苦労人な2人
ご高覧いただきありがとうございます。
12/1 誤字報告ありがとうございます。
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冥府への階段
効果:???
死者を誘う冥府の入口。無念のうちに死んだ者の魂を感知し、その者の前に現れる。罪人の魂は更なる深淵へと向かわされる。
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なんだかとんでもないものを見てしまったけど、入ったら死ぬというなら入る理由がない。この階段の場所は把握したし、ここから階段が突然消滅でもしなければいつでも入れる。いつ入れるようになるかわかんないけどさ。こんな怨念が渦巻いていそうなものの近くにいたくないから足早に部屋から出る。
『あら、せっかく門を開いたのに無視しちゃうの?悲しいわ』
すると、体を舐め回されてるような不快感とやたらと艶めかしい声が私の後ろから聞こえた。
「・・・誰?」
また知らない人が出てきた。恐る恐る振り返ると、そこには人なのかどうか怪しい人型の魔力を持ったものがいた。人型なのはわかるんだけど、ちょうど腰のあたりで魔力の色が変わってる変な人(?)だ。上半身はその辺の魔物さんと変わらないけど、下半身が真っ黒な魔力を持っている。光さえ飲み込んでしまいそうな純粋な黒。そこの階段から出てる魔力とよく似てる・・・というか同じだ。
ここで声をかけられることなんてそうそうないから、反射的に誰か聞いちゃったけど私って王龍さんとしか話せないんだよね。どうやって意思疎通を取ろうかな。
『出会ってすぐに人の名前を聞くとは無礼な娘ね。人の名前を尋ねるときはまず自分が名乗ってからって教えてもらわなかった?』
おや?
「え、あの、私の言ってることがわかるんですか?」
何故か通じた。もしかして、この人も私と同じ『念話(邪)』を持ってるのかな。
というかまずい。向こうの質問に答えてすらいないのにまた質問を重ねてしまった。礼儀には厳しそうだし、『もういいわ、死になさい』とか言われて消し炭にされるかもしれない。
『質問を質問で返すなんて、ほんとに失礼ね。まあ、その様子じゃ私のことも聞いてないんだろうし特別に許すわ。それで質問の返答だけれど、あなたの言ってることはわかるわよ。全部聞こえてるわ。じゃあ、あなたの名前を教えてちょうだい?』
「え、えっと、ディラって言います」
『そう、ディラね。ディラ、いい名だわ。それで私は誰かという話だけど、私は『繝倥?』という名前よ。見た目はこんなだけど、一応ここの下で女王をやってるわ』
なんとなく予想はしてたけど、やっぱり名前は聞き取れなかった。私の周りで名前がわかる人、1人もいない問題。それより、女王って言ったよねこの人。このダンジョンの下に国なんてあるんだ。また情報が渋滞してきた。
「聞いてばっかりでほんとに申し訳ないんですけど、ここの下っていうのは・・・?」
『あのバカ蛇、ほんとに何も話していないのね。待って、じゃあ私たちのお母様のことは?』
「・・・?知らないです」
『はぁ・・・お母様もお母様で楽しんでるってことかしら。それはそれとしてあのバカ蛇は今度会ったら〆ておかないと』
何の話だろう。とりあえずこの人が苦労人だということはよくわかる。私もとあるAIに苦労させられてるから胃が痛くなる気持ちはすごくわかる。なんだか親近感が湧いた。
そのあと何度か問答を繰り返して話を聞かせてもらった。どうやら、さっきの階段はヘルヘイムっていう名前の国につながってるらしくて、そこに招こうと思って私の前に階段を出したらしい。でも私がスルーしようとしたから慌てて私の前まで転移してきたらしい。
詳しく聞こうとすると『そのうち本人から聞くといいわよ』とはぐらかされるけど、この人の時々漏らす愚痴から王龍さんと何かしら浅からぬ縁でつながってるっぽい。なるほど、それなら私と会話ができるのも頷ける。
『それで、ディラはヘルヘイムには来ないの?』
「行きたいのはやまやまなんですけど、どうやら私入ると3秒で死ぬらしくて」
『今のディラには呪いが濃すぎるのかしら。じゃあこれを装備してくれる?これを持ってたら呪いは効かないわ』
