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39.お爺ちゃんがやってきた


「っ、ふざけるなぁあああああああああ!!!!!」


 その大きな声に、私はびっくりしてスプーンを落とした。

 すぐにシュリが新しいものを持ってきてくれたけど、急にどうしたんだろう?


 声がした方向を見ると、街の入り口辺りに誰かが立っていた。

 私と同じ髪色のお爺ちゃんだ。すごく、よぼよぼしてる。ちょっと意地悪しただけで転んで骨が折れちゃいそうなくらい、弱そう。


 でも、不思議と元気そう。

 それを証明するように杖をバシバシ叩いている。


 人って見た目によらないんだなぁ……。


 …………って、あれ?

 このお爺ちゃん、何処かで見たような……うーん、思い出せない。気のせいかな?


「貴様ら、何を呑気に……! 儂らに街を包囲されていると言うのに、この儂を、この儂を無視とは何事だ!?」


 すごい。広場から街の入り口までは距離があるのに、ちゃんと声が聞こえてくる。

 きっと頑張って声を出しているんだろうな。


 言っていることの意味は分からないけど、頑張っているってことだけは分かった。


 でも、どうして入ってこないんだろう?


 ──あ、そっか。

 結界があるから入れないんだ。


「カイちゃん」

【はいなの!】

「街に入れてあげて?」

【嫌なの!】

「……えぇ?」


 即答された。

 まさか断られるとは思っていなかったから、またビックリしちゃった。


「でも、ずっとあそこで立っているのは、お爺ちゃん辛いと思うよ?」

「いいんじゃなぁい? あのまま放置していたら、もっと面白い反応が見れそう」


 シュリも、酷いことを……。

 でも、結界やシュリだけじゃない。

 他のみんな、ロームもミルドさんも、配下の魔物達も……睨みつけるような怖い目を向けている。


 どうしてみんな、あのお爺ちゃんを目の敵にするんだろう?


【あのジジイは敵なの! この街には入れたくないの!】


 って、結界は言った。

 ……敵? お爺ちゃん、敵だったの?


 こうしている間も、お爺ちゃんはギャーギャーと何かを叫んでいる。

 でも、少し疲れちゃったのかな。息は上がってきていて、あまり鮮明に聞こえてこない。


「放置は可哀想だから、入れてあげて?」


 みんなに酷いことをするようなら、帰ってもらう。

 だからお話だけはしようって言ったら、結界は納得し切っていない声で渋々と了承してくれた。


「お爺ちゃん。この街に何の用?」

「何の用! 何の用だと!? 此の期に及んで、そんなことを言うか!」

「あ、えっと……あまり大声は出さないでね? みんな、ビックリしちゃうから」


 お爺ちゃんが何か言うたびに、みんなが不機嫌になる。

 みんな、あまりうるさい人は好きじゃないみたい。だから嫌いなのかな?


「揃いも揃って無礼な奴らめ。クレア。劣等種どもを黙らせろ。この儂に歯向かうなど、つくづく魔物は頭が弱くて嫌になる」

「え、どうして?」

「愚孫が……。お前の下僕だろう。ならばこの劣等種どもは儂の物でもある。その儂に無礼な態度をとるのだ。罰を与えるのが筋じゃろう」


 お爺ちゃんは何を言っているの?

 どうして私の仲間が、お爺ちゃんの物になるんだろう。ちょっと分からない。このお爺ちゃん、少し頭が悪いのかな。それに罰って……みんな、何もしていないのに……。


「ハッ! 下僕も下僕だが、その主人も愚者そのものだな。……戦争の途中だというのに呑気なことをしている。頭が悪いにもほどがある。──なにより! 儂らを無視していることが気に食わん!」


 ちょっと、頭が痛くなってきた。

 頑張ってお爺ちゃんの言葉を理解しようと考えるんだけど、本当に意味が分からなすぎてダメだ。


 ああ、面倒臭い。眠いなぁ。

 もう全部クロに任せてベッドに……あ、クロ居ないんだった……。


「あ、そうだ。お爺ちゃんもシチュー食べる?」


 もしかしたらお腹が空いているのかも。

 空腹が限界になると苛々しやすくなるって聞いたことがあるから、一緒に食べれば少しは言葉が通じるようになってくれるかもしれない。


 そう思って、まだ一口も付けていない器を差し出す。


 お爺ちゃんは一瞬、動きを止めた。

 その目は驚愕に染まっていて、でも、すぐに顔を真っ赤にして怖い目になった。


「ナメるのも、大概にしろ!」

「っ、きゃ──」


 私の手ごと、器を叩かれる。

 カランカランって音を立てて器は地面を転がって、シチューは台無しになっちゃった。


「『──────』」


 その瞬間、音が消失した。

 ちょっとざわついていた声も、呼吸の音も、全部──聞こえなくなった。


 その数秒後、やっと息を吸う音が私の両隣から聞こえてきた。


 ロームとシュリだ。

 いつの間にか隣に来ていたみたい。


 でも、二人は私を見ていない。

 ただ真っ直ぐ、何を思っているか分からない無感情の目で、お爺ちゃんを見ていた。


 そして、たった一言──二人はこう言ったんだ。


「『──殺す──』」


記憶の彼方から忘れ去られたお爺ちゃん()

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― 新着の感想 ―
[一言] クレアが離れてから落ちぶれて擦寄るのかと思ったらこんな状況になってもブレずにデカい態度取り続ける老害はすげぇなぁ(小並感
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