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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
死者の国
27/96

根っこ

ご高覧いただきありがとうございます。


◇◆◇◆◇


名前:‐

種族:暴食龍(幼体)


Lv:1

HP:9720/9720

MP:3050/3050


状態:未刷り込み


スキル:???


◇◆◇◆◇


 私が卵から出てきた魔物さんに『看破』を使うと、魔物さんはわずかに身じろいだと思えば、覚束ない足取りでのそのそと私の方に歩み寄ってきた。もしかして『看破』使ったから怒っちゃってる?生まれたばかりとは言えこんな高ステータスの魔物さんと真正面からやり合いたくないんだけど。

 私はよちよち歩きで迫ってくる魔物さんから少し距離を取る。魔力の色は卵のころから変化はない。ずっと紫色のままだ。


「キュ・・・」


 私が魔物さんから距離を取ると、魔物さんはその場に突っ伏して悲しそうな声を出した。・・・もしかして、私が離れたから悲しんでたりする?いや、食べようとした獲物が離れてしまって悲しんでるという可能性もある。仕草がいちいち滅茶苦茶に可愛いけど、油断したら喉笛を食いちぎられるかもしれない。一応細剣を構えて万が一に備える。用心しすぎて損はない。


「キュウゥ・・・」


 ぐっ・・・!かわいい・・・!どんな顔をしてるのかすらわからないけど、声と仕草だけでこの私を魅了してきやがる・・・!いやいや落ち着け私、この魔物さんがどんな凶暴性を秘めてるのかわからないんだ。『看破』でもどんなスキルを持っているかわからなかったし。

 でも、そろそろかわいそうになってきたというかなんというか・・・ちょっとくらい構ってあげてもいいんじゃないかと思えてきた。え?また不注意で死ぬって?だって、私が今こうして後ずさってるのに魔物さんは健気に私の方に歩いてきてるんだよ!?生まれたての体で!そんなの!保護するしかないじゃない!


「こっち、くる?」


 魔物さんの傍まで寄ってペットを迎えるみたいに、しゃがんで両手を前に突き出すと魔物さんはさっきとは打って変わって嬉しそうな声を上げながら私の腕にすり寄ってきた。ああ、こんな骨で申し訳ない。こんな寒いところにいるんだから人肌で温めてあげたかったのに。


《種族名『繝??繧コ繝倥ャ繧』の幼体が、プレイヤー『ディラ』を親と認識しました》

《種族名『繝??繧コ繝倥ャ繧』の幼体に名付けを行うことができます》


 どうやら私は本格的にこの魔物さんの親になってしまったらしい。子供より弱い親って・・・威厳無いなあ。それはともかく、名前が付けられるらしい。まさか自分の子どもより先に龍の子供に名前を付けるなんて思ってもみなかった。

 しかし、名前ねえ。自慢じゃないけど、昔飼ってた猫ちゃんに名前を付けようとした時に親から「頼むから名前はこっちで決めさせてくれ」と懇願されたことがあるくらい私にはネーミングセンスがないらしい。猫之介、悪くないと今でも思うんだけど。


「うーん・・・名前、紫・・・パープル・・・プル・・・プルプル・・・いや駄目かな。うーん・・・」


 そうして魔物さんをほったらかしにして悩むこと5分とちょっと。いい感じの名前が思いついた。


「ヴィオってどうかな」


 無難ではあるけど、カッコよくもあり可愛くもあり綺麗でもあるんじゃなかろうか。言わなくてもわかるだろうけど「Violet」から取ってきた。うん、いいんじゃない?

 ・・・捻りがなさすぎるって?うるせぇ!種族名もわからない状態で名前を付けろって方が無茶なんだ!


