力はすべてを解決する
ご高覧いただきありがとうございます。
『さて、まず何から話しましょうか』
お姉さんが向かいのソファに腰かけて、いつの間にか出されていたカップの中身を啜る。いいなあ、早く私も飲み食いできるようになりたい。AAOは味覚もリンクしてるらしいのに、私はまだその恩恵を受けれてない。やっぱり一刻も早くお姉さんの協力を得ないと。
『まずはディラの状況を確認したいのだけれど、あなたは自分が今どんな状態なのかもよくわかってないみたいだし・・・あんまり気は進まないけれど、ちょっと見させてもらうわよ』
お姉さんがそう言うと、内臓が縮こまる感覚に襲われる。あ、これ『鑑定』だ。おばあさんにされて以来だからちょっと久しぶりかも。
お姉さんが私のステータスを見てうんうん唸ってるのを見て、すぐには終わらなさそうだと判断して私も自分のステータスを見る。
◇◆◇◆◇
称号:セットなし
名前:ディラ
種族:劣種竜骸兵
職業:‐
所持金:10000ギル
Lv:‐
HP:1880/1880
MP:956/1108
SP:3
装備:瘴石英の細剣、瘴気の編み上げ靴、蜀・逡後?鬥夜」セ繧
スキル:「闇魔法Ⅱ」「錬成」「瘴気」「念話(邪)」「看破」「吸魔」「竜の因子」「詠唱破棄」「細剣術・流麗」「細剣術・猛撃」
パッシブスキル:なし
取得称号:『管理繝ウのお気に入り』『艱難辛苦を求めし狂人』『最速の異界人』『邪王龍の友』『超オーバーキル』『弱点克服への一歩(聖)』『暗愚の屍』『卑劣』
アイテム:存在進化のスクロール、聖水×9、瘴気に染まりし錆びた長剣、聖穢の外套、減命の蜜種、英華の宝玉、回復のポーション・魔除×3
◇◆◇◆◇
落ち着いてステータスを見ると、明らかにHPが減ってるのがわかる。ほんとに何が原因なんだろうか。それと何故かMPが2倍以上に跳ね上がってる。前に遭遇した魔導さんが『命換』とかいうHPを減らしてMPを増やすスキルを持ってたけど、私はそんなスキル持ってないし取得する余裕もない。だとすると効果がよくわからない『竜の因子』が悪さでもしてたりするのかな。いやでも私を頂へどうたらこうたらってテキストに書いてあったから、私を強くするためのスキルならHP減らしちゃ駄目だし・・・ああもう、よくわからん!
ステータスを閉じて考えることを放棄すると、お姉さんもちょうど考え事が終わったようで私の方を向いていた。
「どうでした?」
『どうも何も・・・ディラ、この「存在進化のスクロール」ってどこで手に入れたの?』
これは難しい質問だ。このゲームのNPCであるお姉さんにキャラメイクだのAIだのを説明しても絶対に理解できないだろうし、どう説明したものか。どうやってお姉さんに伝えようかと頭を悩ませる。
『・・・言えないような事情があるのなら無理に聞こうとは思わないわ。ただ、このアイテムはディラにとっては良くないものかもしれないわ。ディラを疑っているわけではないけれど、一応このアイテムを見せてもらってもいいかしら』
「あ、はい。どうぞ」
別に言えないわけじゃないんだけど、お姉さんが勝手に納得してしまった。まあいいや。
お姉さんがどうやら『存在進化のスクロール』を見たいらしいからインベントリから巻物を形をしたものを取り出してお姉さんに渡す。しかし、私にとってよくないって何なんだろう。身長が減るんだとしたら一大事だ。ただでさえ低い身長が更に減りでもしたら私は消滅してしまう。
『・・・おかしいところは特にないわね。変な魔力を纏ってるわけでもないし、神気を帯びてる様子もない。ビュート、一応あなたも見ておいてくれる?』
「わかりました。ほう、これはまた懐かしいものですね。しかし、あの時とは帯びている魔力が・・・うん?」
『何か変なところでも見つけた?』
「いえ、安全なものだという確証が得られました。名前こそ同じですが、これはあの娘が完全に作り変えています。ディラ様に害を及ぼすことはないかと」
『ああ、なるほどね。それなら安心だわ』
お姉さんとビュートさんが小声で話し始めた。何を言ってるのか一言も聞き取れないんだけど。内緒話を盗み聞きする趣味は持ち合わせてないから別にいいんだけど、仲間外れみたいで寂しい。
『放っておいてごめんなさいねディラ、これは何の害もないのがわかったし返すわ』
どうやら『存在進化のスクロール』は安全なアイテムらしい。よかった。地味に私の進化の鍵になってるアイテムだから没収されたらされたでそれは大いに困るからね。
『さて、ディラのこともよくわかったことだし本題にいきましょうか。あなたの姿を元に戻してあげる・・・とはいかないわ。いくら私でもそう簡単にはできないもの』
「やっぱりそうなんですか」
予想してはいたけど、そう話は甘くないらしい。そうだよね、こんな変な骸骨に肉体を付けるんだし、そんな簡単にできちゃ拍子抜けだもんね。何かしらの依頼達成条件とかなのかな。
『別にディラに肉体を付けるのはできないわけじゃないんだけれど、今のあなたに肉体を付けようとすると腐竜骸なんて見てくれの悪い種族になっちゃうのよ。そんなのディラだって嫌でしょう?』
どうやら肉体を付けるのは進化に値する行為らしい。誰かに進化させてもらえるシステムなんてあるんだ。
しかし、腐竜骸ねえ。ゾンビかあ・・・うーん。せっかく骸骨から人間になろうとしてるのに別のアンデッドにクラスチェンジしてもってところだよね。どうせならちゃんと肉体つけたいもんね。
「ゾンビはちょっと嫌かもですね」
『よね、じゃあディラがちゃんと肉体を得るための方法なんだけれど・・・』
さあ、どんな無理難題が飛んで来ようとも私はやってみせるぞ!
