帝国と死霊さん
ご高覧いただきありがとうございます。
11/22 誤字報告ありがとうございます。
《特殊依頼『ミズガルズ帝国の盛衰』が発生しました》
《依頼を受理しますか?》
▶YES
▷NO
《特殊依頼『ミズガルズ帝国の盛衰』を受理しました》
《この依頼は破棄することができません》
何が何だかよくわからないけど断る理由もないし、とりあえず依頼を受けたらメッセージウィンドウさんがすごいこと言い出した。逃げることはどうやら許されないらしい。魔王みたい。
じゃなくて、ミズガルズ帝国ってなんだろう。今のところアーゲリア大陸には王都と、東にあるらしい聖皇国と、王龍さんから聞いた魔国というものがあるらしいけど、ミズガルズ帝国っていうのは聞いたことがない。まだ未探索の地域にあるのかな。
『よくぞ私の願いを聞き入れてくれた、名も知らぬ骨よ。では私の研究室に招こう。こちらへついてきてくれ』
死霊さんの言われるがままに部屋を出て通路を進む。途中で分かれ道があったけど、死霊さんは構わずに真っすぐ進んで、途中で何もない壁に向かって手に持っている杖を突き付けた。すると、壁だった場所が歪んで通路が現れた。まるで最初からそこに道があったかのように。
『こちらだ』
死霊さんについていく。
どれくらい歩いただろう、体感で30分は歩いた。これゲームじゃなかったら途中で息上がってたよ。なんて考えていると奥に立派な扉が見えてきた。研究室って言ってたっけ?こんなところで研究なんて物好きな魔物さんもいたもんだね。
『ここだ』
死霊さんが扉に杖をかざすと大きな音を立てて扉が開く。おお、カッコいい。
研究室の中に入ると、そこはいろんな色の魔力でキラキラしていた。なにか天井からぶら下がってるけど、あれ魔力の色が虹色だよ虹色。まさかこんなところで虹を見れるなんて。
『では、まず何から話すか・・・』
おっと、気分はさながらテーマパークだったけど私は依頼を受けてここまで来たんだ。しゃんとしないと。
『まず、ミズガルズ帝国という名に聞き覚えはあるか?』
首を横に振る。
『そうか、ではまずミズガルズという国から説明するとしよう。あれは今から百何十、いや何百年前だったか、この大陸では戦争が絶えず、寝ても覚めても大陸のどこかでは人が死んでいた。
だが、それを終結させたとある国があった。それがかつてこの大陸のすべてを支配していたミズガルズという国だ。かの国の国威はそれは凄まじくてな、海を隔てた国すらも怯えさせたものだ。当時の皇帝は良き妃にも恵まれ、ミズガルズは未来永劫続いていくものだと誰もが信じてやまなかった。』
『しかし、皇帝が崩御してからミズガルズは変わった。皇帝の後継となった皇太子は、治世の能力も武力も申し分なく民を率いる術にも長けていた。だが、権威に溺れた皇太子は大陸内だけの支配では満足できずに、海を渡って他の大陸まで手中に収めようと動き出した。その時、海には恐ろしい魔物がいると皇太子の臣下が止めはしたが、皇太子は一笑に付し聞く耳を持たなかった。
・・・その強欲がかの魔物の逆鱗に触れたのか、ある日ミズガルズに巨大な蛇の魔物が現れた。その魔物の名は『ヨルムンガンド』。神話で語られる世界に災厄を齎す史上最悪の魔物だ。ヨルムンガンドはミズガルズを飲み込み、かの大国は地の底に沈められた。だが、大陸全てが飲み込まれたわけではなかった。ヨルムンガンドから逃れ、散り散りになった人々は各々の国を築いた。それが今のアーゲリア大陸というわけだ』
地の底に沈められたって・・・その国はその蛇の魔物さんに食べられたわけじゃないのかな。じゃあこの地下でひっそりと生きてたりしそうだけど。
『ミズガルズが飲み込まれた後はどうなったのか、と聞きたそうだな。なに、難しい話ではない。お前の目の前にいる者がその末路というわけだ。』