「キュ!」


 魔物さんはどうやら気に入ったらしい。ステータスを見てみると名前の欄が『名前:‐』から『名前:ヴィオ』と変わっていた。これで名付けが済んだっぽい。


「これからよろしくねヴィオ」


「キュウ!」


 あれ?私の言ってることわかってる?もしかしてヴィオ、お姉さんや王龍さんの身内だったりするのかな?じゃないと私の言ってることわかるわけないし。・・・ああ、親になったからっていうのもあるか。確証があるわけじゃないけどなんだかそんな気がする。

 それはまあいいとして、1つ問題がある。それはヴィオのご飯だ。私は別に食べる必要がなかったというか食べたくても食べれなかったわけだけど、ヴィオはれっきとした生き物だ。食べ物がないと生きていけないと思うんだよね。そこで私はインベントリから氷狼の肉を取り出す。


「ヴィオ、これ食べる?」


 しかしヴィオはそっぽを向いてしまった。どうやら氷狼の肉はお気に召さないらしい。次に氷熊の肉を取り出してヴィオの前に差し出してみるも、ヴィオはまたそっぽを向いてしまった。うーん困った、ヴィオは何を食べるんだろう。


「ヴィオ、何か食べたいものがあるの?」


 ダメもとでヴィオに聞いてみた。生まれたてとはいえ私の言葉を理解してるんだし自分が何を食べれるのか分かっててもおかしくはないと思うんだけどどうだろう。


「キュキュキュウ!」


 ヴィオが可愛らしい声で鳴くと、ヴィオは小さい翼を精一杯羽ばたかせて空に飛んで行った。え、もう飛べちゃうんだ。すごい、さすが私の子!じゃなくて、ヴィオが!ヴィオが私の手の届かない大空に飛んで行ってしまった。追いかけないと。

 ゆっくりと飛んでいくヴィオを追いかけていると、ヴィオの卵が置いてあった湖の場所までやってきた。ヴィオは湖の真上まで飛んで行ってるみたいだ。


「こんなところに何が・・・」


 外套を装備していることを確認して、またスリップダメージエリアに足を踏み入れる。なるべく急いで茂みを掻き分けて湖にたどり着くと、ヴィオはかなりの高さまで飛び上がってしまっていた。そんなところに食べ物があるの?空を飛んでる魔物さんなんて氷獄(二ヴルヘイム)に来てから今まで見たことないけど。 

 ヴィオの飛んでいる空を見上げると、そこにはとんでもなく大きい“何か”があった。1つはお姉さんに見せてもらった根っこと同じ眩しい魔力を帯びているもの。もう1つはその眩しいものに巻き付くような形をしていて、真っ黒な魔力を帯びていた。


「何あれ・・・」


 まさかここの上空にあんなどでかいものがあるなんて思いもしなかった。卵に気を取られていたってのもあるけど、木の根っこって言われてるものが空にあるとは思わないでしょ。というかアレ根っこなの?でもお姉さんが言うから木の根っこなんだろうなあ。そしてヴィオはそれに向かって飛んで行っている。まさかアレを食べたりなんてことはない・・・よね?

 謎の物体に向かうヴィオを眺めることしかできない私は、湖の傍で立ち尽くしていると、突然ヴィオが大きい魔力の塊を口から吐き出して謎の物体に直撃させて、かなりの範囲を抉り取っていた。空からズゴゴゴと凄まじい音が鳴ると、ヴィオによって抉られた謎の物体が空から落下してきていた。

 ズシンと大きい衝撃が周囲一帯に走る。半径数十メートルはある湖をほぼ埋め尽くすくらい大きい物体が私の目の前に落ちてきていた。ヴィオはステータスに恥じない力をお持ちのようで。そして空からヴィオが戻ってきていた。


「ヴィオ、これ食べるの?」


「キュウ!」


 ヴィオは元気よく返事すると、眩しい魔力をした根っこの方に齧り付いた。ヴィオが自分で食べると判断したものだから止めはしないけど、一応『看破』でどんなものなのかを見ておく。


◇◆◇◆◇


世界樹の根

効果:???


この世界の均衡を保つ世界樹『ユグドラシル』の根。一説では神の住まう世界へ行くための鍵になると言われている。


◇◆◇◆◇


 私は理解することを放棄してこの眩しい根っこと一緒に落ちてきた黒いものにも『看破』を使う。


◇◆◇◆◇


邪界樹の根

効果:???


