変化の時
ご高覧いただきありがとうございます。
今私は初めてこの階段をお姉さんに手を引かれながら下りた時と同じように、ヴィオの小さい体に摑まりながら一段一段慎重に階段を下りていた。階段まで送られたらそこにお姉さんがまたいるのかと思ってたけど、『連れがいるんでしょう?その階段を使うのもこれっきりじゃないでしょうし、この機会に慣れておきなさい』と言われてしまった。お姉さんの言ってることは至極全うなんだけど、ちょっとスパルタな気がする。王龍さんと血は繋がってないらしいけど、間違いなく姉弟の繋がりを感じる。
「ヴィオ~ごめんね~こんなことさせて~」
「キュウ!」
「ありがと~」
何を言ってるのかはわからないけど、なんとなく「気にしないで」と言ってるように感じた私はヴィオに甘えることにする。
階段を下り始めて十数分もすると、視界がだんだんと開けてきて目の前にあの時と同じ大きな門が現れた。この門を見るのはまだ2回目だけど、相変わらず威圧感がすごい。というか、ものすごく今更だけどヴィオはここの呪いは大丈夫なんだろうか。呪いが充満する世界で生まれたから耐性がないはずはないけど、万が一ということもあるし。
◇◆◇◆◇
名前:ヴィオ
種族:暴食龍(幼体)
Lv:7
HP:9450/12950
MP:2840/3510
状態:‐
スキル:???
◇◆◇◆◇
特に状態異常とかにはなってないっぽい、よかった。・・・それにしてもいいステータスしてるよね。なんかレベル上がってHPなんて5桁に突入してるし。多分私が進化するときに襲ってきた熊さんを倒した経験値でレベルが上がったんだろうね。いいなあ、そのHP半分くらい分けてくれないかなあ。
あと、状態が『状態:未刷り込み』から『状態:‐』になっていた。これは私がちゃんと親として認識されてるってことでいいのかな?あんなメッセージウィンドウまで出たんだしそこは間違いないと思うけど。
「お姉さーん、門の前まで来ましたー」
『迎えを出すから少しだけ待っててくれる?もう向かってるからそんなに時間はかからないと思うから』
お姉さんがそう言って数秒すると門が重たい音を鳴らしてゆっくりと開きだした。そんなに時間はかからないって言ってたけどいくらなんでも早すぎないかな。「連絡がきたらいつでも開けれます!」くらいの早さだったけど。
「おかえりなさいませ。ディラ様」
門が開ききると、そこにはビュートさんがいた。お姉さんの専属執事がお姉さんをほったらかしてなんでもない一介の骨の迎えに来ていいものなんだろうか。
「あの、お姉さんの傍にいなくてもいいんですか?」
「ええ、一応形は専属執事兼護衛ということになっていますがお嬢様は私よりも強いので」
形だけってことは本当の従者じゃないってことなのかな。私にはお姉さんもビュートさんもどのくらい強いのか計り知れないから何とも言えないけど、まだ足元にすら届かないんだろうなあ。恩返しは程遠いってことかな。
「それでディラ様、1つお聞きしたいのですが」
「はい、なんですか?」
「ディラ様の頭の上に乗っているその小さい龍は一体・・・?」
「この子はヴィオって言います。氷獄でいろいろあって仲間になりました」
「そう、ですか・・・わかりました。ではお嬢様の元へ行きましょう。私に摑まっていてください」
ビュートさんは一瞬考えるような仕草をした後、私に手を差し出してきた。こんな声で紳士なことしちゃだめだよビュートさん。私じゃなきゃコロッと落ちてたよ、危ない危ない。
いつの間にか頭の上に乗っかっていたヴィオの体を左手でしっかり押さえて右手でビュートさんの手を取る。
「では行きますよ」
ビュートさんがそう言うと、また転移の感覚に襲われる。相変わらず変な感覚だけど、この短期間で何回も経験するとさすがに慣れてきちゃうね。
視界が開けてくると、そこは前に来た客室とは違ってかなり豪華な装飾がされた部屋だった。魔力しか見えないからほんとに煌びやかなのかどうかはよくわかんないんだけどね。もしかしたらこの豪華なシャンデリアも何かの骨でできたりしてるのかもしれないし。
『おかえりなさ・・・』
机に向かっていたお姉さんがこっちに顔を向けると、なぜかそのまま固まってしまった。
『ちょっとビュート、こっちへ来て』
「・・・仰りたいことはよくわかります」
そのままビュートさんがお姉さんの元へ行くと、2人で内緒話を始めてしまった。むう、また仲間はずれじゃん。
『どういうこと?なぜお母様が滅したあのトカゲがディラの頭の上に大人しく乗っているの?』
「・・・まったくもってわかりません。繧ィ繝ォ繝■?繧ケが卵に封じてフヴェルゲルミルに沈めたはずなのですが」
