聖なる泉
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12/5 誤字報告ありがとうございます。
相も変わらず川に沿って歩き続ける。遠くの方からずっと紫色の魔力が見えるけど、何の光なんだろう。よく見ると前に見た王龍さんの魔力に似てなくもないんだけど、王龍さんはすごく濃い紫だったけど今見えてる魔力はなんだか薄い。水をたくさん含んだ絵具みたいな色をしてる。
「さっきから魔物さんも多いし、向こうに何かあるのかな」
そう、さっきから私に絡んでくる魔物さんがすごく多い。『単独行動』持ちの氷狼が群れてた時は我が目を疑ったね。まさか魔物さん自らが自身のスキルを死にスキルにするとは夢にも思わなかった。狼さんは『吸魔』を駆使して何とか全部倒せたんだけど、戦闘音に釣られたのか人型の1体の魔物さんがやってきて殺されかけた。『看破』をする余裕すらなかったからどんな魔物さんなのかわからないけど、攻撃が掠っただけで600近くHPを持っていかれたからボス的な存在だったのかもしれない。
そのボスっぽい魔物さんからは何とか逃げることができた。たまたま近くの木に氷軍蜂の巣があったみたいで、その魔物さんと蜂さんが戦いだして私は難を逃れることができた。
一応この『減命の蜜種』というアイテムでこの3桁まで減ったHPを回復することはできるんだけど、如何せんデメリットがきつすぎる。『使用時の最大MPに応じて最大HPが減少する』らしいけど、最大MPが多ければ最大HPが大きく減るのか、最大MPが低ければ最大HPが大きく減るのか、そこをしっかりと明記してくれないと怖くて使う気にもならない。どうするよ、これ使って最大HP1とかになっちゃったら。スペ〇ンカーじゃないんだからさ。
そのあとも絡んでくる魔物さんを倒したり躱したりすっかり氷が解けた川に叩き落したりして、先へ進んでいく。あの遠くに見えていた紫の魔力もかなり近い。
「何があるのかな・・・」
これまで川の傍はある程度木が捌けていたのに、突然川に覆いかぶさるように木が生い茂っている場所についた。紫色の魔力の出どころもここだ。まるで外敵から守るかのようにドーム状に木が生えていて、これ以上は入るなという意図を感じる。木を掻き分けようと茂みに手を入れたらメッセージウィンドウが出てきた。あれ、何かデジャヴ。
《警告、この先には神聖結界が張られています》
《現在のプレイヤー『ディラ』がこの先に踏み入ると、濃い聖気により浄化、死亡判定になります》
《それでも先へ進みますか?》
▶YES
▷NO
あの階段の時と同じだね。しかし聖気ねえ、アンデッドな私に1番ダメージが入りそう。確かにこのままじゃ入れないけど、死霊さんにもらった『聖穢の外套』を装備したらなんとかならないかな。
外套を羽織って装備状態になってることを確認して、もう1度茂みに手を入れてみる。・・・メッセージウィンドウは出ない。これは入っても大丈夫という感じなのかな?恐る恐る茂みに踏み入ると、10秒間隔でHPが1ずつ減っていってる。完全シャットアウトは無理らしい。でも、これくらいなら中に何があるか見てすぐに出てくるくらいはできる。
「よし、なるべく駆け足で行こう」
少し助走をつけて茂みに勢いよく突っ込む。途中で体が太めの木の枝にぶつかったりもしたけど、開けた場所まで辿り着くことができた。そこはかなり大きい円形の広場で、真ん中に大きめの湖があった。ずっと見えていた紫の魔力は湖から発せられていた。
こうしている間にもじわじわとHPは減り続けているから、速足で湖の傍まで駆け寄って湖の中を覗き込む。私の目では水深とかがよくわからなかったけど、湖の真ん中に紫の魔力を放出する丸い物体があった。こんなところにある湖だからこの湖の水にも聖気とやらがたっぷり含まれてるんじゃないかと思って指先だけチョンと水面に触れてみたけど、特にメッセージウィンドウが出たりHPが大量に減ったりだとかそういうのはなかった。
「入ってみようかな・・・」
なんとなく湖の真ん中に沈んでいるものが気になっていた私は残りのHPを確認しつつ、湖に入ってみることにした。いざ入ってみると湖は膝くらいまでの深さで、泳ぐ必要もないくらいだった。そのまま湖の真ん中まで行って、沈んでいるものを両手で拾い上げる。思ったよりも大きい。
「何だろうこれ」
◇◆◇◆◇
繝??繧コ繝倥ャ繧の卵
◇◆◇◆◇
卵・・・らしい。バランスボールくらいのサイズだけど何が入ってるというんだこんなものに。相変わらず名前読めないし。この卵から生まれる何かのためにこの湖に沈めてあったのかな。水の中に沈めておいて孵化するなんて想像つかないけど、ゲームだしそういうものなのかな。
勝手に納得して卵を湖の中に戻そうとすると、卵が揺れた気がした。あれ、もしかして生まれる寸前だったりする?じゃあ早く湖に戻してあげないと。そうして湖に卵を着水させて沈むところを眺める。うーん、水に沈むにつれて明らかに卵の動きが弱くなっていってるような・・・何だか悪いことをしている気分になってしまう。もう一度卵を拾い上げてみると、やっぱり卵は元気に動き出した。どう見ても湖が卵の孵化を抑制してるよね、これ。
だんだん卵がかわいそうになってきた。しょうがない、湖から出してあげよう。バランスボールサイズの卵をなんとか湖から運び出して一息つく。でも、ここでゆっくりするわけにはいかないんだよね。まだHPはあるけどこのままここにいたら私が衰弱死してしまう。
「これを持ったまま茂みを抜けるのはちょっとなあ」
というわけで卵を運動会の玉転がしよろしく、手で押して転がして茂みを切り開いていく。わざわざ手で掻き分ける必要がないから結構楽だねこれ。
そして木が生い茂るゾーンを何とか抜けて、HPが減らないことを確認して近くの木の下で腰を下ろす。これから何が生まれるんだろうねえ、というかこの卵のお母さんやお父さんはどこに行ったんだろう。我が子を放っておいて2人ともお出かけなんてネグレクトだよネグレクト。・・・あれ?もしかして、この状況をこの子の親に見られたら私まずくない?
人の家から勝手に赤ちゃんを連れだしてることになるから実質誘拐?これ、今からでも湖に戻してきた方がいいんじゃ・・・
なんて考えていると、隣の卵からピシッという音がした。え、生まれちゃう感じ?何か止める方法は・・・卵を冷やす手段も今も破られつつある殻を抑えることもできない。
そうこうしているうちに卵の殻は完全に割れて、横倒しになった卵の中から何かが這い出してくる。
「え・・・?」
慌てて『看破』を使うと、そこには信じられない言葉が羅列されていた。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:暴食龍(幼体)
Lv:1
HP:9720/9720
MP:3050/3050
状態:未刷り込み
スキル:???
◇◆◇◆◇
・・・どうやら私はとんでもない卵を孵化させてしまったようだ。龍て。
謎の湖&卵回です。
理菜は知らず知らずのうちに母親になってしまいそうですね・・・龍(竜)の卵といえば、某ハンティングアクションゲームの夫妻が連想されますが、親はどこに行ってしまったんでしょうか。旧時代の卵運搬クエストは許されてはいけない。