『ディラが強くなるしかないわね』
「え?」
自己研鑽を積むしかないんだって。「肉体を付けるには〇〇っていう貴重なアイテムが必要で~」みたいな展開でヘルヘイム探索パートかと思ったら修行パートだったらしい。
でも強くなるって言ったって、私にはレベルなんて概念がないんだよね。スキルは取得で強くなるってこと?スキルが取得できそうな行動を虱潰しにやるとか私嫌だよ?
『ここで放り出すほど鬼畜じゃないわよ。そのために必要なことをディラに頼むから、それをこなしてくるだけでいいわ。それにしても、レベルを封印するなんてお母様は何を考えているのかしら・・・』
「わかりました」
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけど、依頼パートで合ってたらしい。よかった、地上に出るのが数年後とかになるような事態は避けられた。
『じゃあ、ディラには氷獄にある木の根っこを取ってきてもらうわ。これと同じ物よ。ディラの目ならわかりやすいんじゃないかしら』
《特殊依頼『氷獄に伸びる根』を受理しました》
《この依頼は破棄することができません》
そういってお姉さんが懐から棒状のものを取り出した。魔力が眩しすぎてよく見えない。色も判別しにくいけど、これだけ光っていれば確かに私ならわかるかも。
でも、氷獄ってヘルヘイムに来る階段の途中で通ったあの死ぬほど寒いところだよね?あんなところにいたら私死んじゃうと思うんだけど。お姉さんも気を抜いたら死ぬって言ってたし。
『でも氷獄にそのままディラを放り出すとすぐ凍っちゃうわね。私の加護をあげるから大人しくしていなさいよ』
《『繝倥?』より、パッシブスキル『冥王の加護』が授けられました》
《称号『冥王の友』を取得しました》
体がじんわりとした温もりに包まれると、スキルと称号を貰っていた。称号は王龍さんの時と同じようなものかな。
『よし、これで氷獄でも寒さを感じることはなくなるわ。何か聞きたいことはある?ないならもう氷獄へ送ろうかと思ってるけれど、何か準備とかはいるかしら』
「問題ないです」
『じゃあ、最後にアドバイスよ。その「吸魔」とかいうスキル、使えるときにどんどん使った方がいいわよ。ディラはアンデッドだから回復手段がほぼないに等しいし、使って損はないはずよ』
確かに『吸魔』は撃ち得なスキルだもんね。クールタイムも短めだし、ちょっと減ってるMPを補充するのにもいいかもだしね。
「わかりました、ありがとうございます」
『いいのよこれくらい。それじゃあ、根っこが見つかったら「念話」を私に飛ばしてちょうだい。空間魔術は得意じゃないけれど、階段のそばまでなら転移させれるから。じゃ、いってらっしゃい』
お姉さんがそう言うと、視界が真っ黒になる。
視界が開けると、そこは銀色の魔力が一面を覆う広い樹海だった。
・・・
『・・・行ったわね』
『行ったのう』
『やっぱり覗いてたのね。ほんといい趣味してるわ』
『失礼な、どこにいようと儂の勝手じゃ』
『はいはい。で?ディラに何をさせるつもりなの?あんなことまでしておいて。それにあのスキル、変なことしてるでしょう』
『なに、あの娘をどうこうしようというつもりはない。ただの保険じゃよ』
『・・・保険?この世界じゃ何が起きても大丈夫そうだけれど』
『あのトカゲがまた動き出しただけじゃ。変なことをすればまた消滅させに行く』
『そう、心配はしてないけれど私たちは巻き込まないでよね』
『そのための保険じゃよ』
『・・・あまりいじめないであげてよね』
女王様の依頼回です。
お話パートはここまでです。次回から探索&戦闘パートに入ります。最後にお姉さんと話していたのは誰なんでしょうか・・・
私事ですが、先日金クロツグを倒しました。そろそろガラルに帰省しようと思います。