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蜀・逡後?鬥夜」セ繧
効果:呪?を無効■
冥府の女王より賜りし首飾り。呪いをはじく力を込められている。
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おお、なんか貴重そうな装備品を貰ってしまった。状態異常の無効化なんて普通のゲームだとなかなかお目にかかれないような効果なんだけどね。名前はわからないけど、どうやら首飾りらしいから首に付けて装備状態にしておく。
『あら、よく似合っているわね。まるでペットでも飼ってるみたいだわ』
・・・なんだか複雑な気分だ。いくら装備せざるを得ない状況とはいえまさかプレイヤーでもないNPCにペット扱いされてしまうとは。人間としての尊厳を傷つけられたような気がする。まあ骨なんだけど。
『さて、じゃあこれで呪いも問題ないし、さっそくヘルヘイムへ行きましょうか』
「あの、その前に王龍さんに一言言っておかないと」
そんなに緊急性の高いことじゃないだろうから、絶対に必要かと言われればそうではないんだろうけど、一応王龍さんは私の保護者的なポジションなわけだから一言言ってから行きたい。親にどこに出かけるかとかいつ頃に帰ってくるか律儀に言う小学生みたいだ。
『いいわよそんなこと。どうせあの子はここから動けないんだし。・・・まったく、仮にも私の弟ならしっかりしてほしいわ。身内の恥よあんなの』
「え、弟?」
『ええそうよ、言ってなかったかしら?繝ィ繝ォ■?繝ウ繧ャ繝>繝は私の弟よ。同じところから生まれただけで血が繋がっているとかそういうのはないけど』
なんということだ。このお姉さんは王龍さんの姉らしい。何か近しい間柄みたいだったからワンチャン恋人かななんて妄想を膨らましていたのに。姿が見えないからどんな顔をしてるとかはわかんないけど、王龍さんの姉ってことはこのお姉さんも龍族だったりするんだろうか。AAOを始めて2週間で最強種の知り合いが2人もできたのなんて私くらいなもんじゃなかろうか。
『ディラはまだ目が見えないだろうから一応言っておくけど、私は龍じゃないわよ。言ったでしょ、同じところから生まれただけだって。というか、繝ィ繝ォ■?繝ウ繧ャ繝>繝は龍というか蛇だし』
お姉さんは王龍さんのことを蛇って言ってるけど、そんなに王龍さんって蛇に似てるのかな。
『あいつの話はもうお終いよ。思い出すと殴りたくなっちゃうもの。さて、それじゃあ改めてヘルヘイムに行きましょうか。階段は周りが真っ暗だから私の手を握ってて。迷うと炎獄なんて面倒なところに放り込まれちゃうかもしれないから』
差し出された手をしっかりと握る。炎獄とやらが何かは知らないけど、どうせろくでもないところだろうから絶対にお姉さんから離れないようにしないと。フラグじゃないよ。
お姉さんが階段を下りて真っ黒な魔力に呑まれていく。お姉さんの手に引かれるまま、私も階段を下りる。
《警告、この先には濃密な呪いが漂っています》
《現在のプレイヤー『ディラ』がこの先に踏み入ると、3秒後に直ちに死亡します》
《・・・》
《『蜀・逡後?鬥夜」セ繧』の装備を確認しました》
《通行には『繝倥?』の許可が必要です》
《・・・》
《『繝倥?』の許可を確認しました》
・・・
『む?ディラの魔力反応が・・・ないな。ここに戻ってきているわけではないところを見るに、姉上の仕業か。また勝手なことを・・・』
『まあ、それはそれで面白いことになるだろう。それに、今は妙な死霊がいることだしな』
くつくつと笑う巨大な蛇の姿がそこにはあった。
女王様とのお話回でした。
また新しい人が出てきましたね。どういうキャラなのかはもうお気づきの方も沢山いると思うので特に言及はしません。感想でも勘のいい方が数名いらっしゃったので。
ちなみに、そろそろ第一章が終わります。まだ『邪界樹の洞穴』を全然探索していませんが、もちろん探索し尽くします。させます。
数日前にレビューをくださった方、ありがとうございます。温かい言葉で投稿者のやる気がブーストされました。一字一句逃さずに読ませていただきましたので、どうかご安心ください。




