命は儚い
ご高覧いただきありがとうございます。
「なにここ・・・森?」
目を開けると私は切り立った崖の上に立っていて、目線を下にやるとそこには地の果てまで続いていそうな広大な樹海が広がっていた。これはすごい、富士の樹海なんて目じゃないくらいに広い。
お姉さんからの依頼はあのやたら光ってる根っこを取ってくることだったよね。とりあえず周りを見回してみるけど、一面銀色の魔力で包まれていて根っこらしき光は見えない。根っこというくらいだから私の眼下に広がる森にあるんだろうけど、これどうやって下りよう。
私の立っている場所は明らかに人の手が入ってない崖で、当然日本の山みたいに登山道が整備されているわけもない。
「どうしようかなあ」
どうやって下の森に下りようかと周りをウロウロしながら考える。あ、ここ雪が積もってる。雪なんて数年ぶりに見たかも。久々の雪に少々気分が高揚して足元に積もってる雪をサクサクと踏み均して遊んでいると、突然強い風が私の周囲に吹き荒れた。この風も魔力を纏っているのか、私の視界は銀色に覆われて周りが見えなくなる。
「あっ」
風の勢いが弱まってきて視界が開けてなんとか体勢を整えようとした時、さっき踏んで遊んでた雪が私に牙を剥いた。といっても踏まれて固まった雪で足を滑らせただけなんだけど、如何せん場所が良くなかった。風のせいでいつの間にか崖の際まで来ていた私は、そのまま崖を滑落していった。
ものすごいスピードで崖から落ちていく。雪で滑って転んでそのまま崖に放り出されたから、まともな体勢で受け身もできるわけがなく、岩肌にぶつかってその反動で少し跳ねてまた岩肌にぶつかって・・・という感じでHPがガリガリ削られながら崖から転がり落ちていく。さすがにこのままではまずいから細剣を岩肌に突き刺して、細剣につかまってぶら下がる形で止まることができた。
「うひゃー、まだまだ高いなあ」
結構な距離を転がり落ちたと思ったんだけど、まだ半分に差し掛かるかといったところだった。とりあえずこれで安全な体勢で下りることができるかな。
岩肌に背を向けて踵で岩肌を削るようにして重力に従いながら少しずつ下りていると、岩肌に1本だけポツンと生えている木があった。逞しい木だなと思って横目で流していると、その木から蔦が私に向かって伸びてきた。
「うわ、何!?」
明らかに私を狙う動きをしている蔦と樹に『看破』を使用する。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷妖樹
Lv:14
HP:1990/1990
MP:305/305
スキル:‐
名前:‐
種族:氷妖樹の蔦
Lv:14
HP:1990/1990
MP:0/0
スキル:‐
◇◆◇◆◇
どうやらこの木は魔物さんのようだ。なんでこんなところに生えてるのかは知らないけど、こんなところで獲物ってかかるのかな?実際今襲われてるわけなんだけども。
落ち着いて私に迫る蔦を斬り払う。ゆっくりとはいえ崖から下りている最中の私にあの魔物さんを倒しに行く術はない。大した魔物さんじゃなから倒したかったけど、さすがに空中浮遊でもしないとあの魔物さんには届かない。やられっぱなしも癪だから魔物さんが見えなくなる前に『吸魔』を使って嫌がらせをしておく。お姉さんにどんどん使えって言われたしね。
魔物さんが見えなくなって、しばらく何もない岩肌を下りていると、少し先の岩場が妙に膨れ上がっていた。このまま下りているとスキージャンプみたいに空に打ち上げられちゃうから、少し右に逸れるように体勢を変える。
すると、不自然に膨れていた岩肌からさっきの木と同じ樹が生えてきた。木が岩肌を割るように生えてきたせいで周りにそこそこ大きめの岩の破片が飛び散る。真横にいた私は当然その破片が体にぶつかってきて、その衝撃で岩肌から離れてしまった。
「うわああああ!!!!!」
なんの支えもなくなった私は宙に投げ出されて、そのまま自由落下していった。とんでもない早さで森まで落ちていったけど、大きめの樹の葉っぱがいいクッションになってくれて地面にぶつかって死亡という流れは避けられた。この高さじゃ足をくじくどころじゃ済まないからね。
樹から下りて周りを見回すけど、どこを見ても木、木、木!という感じで方向感覚が狂いそうになる。森の中は方位磁石が狂うっていうけどこんなのを目の当たりにすると気休めでもいいから欲しくなる。
「周りの木は大丈夫なのかな」
しかもだ、ここの木はさっき崖で私を襲ってきた魔物さんと見た目が同じなのだ。『邪界樹の洞穴』とは違ってアンデッドの魔物さんじゃないから、あんまり刺激はしたくないけど『看破』を使わないと安全かそうじゃないかはわからない。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷妖樹
Lv:22
HP:837/2420
MP:221/360
状態:休眠
スキル:‐
◇◆◇◆◇
周りの木にも『看破』を使ってみたけど、どれも崖にいた魔物さんと同種だった。でも寝ちゃってるみたい。みんなHPも減ってるし、木だから自然回復するために寝てるのかな。なんにせよ襲ってこないのなら好都合だね。さすがにこの森全部の魔物さんが襲ってきたら勝ち負けとかいう話どころじゃなくなる。多勢に無勢もいいところだ。
道を忘れないために木に傷をつけて目印にしたいんだけど、大丈夫かなこれ。傷をつけたら突然目を覚まして周りの魔物さんもみんな目覚めて無数の蔦に押しつぶされるなんてことになったら一生のトラウマになりそう。
恐る恐る細剣で魔物さんの幹に傷をつけてみる。なるべく浅く、なるべく小さく。傷をつけてすぐさま魔物さんから離れて様子を伺う。
「大丈夫・・・かな?」
念のため『看破』でも確認したけど、相変わらず状態は『休眠』だった。傷をつけても大丈夫なことを確認した私は、2∼3本に1つくらいの間隔で木に傷をつけながら移動を始めた。
しばらく進んでいると、少し前の茂みから何かが飛び出してきた。四足歩行の魔物だ。魔力の形から見て犬かな?