世界樹『ユグドラシル』と対となる邪界樹の根であり、この世界に呪いを振りまく悪しき存在。太古の昔に邪神によって生み出されたと語られている。


◇◆◇◆◇


 邪界樹ってあれだよね、王龍さんのいたダンジョンに同じ名前が入ってるよね。お姉さんや王龍さんと関係してるんだろうなあ。お姉さんの国と近いから別に不思議ではないけど、私の知り合いのやばさが際立ってきている。どうしてこう、なんというか、まともというか普通の人が私の交友関係にないんだろう。お姉さんはまともだけど普通ではないし、王龍さんは論外だし、死霊さんは前の2人と比べてまだマシとはいえそれでもぶっ飛んだ存在だし。おばあさんはよくわからない。

 そうしている間にヴィオは食事を終えたようで、私の足元にちょこんと座っていた。かわいい。


「ヴィオ、かなり残ってるというかほとんど落ちてきたままだけどもういいの?」


「キュ!」


 短い手でお腹をポンポンと叩くヴィオ。お腹いっぱいってことなのかな。

 しかしこの滅茶苦茶大きい2つの根っこはどうしよう。インベントリに重量制限があるっていう話は聞いたことがないけど、こんな冗談みたいなサイズのアイテムしまえるのかな。試しに邪界樹の根を掴んでインベントリに入れてみるとすんなり入った。


「入るんだ・・・」


 そのまま世界樹の根も同じようにインベントリに入れてみるとこちらもなんの抵抗もなく入った。これでお姉さんの言ってたものの回収は済んだかな?このままお姉さんに言って階段傍まで送ってもらってもいいけど、せっかくヴィオがいるんだし適当な魔物さんと戦闘してからでもいいかな。

 ステータスを見て根っこ2つが入ってることを確認して・・・


「残りHP4!?」


 なんと残りのHPが4しかなかった。まずい、今から全力でここから出ようとしても1分は間違いなくかかる。ここにいると10秒でHPが1減るから、絶対に間に合わない。慌てている間にまたHPが1減った。何か、何かこの状況を打破できるアイテムは・・・


「・・・あるにはあるけどさ」


 そう、『減命の蜜酒』だ。アンデッドの私でもHPとMPを全回復出来てさらにSPを10も付与される素晴らしいアイテムだ。最大HPが減少するというデメリットさえ無ければの話だけど。しかもどれだけ減るかが明記されていないという文字通りの心折設計だ。

 でも、私がここで助かるにはこれを飲むしかないというのもまた事実だ。私は死んでもどこかにリスポーンできるけど、その間ヴィオはここに置き去りになってしまう。それは駄目だ。曲がりなりにも私はヴィオの母親だ。そんなことはできない。そうしている間にまたHPが1減る。もう残りは2しかない。


「ええい!どうにでもなれ!」


 蜜酒を一気に呷る。即座にステータスを確認する。HPは全回復したはずなのに823しかない。え、1000くらい減ってない?


《存在進化『???』の解放 823/1500》

《存在進化『???』の解放条件をすべて満たしました》

《存在進化『???』が解放されました》

《・・・》

《存在進化『???』の解放 823/1000》

《存在進化『???』の解放条件をすべて満たしました》

《存在進化『???』が解放されました》

《解放された進化先が複数存在します》

《進化先を選択してください》

▶『骸骨騎士(スケルトンナイト)

▷『???』

▷『???』


《一定時間回答が得られない場合、解放された存在進化先からランダムで選ばれます》

幼龍の名前決定&根っこ回でした。

謎の卵から生まれたヴィオ、なんと根っこを食べています。意外とベジタリアンなのでしょうか。

そして今回で名前ばかりだった邪界樹がようやく姿を現しましたね。根っこだけですが。どうやら邪界樹は呪いを振りまく厄介なもののようです。そんな樹の近くにある魔国とやらはどんな国なんでしょうね。


ちなみにですが、猫之介は投稿者の友人の飼い猫の名前です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴィオちゃんはヨルムンガンドの親戚なんだろうな~…… ヨルムンガンドがどこの誰かは知りませんが……(多分)
[気になる点] 「・・・捻りがなさすぎるって?うるせぇ!種族名もわからない状態で名前を付けろって方が無茶なんだ!」ってところ「暴食龍(幼体)」って言う種族名わかってるのでは?
2022/02/17 21:45 名無しのななし
[一言] 木の根っこを食べるユグドラシル系ヘビ…… なるほどなぁ
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