15.孤独
???「肯定派否定派なんかよりも、きのこ派かたけのこ派かで話そうぜ!」
クレア「きのこ、苦いから嫌い。……たけのこ?なにそれ。美味しいの?」
クロ『多分違うと思うぞ』
クレア「……?」
「魔法師団団長、マグノリア・キャンベルです。騎士団長に代わって、今日から勇者様方に魔法の教授をさせていただきます。よろしくお願いしますね」
ミカとユウナが魔力を感じられるようになって、数日。
何度も何度も、魔力を掴むことを反復練習して、ようやく安定して魔力を可視化させられるようになったところで、今日から本格的な魔法のお勉強が始まった。
教えてくれるのは、魔法師団長のマグノリアさん。
見た目は怪しい魔女って感じで、胸とか足とか……ちょっとだけ露出が多い人。
でも、流石は魔法師団の中で一番強いだけあって、人間にしては凄い魔力を感じる。
「まずは適性属性の魔法を問題なく操るところから始めましょう」
この世界は六つの元素で成り立っている。
火、水、風、土、光、闇。それぞれに特徴があって、どの属性にも使い道はある。
それらの元素が一般的だと言われているけれど、実はこれだけじゃないみたい。一つの元素を極めればその属性は『進化』する。
例えば火は『炎』に、光なら『聖』、闇なら『影』って感じ。
それは文字通りの進化。威力はもっと強力になって、範囲も格段に広がる。
でも、その分、扱いは難しくなるみたい。
消費する魔力は増えるし、力が強大すぎるせいで生半可な制御だと魔力が暴走して最悪、術者が危険なことになる。
使えたら凄いけれど、欠点も多い魔法。
それが『魔法の進化』だって、フィル先生がお勉強の時に教えてくれた。
ちなみに、複数の属性を組み合わせることで新しい属性の魔法も生み出せるみたいだけど、それは複数の適性を持っていることが前提の話だから、ここでは説明しない。
「ミカ様は火、水、風。適性が三つ……! 素晴らしいです。流石は勇者様、成長が楽しみですね」
魔力を可視化させるのに手間取っていたのが、ミカだ。
それは三つの適性を持っていたから。複数の魔力をバランス良く混ぜ合わせるのは難しくて、すごく苦労したみたい。
それでも一ヶ月足らずで習得したミカは、本当に凄い。
きっと精一杯練習したんだと思う。勇者としての才能はあると思うけれど、諦めずに努力し続けた結果、こんなに早く複数の魔力を操れるようになったんだ。
そのことにフィル先生は、ちょっと自信を失くしたみたい。
先生も血が滲むような努力をして、やっとの思いで二つの属性を操れるようになった……って言ってた。ミカに勇者としての才能があったとは言え、自分よりも優れたものを目の前にして、嫉妬しちゃったんだと思う。
「ユウナ様は光ですね。その中でも特に純粋な魔力を感じます。練習を積み重ねれば、聖属性になるのも難しくないでしょう」
光と闇。二つの属性は希少みたい。
その適性者が現れるだけでも話題になるほどに珍しくて、そのせいであまり魔法の研究が進んでいないとか。
私は吸血鬼だから、光属性と聖属性の魔法は苦手。
耐性はあるけれど嫌な感じがするし、魔法を使うたびに眩しくなるから……ちょっと目が痛い。
「次は……紅の魔力?」
マグノリアさんは私の魔力を見て、首を傾げている。
「私、どうすればいい?」
どうしたらいいか分からないから、質問した。
団長でもあるマグノリアさんなら何か教えてくれるかなって期待の気持ちを込めて────でも、
「私の知らないことで教えを乞われたところで何もできません。自分の魔力なのだから自分で考えてください」
「…………え?」
言われたことが一瞬、理解できなかった。
マグノリアさんは私達の先生なはず。
なのに、知らないからって何も教えてくれないの……?
「ちょっとマグノリアさん! それは酷いんじゃないですか!?」
「……ミカ」
ミカが怒ってくれた。
でも、当の本人は悪びれもなく──
「知らないものは知らないのです。農夫に漁業を、魔法使いに剣術を習うようなもの。教えたところで無駄です。ならば、自分自身で考えたほうがよろしいかと。私だって忙しいのですから」
「だからって、こんな……!」
「ミカ。いいよ」
「っ、レアちゃん!」
このままだと喧嘩になっちゃう。
そしたらミカとユウナにまで迷惑をかけちゃうから、もういい。
「大丈夫、だから……私の代わりに、魔法……頑張って?」
魔法を教えてもらえなかったのは残念。
でも、マグノリアさんの言葉には一理あると思った。
──誰も教えられないなら、自分で考える。
私は馬鹿で単純だけど、自分のことだから出来る限り頑張ってみよう。
大丈夫。
魔力を操れるならきっと、魔法も使えるはずだから。