘇生』
お姉さんがそう口にすると、体が燃えるような感覚に襲われる。え、熱、いや痛い!めっちゃ痛い!AAOに痛覚共有システムなんかないはずなのにめっちゃ痛い!
あまりの痛さに私は地面に転がって星印の場所から離れてしまった。
「ちょ、ちょっと!何するんですかあ!」
『うーん、やっぱり駄目なのね。体の骨組みがあるから蘇生魔法でもいけると思ったのだけれど。ごめんなさいね、さすがの私もディラに関してはわからないことだらけだから探り探りになっちゃうのよね。ディラが死なないようにはしてあげるからもう少しだけ耐えてて。これもディラのためだから我慢できるわよね?』
やっぱりこの人は王龍さんの姉なんだなということがハッキリと分かった。少し前から片鱗は見えてたけどこの一族は総じてドSだ。お姉さんは王龍さんと違って自覚がない分質が悪い。
その後もお姉さんによる壮絶な聖属性魔法の責め、もとい実験が続けられていた。なんか途中で称号をゲットしてたっぽいけどそんなの確認する暇がなかった。
《プレイヤー『ディラ』の正気度が規定値を下回りました》
あ、これはまずい。度重なる実験の負荷で私の正気度がめっちゃ下がってたらしい。このままではお姉さんを攻撃してしまう。
「お姉さん、このままじゃ・・・」
『ええ、わかっているわ』
『凪』
お姉さんがまた聞いたことのない名前の魔法を唱えると、今にも暴れだしそうだった体が落ち着いた。おお、こんな魔法もあるんだ。自分に使えたらもう『狂化』に怯えることもなくなりそう。
『やっぱりあの人と同じなのね』
「・・・?それって昔にいた私と同じ種族だった人のことですか?」
『そんなところよ。そんなことよりも、ディラの体に肉付けできそうな方法を見つけたわ』
なんと私の体をどうにかする方法を見つけることができたらしい。あの責め苦は無駄じゃなかったんだ。
『じゃあ準備するから星印の場所から動かないでね』
私が改めて星印の場所に立つと、お姉さんは詠唱っぽいことを始めた。え、そんなに壮大な魔法なの?私、魔法を軽くかけてはい終わりくらいの心持だったんだけど。
『終焉を齎す再生よ、生命を齎す殺戮よ、不変なるその原理を我は拒む。忘却を望めぬ悲しみを拭うがために、宿りし意志を再び燃やさんがため、艱難辛苦の道進む修羅となれど、失われし彼の者の道我が創る』
お姉さんが詠唱を1節進めるたびに私の足元の星印から魔力が地面に広がっていく。詠唱が終わるころには私の足元には魔法陣が出来上がっていて、私の体を明るく照らしていた。
『魂体創造』
お姉さんが詠唱を終えて呪文を発動させると、魔法陣から発している黄金色の魔力が全て私に向かってきた。思わず身構えるもぶつかったような感覚はなく、魔力が私に吸収されていく。
「おぉ・・・」
思わず感嘆の声が漏れる。すごい、AAOを始めてようやくザ・ファンタジーな要素を見れたかもしれない。魔法を撃っても魔力の塊しか見えなかったからすごく新鮮だ。
『仕上げよ』
お姉さんはそう言うと同時に私に向かって黒い魔力を持った棒状のものを投げつけてきた。なんか見覚えのあると思ったらあれ、邪界樹の根と同じ魔力をしてる。え、もしかしてそんなものを私に混ぜようというの?ただでさえ呪いを内包してるやばい体なのにそんなものを私に混ぜたら・・・
邪界樹の根らしきものが私にぶつかることはなく、魔法陣の中にポトリと落ちた。あれ?どういうこと?私と邪界樹を混ぜこぜにするんじゃ・・・
「うわぁ!?」
邪界樹の根っぽいものが魔法陣の中に落ちて数秒経つと、魔法陣から発されていた魔力が黄金色から混じりっ気のない純粋な黒い魔力に変わった。なにこれ怖すぎる。どうみても禁呪とか歴史の闇に葬られた系の魔法だ。アバダ〇ダブラとかそんな感じの。
「え、ちょっとお姉さん!?これ大丈夫なんですか!?」
『少なくともディラの体には害はないから安心しなさい。そんなことよりそこから動かないで真っすぐ立ってなさい。結構疲れるのよこの呪術』
呪術って言った!お姉さん今呪術って言った!私でも聞き逃さなかったよ!
そうしてる間にも私の体に真っ黒の魔力が魔法陣から注ぎ込まれてくる。え、本当に大丈夫?致死量とかあったりしない????
「本当の本当に大丈夫なんですよね!?」
『大丈夫よ。ほら、暴れると邪界樹の魔力に飲み込まれるわよ』
怖すぎる。なんの慰めにもなってないですその言葉。ただ、もう暴れてもどうしようもないし、私が望んだことだから大人しく受け入れよう。うん、それがいい、そのはずだ。
『うんうん、いい子ね。もうすぐ終わるわよ』
そのまま数分が経つと、魔法陣からの注がれていた魔力が止まった。まだ私の体に変化はない。え、失敗した?
そう思って自分の体を見回していると、突然足先から黒い魔力が湧きだしてどんどん私の体を包んでいく。なんか生暖かい。黒い魔力は止まることなく私の体を包み込んでいって、遂に私の首元まで迫っていた。あれ?これ顔面までいかれるやつかな?さすがにそれは御免こうむりたいかなー・・・
「うわっぷ」
案の定私の顔を包み込んだ魔力は、そのままうぞうぞと蠢いている。これ、いつ終わるんだろう。
『そのまま待機よ。そうね、2時間もすれば終わるんじゃないかしら。私は疲れたから少し眠るわ。2時間経ったらまた見に来るから頑張ってちょうだい』
え、このまま放置?そんなことあるわけ・・・あった。周りに誰かいる気配がない。そんなぁ・・・
お姉さんの呪術回でした。
このお話を書き始めてようやく魔法らしい魔法を使った気がしますね。まともなものではないですが。
ここまで散々引き延ばしてきましたが、ようやく理菜はスタートラインに立てるようになります。理菜の戦いはこれからだ!柊先生の(ry
それはそうと、時間が経つのは早いもので『白骨少女が逝く』を10万文字も書いていたようです。投稿者が理想としている終わり方にたどり着くまであとどれくらいかかるのかを想像して震えております。




