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1話:『塔』と挑む者

 その世界アルタイルには、天を貫き聳え立つ『塔』がある。

 遠い昔からアルタイルの片隅に屹立し、いつ、誰が、何の目的で建てたのか、知る者はない。

 ある聖職者は、神々が天界と地上を行き来するために創ったのだと謳う。

 ある剣闘士は、邪悪な魔物を封じるために存在するのだと主張する。

 ある歴史家は、人類発祥以前に栄えた古代種族が築いたのだと分析する。

 真実は今も判明せず、『塔』の秘密は闇の中。

 大いなる神秘の探求、あるいはまだ見ぬ財宝を求め、人々は『塔』へ挑んできた。

 その内部は広大で遥かに高く、優れた技術で組まれし機構が随所に溢れる。

 持ち帰られた未知の遺物は、研究と解明を経て科学の力となり、文明に発展と豊かさを齎した。

 いつしか研究者達は『塔』の麓に集って施設を設け、『公社』と名乗る組織を作る。

 公社は知識を深め、技術を育む頭脳集団。『塔』の探索者から遺物を買い取ることで手に入れた。

 彼等が直接『塔』へ赴かなかったのは、この巨大な構造物には多大な危険が潜んでいたからだ。

 張り巡らされている数々の罠。驚かせる程度の仕掛けから、侵入者の命を奪うための物まで多種多様。

 それ以上に問題だったのが、『ノイズ』と呼ばれる異形の怪物が犇めいていたこと。

 非常に獰猛で攻撃的な性質を持ち、人を襲い貪り喰らう、おぞましき魔性の群。

 大きさも形態も能力も千差万別でありながら、活動時に雑音へ似た耳障りな鳴き声を発するという共通点から、ノイズの名で呼ばれるようになった。

 果てしない高層の『塔』は、上に向かうほど複雑で有用な遺物が発見できるも、同時に罠の危険さと、ノイズの数及び強さも増していく。

 生きて戻れる者は稀であり、未発見の遺物は莫大な価値を持つ。故に一攫千金を求める探索者は、生命の危険も顧みず『塔』へ踏み込んだ。

 成果と共に帰還すると公社へ遺物を渡し、対価として報酬を得る。公社は金銭と引き換えに得た遺物を解析して、新たな技術を見出し人類へ還元する。

 この流れによってアルタイルの文明は成長してきた。


―――――――――――――――――――――――――――



「アンタ、フユだね。久しぶりじゃないか」


「おばさん、誰?」


「最後に会ったのはアンタが3つか4つの頃だったし、覚えてないのも無理ないか。アタシはキリエ。トウカ――アンタの母親とは古い馴染みさ。探索者仲間だったんだよ」


「『塔』に登る人……母さんの、仲間」


「もっとも、トウカは子供が出来た時に引退したけどね。10年前になるか。トウカが元探索者って話は聞いてるだろ?」


「うん。母さんに会いに来たの? でも母さんは死んじゃって、もういないよ」


「ああ、知ってるさ。アタシはね、アンタに会いに来たんだよ、フユ」


「僕に? どうして?」


「トウカに頼まれてたのさ。自分になにかあったら、息子のフユに探索者としての生き方を教えてやってくれってね」


「母さんが!? でも母さんは、僕に探索者はまだ早いって、いつも言ってたよ」


「そりゃ『塔』のヤバさを知ってるからだ。まともな親なら自分の子供をあんな所に関わらせたがりゃしないよ」


「でも、だったら……」


「トウカが死んだら、アンタは一人っきりさ。それでも生きていくには稼ぎが要る。でもガキが一丁前に稼ぐにゃ、ヤクザな仕事をやるしかない。仕事にも色々あるが、アンタがやりたがるのは探索者だろう。だけどガキが一人で『塔』に登れば即お陀仏だ。最低限生き残れる力をつけない限りはね」


「それで仲間のおばさんに」


「あん?」


「……キリエさんにお願いしてたの? 僕がちゃんとした探索者になれるように」


「そういうことだ。別に無理して探索者になる必要もないがね。盗みをするなり、体を売るなりして生きていく方法もある。アンタはどうしたいんだい?」


「探索者になる。独りぼっちの僕が、大人の探索者に教えてもらえるって、すごく運がいいと思うから。母さんが残してくれたこのチャンスを無駄にはしない」


「やっぱりトウカの子供だねぇ。なよっちぃナリしてるくせに、目玉の奥にゃギラギラした熱と獰猛さを滾らせてるとこが、面白いぐらいソックリだ。いいだろう、今日からアタシが鍛えてやる。ただし探索者は命懸けの商売さ、甘かないよ」


「はい! お願いします!」


「まずは体力作りからだ。探索者にとって最も重要なのは、一も二もなく体力だよ。果てしない『塔』を突き進み、あらゆる困難を乗り越えられる底力、こいつがなくちゃ話にならない。たとえボロクソにやられても、体力さえ残っていれば這いずりながらでも帰ってこれる。最後の最後でものをいうのは体力なのさ」


「はい!」

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