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:氷狼
Lv:35
HP:4070/4420
MP:50/50
スキル:「一匹狼」「狩猟」
『一匹狼』
効果:パーティを組まずに行動すると、能力値上昇(小)
『狩猟』
効果:倒した獲物の肉のドロップ確率上昇(小)
◇◆◇◆◇
わんこではなく狼さんだったらしい。しかし、わざわざ私の前に出てきてくれるなんて律儀というかなんというか。ここら辺は茂みが多くて視界が不安定だから奇襲でも仕掛ければよかったのにと思う。ド〇クエのモンスターも先制で切りかかってくるというのに。
しかもこの狼さんは仲間を連れていないらしい。こういう魔物さんって群れで襲い掛かってくるイメージなんだけど、単独行動を推奨するようなスキルも持ってるしそういう種族なのかな。
「仕掛けてこないならこっちからいくよ!」
細剣を構えてしばらく待っても狼さんが私に攻撃してくることはなかったから、じれったくなって私から攻撃を仕掛ける。牽制で『闇撃』を撃って狼さんの出方を見る。すると、狼さんは馬鹿正直に大口を開けて私に噛みついてきた。まさか何の策もなく突っ込んでくるとは思っていなかった私は、驚いて行動に移すのが一瞬遅れる。狼さんの口が迫ってきて、慌てて細剣で横に斬り払う。細剣が迫るのを見た狼さんは身を翻して細剣を避ける。
「アンデッドと知能は同レベルだけど素早い感じね」
少しの間戦っていたけど、狼さんが攻撃したら私がカウンターを入れて狼さんがそれを避けるといった感じで見事に平行線だ。お互い冷静だから思い切った行動に出れない。そこで、狼さんを慌てさせてみることにする。
「『吸魔』!」
私は『吸魔』を使って狼さんのHPとMPを吸い取る。狼さん、MPはほとんどなかったからHP結構削れてるんじゃないかな。
すると狼さんはHPが減っていくことに気付いたのか、少し後ずさってそのまま茂みの中に隠れてしまった。逃げたのかなとと思ったけど、周りの茂みがガサガサと揺れ動いたと思ったらまた別の場所の茂みが揺れる。なるほど、攪乱してるってわけね。上等じゃん。
でも悲しいかな、物体じゃなくて魔力を見ている私の目には狼さんが移動している姿がクッキリハッキリ見えてしまっている。申し訳ない気持ちもあるけどこれは狼さんから仕掛けたから文句ないよね。あってもらっても困る。
「そこ!」
そんなことは知るはずもない狼さんは一頻り茂みを揺らした後、私の背後から襲い掛かってきた。私はあらかじめ構えていた細剣で狼さんを突く。ごめんね、そこにいるの知ってたの。口から頭まで細剣が貫通した狼さんは甚大なダメージを負ったのか、少し呻いて消えていった。
これまで見てきたのがアンデッドばかりだったから躊躇はしなかったけど、いざ生き物を殺すとなると何とも言えない感覚だね。あんまり気分がいいものでもないし、敵対しなければ基本見逃す方針にしようかな?
狼さんから何かドロップしてた。毛皮とお肉っぽい。
◇◆◇◆◇
氷狼の毛皮
効果:耐寒
氷狼の毛皮。そのままでも装備できるが、装備として加工すれば極めて優秀な耐寒性能を持つ。
氷狼の肉
効果:なし
◇◆◇◆◇
ここの環境を考えたら妥当な性能かもね。しかし肉なんて落とされても私では処理できないんだよねえ。嫌がらせか何かだろうか。お姉さんとビュートさん、お肉食べるかな。
またしばらく木に傷をつけながら森の中を探索していると、川を見つけた。これ、上流の方に向かえば人がいたりするのかな、と思ったけどこの川凍ってる。寒いもんね、仕方ないよね。とにかく、わかりやすい目印を見つけられたのは大きい。凍った川の対岸に渡ってそのまま川に沿って歩き続ける。
◇◆◇◆◇
『細剣術・猛撃』
効果:細剣を装備時、突きに関する技術が大幅に向上する。また、弱点を攻撃した際に、与えるダメージが上昇する(小)。
氷獄での探索&初の殺生回でした。
理菜はこれまでアンデッドばかり(のみ)見てきたので、生き物の命を奪うことに関してはあまり乗り気ではありません。「この子にも家族が~」とか考えるタイプです。果たしてその考えはどこまで持つんでしょうか^^




