12.第二王女との初めまして
大浴場と聞いただけあって、お風呂はとても大きかった。
泳いでも問題なさそうな広さ。
…………やらないけど。
「わぁ! レアちゃんの肌、すべすべ!」
「それにもちもちしてて、ずっと触っていたいです!」
お風呂で洗われている私はすぐ、ミカとユウナに挟まれた。
「……くすぐったい」
色々なことを色々な人に任せていたから、体を触られることには慣れてる。
でも、この触り方はちょっと違う気がする。
ムズムズしてて、変な感じ……。
「レアちゃんって、何か肌のケアとかしてるの?」
「けあ? なにそれ?」
「その肌を保つためにしていることよ。化粧水や乳液を付けるとか……まさか、何も?」
「? わからない」
そういうのって、付ける物なのかな?
でも、私もシュリも、けあ? をしたことがない。
あ、でも……トロネが一回だけ顔に白い布を貼ってたことがある。変な顔って言ったら「乙女には必要なことなんです!」って言われたけれど、もしかしてそれが『けあ』なのかな。
「う、うそ……何もしてないのに、こんなに肌が綺麗だなんて……」
「これが美人の特権……うぅ、理不尽です……」
ミカだけじゃなくて、ユウナまでも床に手をついて項垂れている。
…………もしかして、変なこと……言っちゃったかな。
「えっと、そんなに落ち込──」
「オーッホホホ! お二人とも、こんな所で会うとは奇遇ですわね!」
大浴場にとても響く……これは、笑い声?
誰だろうと思って入り口に振り向くと、すっごい派手な髪型の女の子がそこに立っていた。
寝起きに見たら目が痛くなりそうな金色の髪色を、台風みたいにぐるぐるってしてる。不思議な髪。どうやってその形を保ってるんだろう? ……これも魔法なのかな?
「……エリナ様。こんばんは」
「ええ、こんばんは。ですわ! お二人が大浴場にいると聞いたので、わたくしも来てさしあげましたの!」
さっき「奇遇」って言ってたのに、変なの。
「そうですか。それは良かったですね」
このぐるぐるちゃんとは初めて会ったけれど、ミカ達のことは知ってるみたい?
「……知り合い?」
「この国の第二王女様です。お名前はエルミリアナ・フェル・ラットベルン。親しい……というわけではないんですけど、私達の勉強中に遊びに来られるので……」
へぇー、第二王女様なんだ。すごい。
…………でも、フィル先生とはあまり似てないかも? 第二王女ってことは、先生とは姉妹なんだよね?
「……あら? そこのは」
「ん、レア。よろしく」
ちょっとうるさくて派手な人だけど、フィル先生の妹なら仲良くしたい。
そう思って手を出したのに…………
「触らないでくださいまし。平民が」
その手は、何も触れることはなかった。
「なっ! エリナ様、何を……!」
「レアちゃんも勇者です。どうしてそんな酷いことを言うんですか!?」
二人は、私を庇ってくれた。
でも、第二王女は聞く耳を持たない。
「ふんっ、勇者は異世界から召喚される。それが文献にあった記述ですわ。なのに、この者は異世界人ではなく、しかも亜人ではありませんの。…………汚らわしい」
第二王女が浮かべた顔。
それは酷く歪んでいて、心の底から私のことを快く思っていないんだって、分かった。
「ちょっとそこの侍女。下民を自由に歩き回らせないように、と言ったはずですわよ」
「も、申し訳ありません! しかし、フィンレール様から『自由にさせろ』と」
「──チィ。あの人か……全く、余計なことを……無能のくせに」
フィル先生? フィル先生が、無能?
「違うよ?」
「…………はい?」
「フィル先生は、すごい人。無能じゃないよ?」
好きな人が悪く言われるのは、良い気持ちじゃない。
だから反論した。
「この! っ、気分が悪いですわ。わたくしはここで失礼します──!」
第二王女が大浴場を出て行く時、すごい形相で睨まれた。
…………嫌われちゃった、かな。
少しだけ落ち込んだ。
フィル先生と仲良くなれたから、きっとその妹とも仲良くなれると思っていたから。
ここまで分かりやすい憎悪を向けられたのは、これで二度目。
最初はお爺ちゃん。
その次が、第二王女。
私はあまり、誰かに嫌われることに慣れていない。
今まではみんな、私のことを好きになってくれた。ここは人間の国だから、そう簡単にいかないって分かっていたけれど…………やっぱり悲しいな。
「気にしないでいいわよ、レア」
「そうですよ。私達はレアちゃんのこと、大好きですから」
落ち込む私を見て、二人は慰めてくれた。
優しく頭を撫でてくれて、大丈夫って何回も言ってくれた。
「ん、ありがと……」
嫌われちゃったのは、悲しい。
でも、私のことを好きだと言ってくれる人は他にもいる。
それが、嬉しかった。
タイトル自分で決めといて、ちょっとえっちだなと思いまし(殴