38.私にも出来ること2
広場に集まる街中の魔物達。
人一人は入れそうな鍋に、なみなみと注がれたシチュー。
「はーい、ちゃんと並んでねー。並ばない子には配らないわよー」
私の横では、シュリがそんな声を掛けていた。
ロームやミルドさん達は、私の前に並んだ魔物達を整理して、喧嘩が起こらないように色々と補助してくれている。
「はい、いつもありがとう。頑張ってね」
シュリが容器にシチューを入れて、それを受け取った私が魔物に手渡す。
必ず「ありがとう」、「頑張ってね」の声も忘れない。
──先日、私がみんなに『お願い』したこと。
私が変なことをすれば、みんなが困っちゃう。
だから余計なことはせずに、街のみんなのために何が出来るかを考えた。
その結果、私はみんなに料理を配ろうって思った。
根本的な解決にはならないけれど、少しでもストレスが和らげば良いなって……。
でも、私は料理ができないし、一人だけで色々な物を準備するのは無理だから、シュリ達にも手伝ってもらって、ようやくこの計画を実行することができた。
鍋などの容器はガッドさん達、ドワーフが。
シチューはアルフィンさんが率いるエルフ達や、料理が得意な人間さんが作ってくれた。
他は列の整理。
シュリはシチューが入った容器を私に渡す役。
それで私は、列に並んでくれた魔物にシチューを配る。
急な計画になっちゃったけれど、みんな文句を言わずに手伝ってくれた。
これの告知も急になったのに、街に住む全員が嬉しそうに列に並んでくれた。そして私がシチューを配れば、みんな笑顔になってくれるんだ。
その顔を見られて、私はもっと嬉しくなる。
私がやっていることは意味があるんだって……そんな気持ちになれるから。
「オ、オデ……! クレア様ノために、頑張ル!」
「うん、ありがとう。すごく嬉しい……でも、無理だけはしないでね?」
これで、やっと半分くらいが終わった。
みんな、美味しそうにシチューを食べてくれる。
シチューは沢山作ってあるから、無くなる心配はしていない。落ち着いたら私も、みんなと一緒に食べたいな。
『大盛況だね、姫様』
「ローム……うん。みんな嬉しそう……私も、嬉しい」
『姫様には感謝しかないよ。ちょっとのストレスなら仕方ないって諦めていたけど、おかげで活気が戻ってきた』
「……ん。やっぱり、笑顔が一番」
勇気を出して良かった。
みんなが優しくて良かった。
大変なことにならなくて、本当に良かった。
心から安心していると、ミルドさんが小休憩のために戻ってきた。
片手をあげて挨拶してくれたから、私も同じように返す。
「クレア様にここまでされたら、情けない姿は見せられねぇな。相手が何であろうと、負ける気がしないぜ」
「そう言ってもらえて、嬉しい……はい、ミルドさんもシチュー、どうぞ」
「おっ、ありがとさん!」
ミルドさんは「うめー!」って言って、すごく美味しそうにシチューを頬張った。
すぐ食べ終わって元気が出たのか、じゃあまたなって列の整理に戻っていく。まだ休憩していればいいのに……疲れないかな。大丈夫かな。
『それじゃ、俺も持ち場に戻ろうかな』
「ん、ロームも疲れたらすぐに休んでね?」
『あはは、心配ご無用だよ……って言いたいところだけど、姫様の顔が見たくなったらすぐに戻ってくるよ。それまで、姫様も頑張ってね』
最後に頬をひと舐めして、ロームも整理に戻っていった。
私も気合を入れ直す。
あと半分。私が眠くなる前に、頑張って終わらせちゃおう。
「いつもありがとう。頑張ってね」
この言葉を何回言ったんだろう。
もう一生分は言ったかもしれないって思い始めた頃、ようやく最後の一人に配り終わった。
「配給は終わりよー! まだシチューは残っているから、食べ足りない子は自由に持って行きなさーい!」
おかわりの分は、自分でやってもらうことにした。
それも含めて私が配るのは、流石に厳しいってシュリが止めたから。
「はいクレアちゃんも。一緒に食べましょう?」
「……ん、ありがとう」
「ええ、こちらこそ。私達のために、ありがとね」
最初に行った時は不安でいっぱいだったけど、みんなの協力のおかげで上手くいった。
……本当に、やって良かった。
すごく疲れちゃったけど、心からそう思う。
容器とスプーンをもらって、シュリと一緒に並んで座る。
近くで甘い匂いをずっと嗅いでいたから、私もお腹空いちゃった。早く食べたい。
「……いただきます」
「はい。いただきます」
両手を合わせて、スプーンを持つ。
シチューを掬って口に運ぼうとした──直後、
「っ、ふざけるなぁあああああああああ!!!!!」
地面を震わせるほどの怒号が、街全体に響き渡った。
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