『まさかディラがあの泉から卵を出したということ?あの領域にアンデッドなんて入ったら一瞬で消滅すると思うのだけれど』
「おそらくディラ様が羽織っているあの外套が原因ではないかと」
『・・・ミズガルズの遺物じゃない!あの馬鹿蛇、脅威になりそうなものは全部腹の中に入れたとか言ってたくせに・・・!』
「ただ、こうなってしまった以上、私たちにはどうすることもできません。ディラ様が終末などに関わらぬようにしていく他ないかと・・・」
『それもそうね。どういうわけか記憶も失ってるみたいだし、ディラなら悪いように育てることはないでしょうし・・・はあ、また面倒ごとが増えたわね』
内緒話が終わったのか、お姉さんはこっちに向き直った。
『ごめんなさいね。それでディラに聞きたいことがあるのだけれど、その子とはどういう関係なの?』
「親子になっちゃったみたいで、私が育てていこうかなって」
『やっぱりそうよねえ・・・』
「あのヴィオに何か問題があるんですか?この子生まれたばっかりなんですけど」
『いえ、今のそのトカゲ・・・じゃないわ、ごめんなさい。その子に問題はないわ。それよりその子、ヴィオっていうのね。いい名前じゃない、大事に育てなさいよ』
「もちろんです!なんたって私の子どもなんですから!」
そう、ヴィオは私の子どもなのだ。種族が違ったり私より遥かに強かったりいろいろあるけど、紛れもない私の子どもだ。AAOのお墨付きでもある。
『それは何よりだわ。それで、こうして戻ってきたということは世界樹の根を見つけることができたのね。じゃあ渡してもらえるかしら』
「渡すのはいいんですけど・・・ここで出すとこの部屋が壊れちゃうかもしれないんです」
『どういうこと?私はこれと同じものを取ってきてと言ったはずだけれど・・・まさかディラ、空のから生える根を撃ち落としたっていうの?』
「えっと、ヴィオが何を食べるのかわかんなくてそれでヴィオに何を食べれるかって聞いたんです。そうしたらヴィオがその根っこの生えてるところまで飛んで行って、数十メートルの範囲を抉って落としちゃったんですけど・・・やっぱり大事なものでしたよね。ヴィオのしたことは私の責任なのでどうかヴィオは・・・!」
『落ち着きなさい。別にディラたちをどうこうしようなんて一言も言ってないわよ。まさかそこまでしてくるなんて思ってなかっただけよ。あの森をしばらく歩けば空の根から枝が降ってくるからそれを拾えば良かっただけなんだけど』
なん・・・だと・・・じゃあ、私は無意味にHPを減らしたということなの・・・?いや、ヴィオのご飯を確保したということにしておこう。そう、私はヴィオのためにHPを減らした。それでいい。
『それでディラはどうかしら?強くなれたの?』
「私のステータスと姿を見ていただければわかるかと思います・・・」
私はお姉さんに『鑑定』を使うように促して外套を脱いだ。やっぱりあるね、羽。
『これはまた珍妙な種族になったわね。現存しているのは1匹もいないはずだから実質ディラだけの種族ということになるわね』
「現存ってことは昔はいたんですか?」
『ええ、数百年も昔の話だけれど』
こんな変な進化をしたことがある人(?)が昔にもいたなんて。
『それで?肉体の話はどうするの?今のディラなら内臓全部までは難しいかもしれないけれど、人っぽい姿にすることはできるかもしれないわよ』
「え、私これで強くなってるんですか?HPとかびっくりするくらい減ってもうダメかと思ってたんですけど・・・」
『何もHPやMPだけが強さの基準ってわけじゃないのよ』
そういうことならやっぱり「当たらなければどうということはない」が出来たりするのかな。そう言うことなら私すっごく頑張れるんだけど。
「えっと、できるのならお願いしたいです。もうそろそろ普通の視界が欲しいので・・・」
『うふふ、それもそうね。じゃあ準備をするからついてきてちょうだい』
お姉さんがそう言って指を鳴らすと部屋が揺れて、さっきまでただの壁だった場所に下へと続く階段ができていた。なにこれカッコいい。私も部屋を変形させてみたい。
『こっちよ』
いろいろ深堀回でした。
ヴィオがどんどん強くなります。それに比べてこの骨ときたら・・・まあ、理菜だけが悪いかと言われれば別にそうでもないので許してあげてください。
それと、そろそろ人間になれそうですね。本当になれるかは保証しかねますが。
最近誤字多くて申し訳ありません。帰宅してから何度もチェックしてるんですけど、わからないときはわからないものですね。