どうやら生きてないみたい。強欲は身を亡ぼすとはよく言うけどまさか国までなくなるとは当時の皇帝さんは思いもしなかっただろうね。
・・・え?その末路?私の目の前にいる死霊さんが?まさかの生き証人なの?死んでるけど。
『私はヨルムンガンドに飲み込まれ、気が付いた時にはこの姿になってこの迷宮にいた。かつての仲間たちや皇太子様は皆知性のないアンデッドに成り果て、話すことすら叶わなくなっていた。これが神話の怪物の力だ。そして私はこの尽きることのない命でかつての仲間たちを眠らせてやっているというわけだ』
つまり、このダンジョンにいる魔物さんたちはみんな、昔ミズガルズ帝国という国で生きていた人たちなんだ。そう思うとちょっと罪悪感湧いてくるなあ・・・でも、正当防衛だし仕方ない。そもそもお互いに死んでるし。弔ってあげていると考えよう。
『このようなつまらない話をよく聞いてくれた。この数百年胸の中で燻っていたものが少し晴れた気がする。そしてこれからが本題だ。私の命はそう長くない。いくらアンデッドになったとはいえ、精神が摩耗すればいずれ知性のないアンデッドに成り果てる。そうなればいつお前に襲い掛かるかもわからん。そこでだ、私がただのアンデッドになった時、お前に私を殺してほしいのだ。私はまだかつての仲間たちを倒し続けるが、そうなった後はお前に後を継いでほしい』
《特殊依頼『ミズガルズ帝国の盛衰』を達成しました》
《特殊依頼『かつての友への鎮魂歌』が発生しました》
《依頼を受理しますか?》
▶YES
▷NO
いや早い早い。展開がジェットコースター。別に依頼を受けるのはやぶさかではないんだけど、こんなとんでもステータスの死霊さんを私程度がどうやって倒せばいいんだろう。それまで時間があるとはいえ流石にいつその時が来るかもわかんないし、確実な手段がないのはちょっとなあ。
『私はこの魔石に自らの精神を封じ込めている。言わば私の核のようなものだ。その時がきたら私の研究室まで来てこの魔石を破壊してくれ。そうすれば私はあっけなく死ぬ』
確実な手段、あったみたい。私がこの部屋に来た時に最初に目に入った虹色の魔力をしたあれが死霊さんの核らしい。テーマパークとか言ってごめんなさい。
なら依頼を断る理由もない。私は元々この最下層を制覇するつもりだったし、そのついでで魔物さんたちを倒していけば依頼の達成も早まるでしょ。
《特殊依頼『かつての友への鎮魂歌』を受理しました》
《この依頼は破棄することができません》
相変わらず依頼の破棄はできないみたい。するつもりもないけど。
『感謝するぞ、名もなき骨よ。お前の力になるならば、ここに置いてあるものも好きに使うといい。あと、お前はここに自由に入れるようにしておいた。私はここにはあまり戻らないが、用があればここへ来るといい』
『話はこれで終わりだ。私の頼みを聞いてくれた礼として、私がいた部屋にある宝箱をお前にやろう。アンデッドのお前には役に立つ代物だ。好きに使うといい』
最初死霊さんが怖くて開けれなかったあの宝箱、やっぱり死霊さんのものだったんだ。無理やり開けたりしてたら消し炭になってたのかも。怖い怖い。
置いてあるものを好きに使っていいとは言われたけど、今は宝箱のほうが気になるしまた来た時にゆっくりと物色させてもらおう。そうして私は死霊さんに手を振りながら研究室を後にした。
・・・
『・・・行ったか』
『あの骨にはああ言ったが、もう私の精神は限界に近い。一介の魔物と成り果てる前に、1人でも多くの仲間を眠らせてやらねば・・・』
1体の死霊が、ゆらりと闇に消えた。
歴史の授業回でした。
しかしヨルムンガンド、ですか。なんか聞いたことありますね。どこで聞いたんでしょうか。
死霊さんはなんとも悲しい人生(?)を送ってますね。数百年も1人きりで昔仲間だったアンデッドを駆除してればそりゃ精神削れますわ。




