生存戦争
ご高覧いただきありがとうございます。
川に沿って歩いていると、途中から1本の川が合流していて4メートルはありそうなくらいに川幅が広がっていた。氷もところどころ溶けているようで、もう少し進んだら川が渡れなくなりそう。向こう側に何かあった時どうしよう。
なんて考えて立ち止まっていると、木が生い茂る森からズシンズシンと地響きが響いた。
「地震・・・?」
音のした方を警戒しながら歩いていると、少し遠くの茂みに魔物さんの魔力が見えた。ここからじゃ『看破』は届かないけど、朱色っぽい魔力が見える。何かと戦ってるのかな?
あんまり関わり合いになりたくないから魔物さんは見なかったことにして川沿いを歩き続ける。すると、地響きの音が少し大きくなってきたように感じた。まさかだけど最初から私に敵対しててこっちに向かってきてる、なんてことあるわけ・・・
さらに地響きは大きくなって、地面の揺れが私にまで伝わってくるようになっている。
「そんなわけあったああああああああ!!!!!!!」
魔物さんはすぐそこまで迫ってきてるけど、幸運なことにこの辺は草が生い茂っていて見通しが悪い。私は魔物さんの姿が見えてるけど、魔物さんには私に姿は見えていないはず。今の間にどこかに隠れないと。
私は少し離れたところにある大きめの木によじ登って息をひそめる。まさか幼少期に鍛えた木登りスキルがこんなところで役に立つなんて、人生何があるかわからないものだね。
私が木に登って10秒も経たないうちに魔物さんは姿を現した。結構大きい、上から見下ろしてるとよくわからないけど、3メートルくらいはありそう。魔物さんはキョロキョロと周りを見回しながら川の側を歩いている。明らかに何かを探してる動きだけど、対象はどうせ私なんだろうなあ。
しかし、あんな遠くにいたのにどうして私を見つけることができたんだろう。何かここの魔物さんたちとは違う気配みたいなものが私にあるんだろうか。
「このまま戦うにしても逃げるにしても情報は欲しいよね」
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷熊
Lv:57
HP:9400/9400
MP:0/0
スキル:「鋭爪」「咆哮」「強靭」
『鋭爪』
効果:爪を使った攻撃時、与えるダメージが上昇(小)
『咆哮』
効果:けたたましい声を上げ、周囲の生物を怯ませる[成功率:小]
◇◆◇◆◇
おお、純粋なパワーファイターって感じ。というかこれ、おっきい熊さんだったのね。イエティとかビッグフットとかのUMAみたいな魔物さんがいるんじゃないかと思って少し期待してたんだけど。しかしこの熊さん大きいね。人里に出没なんてしたら小さな村くらい全部胃の中に入りそう。
私が『看破』を使ったせいか、熊さんは大きな唸り声を漏らして辺りを警戒してる。やっぱり生き物に使うのはリスク高い感じだよねえ、仮にこの熊さんと正面から向き合ってる時に『看破』なんて使ってたら怒り狂った熊さんに粉々にされそう。
「早くどこかに行ってほしいんだけどなあ」
私を追いかけてきたと思わしき熊さんは、未だに周辺をウロウロしている。まさか私がいることを知ってて弄んでたりする?だとしたら神経疑うんだけど。
すると熊さんは傍にあった木の幹を嚙み砕いて木を1本倒した。木が横倒しになったかと思うと、葉っぱの中から無数のの小さな魔物さんが出てきて熊さんに攻撃しだした。ド〇クエのカバシラーみたい。魔力だけ見える私でもちょっと気持ち悪い。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷軍蜂
Lv:20
HP:1500/1500
MP:120/120
状態:支配
スキル:「毒使い」
◇◆◇◆◇
蜂さんということは今熊さんがなぎ倒した木に蜂の巣でもあったのかな。あれ?もしかして私、最初から狙われてなかったりする?たまたまこの蜂さんの巣が私の近くにあって、その蜂の巣をロックオンした熊さんが私の方に向かってきて、それを私が襲われてるって勘違いだったりするのかも。なーんだ、じゃあ慌てる必要がなかった・・・わけではないよね、今の熊さんの状態を見る感じ。
なぜなら熊さんは誰とも戦ってないのに常に警戒状態にあったわけで、蜂の巣を見つけて一目散に走ってきてたわけだ。つまりお腹が減っていたと考えるのが妥当というわけ。んでこんなクソ寒い世界でお腹が減っていたらどうなるか、骨ですら食料認定されかねない。
「そういうわけだから蜂さんには悪いけどここは静観だね」
後から私に襲い掛かってきたらきたで改めて相手をしてやろうじゃないの。勝てるかなんてわかんないけど。格上だし。
