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41.平和が一番


 お爺ちゃんが怒っている。

 私がお爺ちゃんのことを忘れていたから、なのかな?


 でも、仕方ないって許してほしい。


 私は今まで興味のないことは、どこまでも興味を持たずに生きてきた。

 何よりも眠ることを優先したり、睡眠の時間を確保したり、寝たいなぁって思ったら全部のことを無視して眠ったり。

 今もその優先度は変わらないけれど……最近では起きている間だけでも、みんなのために何かしようって思い始めた。


 そんな私だから、誰かの顔を覚えるのは得意じゃなかった。

 ちょっと話しただけのお爺ちゃんなんか、覚えているわけがないから、そんなことで怒られても……困る。


「お爺ちゃん、落ち着いて?」

「落ち着け。──落ち着けだと!? 儂に命令するな、この愚孫が!」


 ああ、ダメだ。

 もう話を聞いてくれそうにないや。


「我々吸血鬼の領地を嗅ぎまわり、侮辱した貴様らに、徐々に苦しめられる屈辱を味わわせてやろうと思っていたが…………やめだ。この儂直々に、貴様らを皆殺しにして」


「──カイちゃん」

【はいなの!】


「や、る…………は?」


 街を覆う結界が一瞬、赤く光る。

 その次には、お爺ちゃんの体は地面に縫い付けられていた。


 何が起こったか分からないって顔をしてるから、私はお爺ちゃんに説明してあげようと思って口を開いた。


「ここで暴れられるのは困る、から……身動きが取れないようにしたよ」

「なぁ……!?」

「おとなしくするって約束してくれたら、動けるようにしてあげる」


 ──どうする?

 私は、そう聞いた。


 私はみんなを代表する立場だから、みんなを守ってあげないとダメ。

 だからいくら同じ吸血鬼でも、相手が貧弱なお爺ちゃんだとしても、厳しくしないと何かあった時に後悔することになる。


 これで落ち着いてくれたらいいな。

 お爺ちゃんが反省して、元の場所に戻ってくれたら……それが一番平和だよね。争うのは嫌だ。なにより面倒だし、お互いが嫌な気持ちになる。だったら、戦わずに終わりたい。


 でも、そんな私の願いは呆気なく裏切られたんだ。


「どこまで、この儂をコケにすれば気が済む……」


 お爺ちゃんはすごく低い声で、そう唸るように言葉を呟いた。


「ようやくここまで来たのだ。たかが一人娘のために魔物や亜人と共存しようと計画した愚かな息子を排除し、ようやくここまで来たのだ! 我々吸血鬼が世界を統治する! その願いの成就のため、儂は──!」


 相変わらず、何を言っているのか分からなかった。

 でも、一つだけ気になったことがある。


 ──たかが一人娘のために魔物や亜人と共存しようと計画した愚かな息子。


 そんな人がいたことに、私は驚いた。

 今、私がやっていることだ。この街のあり方と全く、同じ……。


 お爺ちゃんはその人を、排除……した?

 どうして? みんなが平和に暮らせるのが一番楽しいのに、どうしてそんなことをするんだろう?


 吸血鬼が世界を統治する。

 そんなことをして、何になるんだろう?


 みんなが嫌な気持ちになって、みんなが悲しくなる。

 そんな世界のどこが、楽しくて安心できる世の中になるんだろう?


「ふんっ、ここまで言ってまだ分からないのか。愚図の子は愚図だな。……いい機会だ。クレアに真実を教えてやる」

「──っ、聞いちゃダメ! クレアちゃん!」

「お前の父親を()()()のは、儂だ! この儂が邪魔者を排除し、クレア! お前を追放することで統括の座を奪ったのだ!」


 シュリは私の耳を塞いだ。

 でも、常人よりも発達した吸血鬼の聴覚は──ハッキリと全ての音を拾っていた。


「……………………え?」


 私は、分からなくなった。

 パパが平和を作ろうとしていた『息子』。そんなパパを殺したのがお爺ちゃんで、私はその娘で、お爺ちゃんは────。


 パパを殺した。

 お爺ちゃんが殺した。


 パパはいなくなった。

 私のお願いのために平和を作ろうとして……。


「なんで……どう、して……」


 視界がぐわんぐわんって歪む。

 耐えられなくなった私は、頭を抱えて座り込んだ。


 どうして、パパが死ななきゃいけなかったの?

 どうして、お爺ちゃんはパパを殺したの?


 どうして、どうして、どうして……どうして…………。


「あれは真の愚か者だった。だから殺した──邪魔だったのだ」


 邪魔だった。

 パパは邪魔だったから、死んだ。

 お爺ちゃんにとってパパは邪魔だったから、死んだんだ。








 ああ、そっか。








 私の中で、何かが崩れ落ちる音がした。

 鉛のように重くなっていた体は軽くなって、ぐにゃぐにゃしていた視界は鮮明になって、鈍痛みたいに響いていた頭は嘘みたいに晴れやかだった。


「……………………アハッ」


 悲鳴が聞こえた。

 死にかけの男が、腕の付け根から血を噴出させていた。


「…………はは、あはは……?」


 いい匂いがした。

 とても甘そうで、美味しそうなものが目の前に広がっていた。


「…………もう、いいや」


 邪魔だったから、パパは死んだ。

 その人が邪魔だと思ったから殺していいなら────



 私も、こいつを殺していいんだよね?



サブタイ!お前違う!戻れ!戻ってえええええ!


「面白い」「続きが気になる」

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