お姉さんは人気者
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門が開くとそこは、人の姿がそこら中に見えるやけに賑わった街だった。βプレイヤーの配信で見たノーリよりもずいぶん立派な作りになっている。まるで王都みたいだ。見たことも行ったこともないけど。
「あの、ここはいったい・・・?」
『ここは死者の国ヘルヘイム。今私たちがいるのは名前もない城下町みたいなものよ。ここに渡ってきた死者の魂を選別して、下へ送るかここに留めるか、それとも成仏させるか決める場所でもあるわ』
死者の国ってことは周りに見えてる人型の魔力はみんなアンデッドってことなのかな。結構な数がいるけどもしかしたらここにアンデッドプレイヤーがいるのかも。遂に私にも協力プレイが・・・!
『期待させておいて悪いんだけれど、ディラみたいなのは1人もいないわよ。ここに送られるのはあくまでも生まれてから死ぬまでこの大地にいた者だけ。というか異界人のアンデッドなんてディラが初めてよ』
「そ、そうですか・・・」
そんな私の淡い希望は易々と打ち砕かれた。一応話し相手はいるから寂しくはないけど、そろそろNPCじゃない人と交流したい。なら掲示板にでも行けばいいじゃんって?・・・それはなんか負けた気になるから嫌。そういえば、地上では今頃どこまで進んでるのかな。未発見の種族とか未知の大地とか見つけてたり・・・うぅ、早くこの姿を何とかしたいよ。
『さて、じゃあ私の家へ行きましょうか。込み入った話はそこでしましょう。いつまでもここにいると姦しくなってきそうだし』
そう言って足早に歩きだしたお姉さんに、未だに繋いだままの手を引かれて私も歩き出す。すると、突然お姉さんの前に人だかりができていく。さっきまでこんなに集まってなかったよね?
「女王様!」
「女王様が帰ってこられたぞ!」
「今回はずいぶんと早い帰還ですね!」
「女王様を生で見れた!今日は酒盛りだ!」
「あの引きこもり女王が外に!?」
「馬鹿!執務で忙しいんだよ!」
「女王様ー!こっち向いてください!」
おぉ、これはまたすごいことになってる。そういえばお姉さん、自分のこと女王だって言ってたもんね。この集団を見るに人望は大いにあるっぽいからやっぱりいい人なんだろうね。
『ああもう喧しい!お前たちがそんなだからこっちは外に出たくなくなるんでしょうが!いいからさっさと散りなさい!今日は客を連れてんのよ!』
「客?」
「見ろ、女王様が手を引いているあの骸骨だ」
「なんだってあんな普通の骸骨を?」
「聡明な女王様のことだ、俺達には分からない高尚な考えがあるに違いない」
「しかし女王様の御手を握るだなんて・・・」
「ああ、羨ましいな・・・」
「あんなぽっと出に俺たちの女王様が奪われちまうのか!?」
「そんなことならいっそ・・・」
集団の中の1人が物騒なことを言いかけた瞬間、前に立っていたお姉さんからとんでもない魔力が放出された。あまりの魔力の濃さになんとスリップダメージを受けている。近くにいる私が1番被害が大きいですお姉さん!
「まずいやりすぎた!」
「女王様がお怒りだ!」
「散れ!あんな魔力喰らったら復活にしばらくかかる!」
「すみませんでしたぁ!」
「逃げろ!」
すると集団は蜘蛛の子を散らしたかのようにあっという間にいなくなってしまった。なんだか嵐みたいな人たちだったね。
「お姉さんはこの国の人たちから愛されてるんですね」
『そう言えば聞こえはいいけれど、うるさいだけよあんなの。しかしみっともないものを見せてしまったわね。ディラはしばらくここにいることになりそうだから先に町の中を案内しようと思ったけれど、もう私の家まで飛びましょうか。転移は初めてじゃないでしょう?』
お姉さんは私の返事を待たずに転移を使った。うぇ、この感覚ちょっと久しぶりかも。
『ここが私の家よ。ディラは少し眩しいかもだけど、ごめんなさいね。』
目を開けると、いろんな色の魔力でキラキラ光ってるすんごい立派なお城が目の前に聳え立っていた。確かに王様の家はお城だもんね、でも先に言っておいてくれると嬉しかったなあ。驚きすぎて目が飛び出しそうだよ。目ないけど。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
お城の門が開かれると、1人の人がお姉さんと私の前に出てきた。やだ、めちゃくちゃにダンディな声してる。声だけなら王龍さんとタメ張れるよこの人。
『ただいま。いつも言ってるけど、そろそろお嬢様はやめないかしら?あなたがお母様と親しいのは知っているけれど、ここの王は一応私なのよ?』
「ははは、これは申し訳ございません。ですが、お嬢様が生まれた瞬間に立ち会っている身としては、どうしても主人というよりも姪という感覚が大きくてですね」
『・・・まあここで揉めても仕方ないわね。それよりも、ほら例の客人よ』
「おお、あなたが・・・これは失礼いたしました。私はお嬢様の専属執事をしている・・・」
突然ダンディな声のおじさん(仮)は黙ってしまった。どうしたのかな。
「ビュート、そう、ビュートと申します。以後お見知りおきを。繧ィ繝ォ繝■?繧ケがあなたを気に入ってるとお嬢様より聞いておりまして、是非会いたいと思っていたのです」
繧ィ繝ォ繝■?繧ケって誰だっけ、なんか聞き覚えがある。あ、私に『吸魔』をくれたおばあさんのことかな?