しばらく蜂さんと熊さんの戦いを眺めていると、戦況が少し変わってきた。最初は力にものを言わせて次々と蜂さんを噛み砕いて叩き落として踏みつぶしてと好き放題していた熊さんが、一匹の大きな蜂さんの登場で若干追い込まれている。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷女王蜂
Lv:49
HP:7059/7720
MP:1499/1810
スキル:「劇毒」「風魔法Ⅷ」「統率」
『劇毒』
効果:自身の魔力を消費して、強力な毒を体内に生成する。
◇◆◇◆◇
おおー女王蜂さんだ。働き蜂に守らせるだけじゃなくて自分から巣を守るなんて上司の鏡すぎる。しかも結構強い。この『劇毒』とかいうスキルで熊さんのHPをゴリゴリと削ってる。1万近くあった熊さんのHPがもう3000を切ろうとしてる。最初は蜂さん側が負けるかなーと思ったけどこのままいくと熊さんが負けそうだね。
すっかり観客気分で蜂さんと熊さんの死闘を観戦していると、熊さんが女王蜂さんに突撃していって女王蜂さんの羽とお腹の一部を鋭い爪で抉り取った。羽を半分失った女王蜂さんは地面にべしゃりと落ちてしまう。女王蜂さんを守ろうと蜂さんが女王蜂さんの元に集まるけど、熊さんが女王蜂さんを守っていた蜂さん諸共踏みつぶしてしまった。あちゃー、蜂さんはもう無理かな。
そのあとは統率を失った蜂さんを熊さんが駆除して勝負は決着となった。そして熊さんは倒れた木の葉っぱの部分をわさわさと探って中から超大きい蜂の巣を取り出した。
「よーし、そろそろかな」
勢いよく木から飛び降りてわざと音を鳴らして熊さんにも聞こえるように着地する。熊さんは私の方に振り向いて、蜂の巣に伸びる手を引っ込めて警戒態勢を取る。
「『闇波』!」
そんな熊さんの顔面に先制で『闇波』を撃って目くらましをする。見開いた目に直撃したのか熊さんは身じろいで動きが鈍る。その隙を逃さないよう、私は熊さんの背後に回って大きい背をよじ登る。私が背に乗ってることに気付いた熊さんはなんとか私を振り落とそうと暴れて、振り落とされそうになる。
「この、大人しくしなさい!」
暴れる熊さんの首元に細剣を突き立てる。動きを鈍らせるつもりだったんだけど、鈍らせるどころか熊さんはうつぶせに倒れて動かなくなってしまった。しまった、やりすぎたかもしれない。慌てて『看破』を使うと、まだ熊さんはご存命であることがわかってホッとした。とはいってもHPは500もないくらいで瀕死も瀕死だ。そんな瀕死の熊さんに向かって『吸魔』を放つ。細剣でとどめを刺してたら『吸魔』が使えないもんね。危ない危ない。
それにしても、狼さんを倒したときはちょっと嫌な気分だったのに何故か熊さんの時はヒャッハー状態になってしまった。今も気分がいいし、アドレナリンでも出てるのかな。後で自己嫌悪に陥りそうで嫌だなあ。
気を取り直して戦利品を確認する。熊さんからドロップした爪と毛皮と肉。それに周りに散らばってる蜂さんの残骸と蜂の巣くらいかな。
◇◆◇◆◇
氷熊の氷爪
効果:なし
氷熊の爪。この爪を加工した武器で傷をつけると、『凍傷』の状態異常を付与できる。
氷熊の毛皮
効果:耐寒
氷熊の毛皮。そのままでも装備できるが、装備として加工すれば極めて優秀な耐寒性能を持つ。
氷熊の肉
効果:なし
氷軍蜂の殻
効果:なし
氷軍蜂の毒針
効果:なし
氷軍蜂の毒針。この毒針を加工した武器で傷をつけると、『毒』の状態異常を付与できる。
氷女王蜂の毒針
効果:なし
氷女王蜂の毒針。この毒針を加工した武器で傷をつけると、『劇毒』の状態異常を付与できる。
氷軍蜂の巣
効果:なし
非常に大きなハニカム構造の巣。一部の好事家が高く買い取ってくれる。
氷軍蜂の蜜
効果:状態異常の回復
純度100%の非常に希少な蜜。どんな状態異常でも治癒できると言われている。冥府の女王の好物だという逸話もある。
◇◆◇◆◇
色々あるけど、この蜜は帰ったらお姉さんにプレゼントしてみよう。世話を焼いてもらってるからお礼としてね。下心がないのかと言われれば何とも言えないけど。
アイテムの回収も終わったことだし、再び川に沿って歩き始める。なんだかさっきから川の先の方に魔力がチラチラ見えてるんだよね。お姉さんに頼まれた根っこみたいな魔力じゃないんだけど、なんか『邪界樹の洞穴』でちょくちょく見かけた紫色っぽい魔力が。
・・・
《『英華の宝珠』に呪力が溜まりました》
《現在 30/1000》
《以上の情報は、『繧ィ繝ォ繝■?繧ケ』の意志により、秘匿されます》
というわけで戦闘回でした。
早くも理菜が若干おかしくなっていますが、現実の肉体及び精神には影響はありません。
氷獄の生き物は冬眠ができないので常に空腹状態でそこら辺を彷徨っています。冬眠をしようと思えばできるのですが、暖かくなることはないので眠ればそのまま死にます。だから狂暴なんですね。




