43.女王の願い
あけましておめでとうございます。
既存作共々、今年もよろしくお願いいたします!
これは遠い昔の記憶。
私がまだお屋敷にいて、パパが生きていた日の記憶だ。
「馬鹿なことはやめろ! 平和を作って何になる!」
誰かが部屋の中で叫んでいた。
「戦うばかりでは皆が疲労するだけです。娘のおかげで魔物達も大人しくしてくれる。この子は魔物を統べる力を持っています。その力さえあれば無謀な夢だって実現できる。──ならば、その王が望むべき平和を作ってあげたい。女王の従者として、一人の父として……セーラが残してくれた私達の宝物に、自由に生きてもらいたいんです」
荒々しい声に反論するような、優しい声。
これは、パパ……?
「くだらん! 魔物を従えることは出来るかもしれない。だが人間はどうする!? あいつらはどこまでも嫌らしく、狡猾だ。そんな奴らと手を結ぶなど不可能だ。どうせ裏切られるのだぞ!」
「だから、力で支配するんですか?」
「そうだ! 吸血鬼こそが至高であると認めさせる。その子の力さえあれば可能なのだ。全ての魔物を従え、この世界を我が物顔で歩き回る人間どもに──真の支配者は誰なのかを見せつけるのだ!」
二つの声は、なんか難しいことを話していた。
裏切りとか、支配とか、何が一番で何が正しいとか……そんなの私には分からない。
それでも確かに言えることは、ただ一つ。
静かにしてほしい。
平和が一番。
みんなが笑顔で暮らせる世の中が、一番だ。
でも、それが叶わないのなら──
もし、それが難しい願いなら──
ただ私は、静かに眠りたい。
誰もいない場所で、誰の邪魔もない場所で。
お日様の光を浴びながら、ずっとずっと気の向くままに……。
「いい加減、諦めろ…………過去にも平和を望み、人間と手を結ぼうとした同胞がいた。最初は上手くいっていた。だが、その先に待っていたのは──裏切りだ。魔物と何ら変わりない力を持つ我々を人間は恐れ、望むものを手に入れた瞬間、奴らは手のひらを返す。儂らが共存することは……無理なのだ」
さっきまでの口調とは裏腹に、今度は悲しそうだった。
何度も別れを目にして、何度も裏切りを目にして、疲れちゃったようにも感じられる。……そんな声だ。
「それでも、どこかの世界には必ず、この子と共に歩んでくれる者がいると信じています。魔物も人間も、亜人とだって、この子は手を繋ぐことができる。……この子には希望を持ってほしい。こんな下らない弱肉強食の世界じゃない、新しい世界を生きてほしいんです」
「…………ダメだ。許せぬ」
「お父さ──!」
「うるさい! 貴様なんぞに『父親』と呼ばれたくないわ! ……愚か者が」
バタンと、扉の閉まる音がした。
それまでの喧騒は嘘みたいに消え失せて、部屋はとても静かになる。
「…………クレア……」
ぼんやりとした記憶の中、私の名前が呼ばれた。
「好きに生きなさい。パパはいつだって君を応援する。きっと、いつか……パパ以外にも君のことを理解してくれる人が現れるから。だからどうか、それまで──
──希望を捨ててはいけないよ」
私の中に残った記憶は、そこで終わっている。
パパは、すごく苦労したんだと思う。
私のお願いのために働いて、魔物とも仲良くなって、パパの家族とも喧嘩して……すっごく、頑張ってくれたんだよね。
パパは平和を作りたかった。
──私が、女王が『それ』を望んでいるから。
お爺ちゃんはそれが許せなかった。
──過去に何度も、同胞が抱いた『間違い』を見てきたから。
そんな二人の仲がこじれて、ぐちゃぐちゃになって、今こうして──過去の清算をすることになっている。
パパが遺したもの。
パパが私に与えてくれた意思。
今度は私が、それを引き継ぐんだ。
だって私はパパの──パパとママの娘なんだもん。
Q.シュリとロームは爺さんの攻撃素通し?
A.止めようとしましたがクロが先に止めちゃいました。
遅れて来ながら、良いところ全取りです。
シュリ&ローム「『クロぉぉぉ!!!!』」
クロ『いや、我に文句を言われても……』