「あのおばあさんのことですか?」
「おばあさん・・・?ははははは!またあの娘はいらぬことをしているんだな!」
『ちょっとビュート、崩れてるわよ、色々と。一応執事なんだから体面くらいは守りなさい』
まるで話についていけない。なんだか私の知らないところでいろんなことが起こってるみたいだけど、私がそれを知る余地はなさそう。
「重ね重ね失礼いたしました。では、客間の方に案内しますか?それとも謁見の間へ?」
『客間でいいわ。せっかくの客なのに謁見の間なんて通したら周りがうるさいわ』
「承知いたしました。では・・・すみません、お名前は」
「あ、ディラです」
「ディラ様ですね。ではこちらへどうぞ」
『私は後から行くからもてなしてあげてね』
・・・
すんごく大きい廊下をビュートさんに連れられて歩く。私が5人縦に積み上げられてもとどかないくらい天井が高い。なんだかこういうのテンション上がっちゃう。
そのまま廊下を歩いていると、たくさん並んでいる扉のうちの1つをビュートさんがノックすると、扉がひとりでに開いた。中に誰かいるわけでもないのにどういう仕組みなんだろう。
「驚きましたか?この城のありとあらゆるものには『騒霊』という魔物が宿っているのです。動きを教え込めばこちらのアクション1つでなんでもしてくれるんです。今扉が開いたように」
「魔物って言いましたけど、誰かを襲ったりはしないんですか?」
「心配には及びません。この子たちもアンデッドなのですから、冥府の女王たるお嬢様のお膝元で何かしでかすほど馬鹿ではありません」
いくら魔物といえど、支配者に逆らおうとするほど野生的ではないらしい。
ビュートさんに促されるまま部屋の中に入り、中にあった巨大なソファに腰かける。特にやることもないから、ビュートさんに質問を投げかけてみる。
「あの、お姉さんが『あなたがお母様と親しいのは知っているけれど』って言ってましたけど、お姉さんや王龍さんのお母さんってどんな人なんですか?」
お姉さんが度々匂わせるようなことを言ってたけど、私はそんな人と会った覚えはない。お姉さんや王龍さんの母親だというなら私に名乗ってきててもおかしくはないし、そもそも私は交友関係が激狭なのだ。未だに正体が知れないのはあのおばあさんくらいなものだけど、あの人に関しては情報がなさ過ぎる。
「ふむ、どんな人、ですか。これは難しい質問ですね。人となりを言うのであれば、無邪気で好奇心が強い、見た目相応に幼い方、でしょうか。本人の前で言うと殺されかねませんが」
なんだか話を聞く限りだと子供にしか聞こえないけど、多分外見がコンプレックスだったりするのかな?だとしたらものすごく親近感が湧く。だとするとあのおばあさんは関係ないかな。だって腰曲がってたし、声もガサガサだったもん。
「ですが恐ろしく強い方ですよ。片手間にこの大陸を消し飛ばせるような力をお持ちです。なにせ神すら屠り、その力を奪ってしまわれたのですから」
怒らせたら全プレイヤーが死ぬとかマジ?この先会うことがあるのかはわからないけど、もし会った時は絶対に怒らせないようにしないと。AAOで遊ぶ十数万のプレイヤーの命が私の手に預けられることになってしまう。
「それにしても、神なんているんですね」
「・・・」
私の何気ない一言でビュートさんが固まってしまった。今どういう顔をしているのかわからないけど、気まずい雰囲気になっているのは私でもわかる。もしかしてあんまり触れない方がいい話題なのかな。話を振ってきたのは向こうなんだけど。
「あの、もしかして忘れた方がよかったりしますか?」
「ディラ様が察しのいい方で助かりました。どうすれば記憶を消せるか考えていたもので」
ビュートさんがなんか物騒なこと言ってる。迂闊なことを言っていたら私の頭の中をかき回されていたかもしれないってこと?この人怖すぎる。というかそんな情報ポロっと漏らさないでよ!
そのままビュートさんとダラダラと他愛もない話をしているとお姉さんが部屋に入ってきた。
『お待たせ、じゃあ話をしましょうか。・・・ビュート?顔色が悪いけれど、どうかしたの?』
「いえ、なんでもありません」
『そう?ならいいけれど』
お城に招かれ回です。
この執事、とんでもないことをサラっと漏らしていきましたね。いったいお姉さんと王龍さんの母親はどんな人なんでしょうか。
というわけで2章『死者の国』編開幕です。新キャラたくさん出る予定なのでお楽しみに。




