14.肯定派と否定派
「第二王女と会ったのですか?」
フィル先生とのお勉強の時間。
場所は、私のお部屋。
今までは専用のお部屋でやってたんだけど、いちいち移動するのは面倒だし、私とフィル先生だけなら私のお部屋でもいいんじゃないかって思って、試しに意見してみたら案外すんなり通ってくれた。
でも、最近はあまり……お勉強らしいことをしていない。
私はこの世界の基礎知識を知っていて、ここに来て人間独自の知識も学んだ。
これ以上、無理して何かを学ぶ必要はないって先生が甘やかしてくれたから、お勉強の時間は二人きりのお喋りと睡眠の時間になった。
「ん、お風呂場で」
そういえばと思って、話題に出した第二王女のこと。
先生は姉になるし、一応会ったことくらいは言っておこうと思ったんだけど…………
「それは、その……大丈夫でしたか?」
フィル先生の反応は、なんか微妙だった。
心配してくれてる……みたい?
「ん、嫌われちゃった」
「…………やはり」
「やはり?」
「っ、ああ、いえ……その……エルミリアナは亜人否定派で、レア様となるべく出会わないようにと、こちらも気を付けていたのですが」
亜人否定派?
それってエルフとかドワーフとか、そういう人達のことを嫌っているってことなのかな。
……だから、あんな酷いことを言われたのかな。
「レア様には辛いことだとは思いますが、この国には二種類の派閥があります。その一つが『亜人否定派』で、もう一つが『亜人肯定派』です」
「先生は?」
「え?」
「先生は、どっち……?」
──亜人を嫌っている人がいる。
そういう差別? があることは知っていた。
アルフィンさんやガッドさん達、亜人のみんなが外の人間について話しているのを聞いたことがある。
外の人間は亜人差別が酷いから、ここの街は平和で本当に良かった……って、そんなことを言ってたっけ。
人間はすっごくプライドが高い。
だから同じ人型でも、少し形が違うだけで差別したがるんだって。
それは特に、偉い人達──貴族に多く見られるみたい。
フィル先生の話を聞いて、それを思い出した。
この国の人達は普通に接してくれたから、そのことを忘れちゃっていたんだ。
──なら、先生はどっちなんだろう?
フィル先生のことは好きだから、嫌われたくない。
でも、内心私と一緒にいるのが嫌だと思っているなら、無理してほしくない。
もしそうだったとしても、私は怒らない。
先生は今まで優しくしてくれた。その恩だけは、忘れたくないから。
「ご安心を。私やお父様……国王を含め、この城のほとんどの者が肯定派です」
「なのに、第二王女は否定派なの?」
「……ええ、私達はそれぞれ異なる環境で育てられましたので、あの子の周りにいた大人達の影響で価値観の違いが生まれたのでしょう」
育てられた環境が違うから、考え方が違うの?
どうして姉妹なのに環境が違うんだろう。
でも確かに、フィル先生と第二王女は、見た目も性格も同じじゃなかった。
「……悲しいな」
家族なのに、仲良くなれないのは悲しいよ。
私は一人娘だったから、そういう姉妹のことは分からない。
でも、家族のことなら分かる。
もし私とパパとの仲が悪かったら。
もし私に姉妹がいて、その子と仲が悪かったら。
想像するだけで悲しい気持ちになる。
実際はどうなるのか分からないけれど、私だったら……嫌だなって思う。
「仕方ありません。私がどう思っていようとあの子には届かない。……私は、嫌われていますから」
一瞬、ほんの一瞬だけ、先生は悲しそうな顔をした。
きっとそれが先生の本心なんだと思う。
なのに、『仕方がない』って言葉でしか片付けられない。
それは諦めなんだ。
どうしようもないことだと分かっているから、先生は諦めている。
でもそれって、本当にどうしようもないことなのかな……。