表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/175

13.吸血鬼の受難

最近の悩み

「これを書いていると、こっちまで眠くなる」


 この国に来てから、何日くらい経ったかな。

 お勉強と訓練の時以外はずっと眠っているから、あまり分からない。


 クロ達は、まだ迎えに来ない。


 今、みんなは何をしているのかな。

 必死に私のことを探してくれているのかな。そうだと嬉しいな。


 そろそろ私も、みんなに会いたくなってきた。

 眠っていれば寂しさを紛らわせられるかなって思ってたけど、日を増すごとにシュリの温もりや、ブラッドフェンリルのもふもふ、みんなとのお喋りをしたい気持ちが強くなっている。


 ──コンコンッ。


「……………………ん」


 ドアを叩く音。

 微睡みから目覚めて、体を起き上がらせる。


「どう、ぞ……ふ、ぁぁぁ……」


 欠伸を一回。

 …………んぅ、まだ眠い。


「失礼します」


 入ってきたのは、フィル先生。

 先生は最近、ずっと私のお世話をしてくれる。

「これが王族として出来ることだから」って先生は言っていたけど、どういう意味なんだろう。


 ……でも、フィル先生は優しいから嫌じゃない。

 絶対に怒らないし、分からないことは何でも教えてくれるから、すごく助かっている。だから、フィル先生が私のお世話役? になってくれて嬉しい。


「おはようございます、レア様」

「……ん、おはよ……せんせー」

「起こしてしまいましたか?」

「んーん。大丈夫」


 どうせ、またすぐに眠くなる。

 起こされた程度じゃ、怒らないよ。


「どうしたの?」

「昼食の準備ができたので、どうするか聞こうかと思っていたのですが……その様子だと、まだ眠り足りないようですね」

「ん、お昼……いらない」


 ここのご飯はあまり、美味しくない。

 人間にとっては凄く美味しい料理ばかりなんだと思うけれど、私は吸血鬼だから、人間が作った料理よりも、人間の血液のほうが美味しく感じる。


 食べられないこともないけれど……どうせ食べるならお魚がいい。

 でも、この国は海から遠い場所にあるから、あまりお魚は食べられないんだって。だからお肉ばかり出てくる。……少し残念。


「差し出がましいとは思いますが、ちゃんと一日三食は食べなければいけませんよ? レア様は細いのですから、もっと食べなければ」


 シュリと同じことを言われた。

『ご飯は一日三食! でも眠かったらそっちを優先しなさい』っていうのが、最近のシュリの口癖。


 私がご飯を食べなきゃ、みんなから心配される。

 だから目が覚めたら、まず初めに輸血袋を吸うの。血液は人間達が喜んで分けてくれるから、いくら飲んでもなくならない。


 …………ああ、思い出したら……お腹が空いてきたな。


 人間の血を吸いたい。

 でも、ここで我慢できずに「血を吸わせて?」って言ったら、私が吸血鬼だってことがバレちゃう。


 むぅ……。


「レア様? どうされました?」


 唸る私を見て、先生は首を傾げた。


 そこから見える綺麗な首筋。

 とても、美味しそう。


 っと、危ない危ない。


 意識し始めると、どうしても血が欲しくなっちゃう。

 だから、なるべく見ないようにしよう。


「…………ん、寝る」


 眠れば、少しは気も紛らわせられる。

 少なくとも誰かを見ることはないから、吸血衝動は抑えられると思う。


「レア様は本当に、睡眠がお好きなのですね」

「ん、大好き」


 この国に来てから色々とやることがあって、あまり満足して眠れなかった。


 今日は久しぶりの、何もない日。

 お勉強も訓練もなくて、こうしてゆっくり眠っていると、改めて睡眠が大好きなんだなって思う。


「羨ましいです」

「……ん?」

「あ、いえ! 今のは……!」

「先生も一緒に……寝る?」

「え?」

「先生、疲れてるみたい。一緒におやすみしよう?」


 両手を出して、こっちに来てって誘う。


「で、ですが……私は第一王女で…………」


 先生は躊躇っているみたい。

 すごく疲れていて、すぐに眠りたいはずなのに、どうして我慢するんだろう?


 …………王族だから?


 それは言い訳にもならない。

 偉いからって、休んじゃダメなわけじゃない。


 休むことは大切。

 王族でも何でも、疲れたら休めばいいんだ。


「先生は、私の、お世話役」

「それは……そうですが」

「だから、一緒に寝るの」

「どうしてそうなるのですか!?」


 先生は叫ぶ。

 ううん、私は間違ったことは言ってないよ。


「私、寂しいの」

「……え?」

「一人じゃ寂しいなぁ」

「だから、一緒に眠りたいと?」

「ん、勇者の安眠を手伝うのも、王族の役目だよ?」


 ちょっと違う?


 そうかもしれない。

 でも、そうじゃないかもしれない。


「寝よ?」

「ですが、私にはまだやることが」

「寝よ?」

「えぇと、では、今日の業務が終わったら、で」

「寝よ?」

「…………はい」

「やった」


 先生は「失礼します」って言って、お布団の中に入ってきた。


「先生、いい匂い」

「あ、あまり嗅がないでください。恥ずかしいで──きゃっ」


 向き合って、抱きつく。

 シュリと寝る時は、いつもこの格好だった。


「ん、これ……すきぃ…………」


 人肌の温もりと、小さく聞こえる心臓の音。

 それが心地良くて、気持ち良くて……私はすぐに、眠りに落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