表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

75/175

38.私にも出来ること2


 広場に集まる街中の魔物達。

 人一人は入れそうな鍋に、なみなみと注がれたシチュー。


「はーい、ちゃんと並んでねー。並ばない子には配らないわよー」


 私の横では、シュリがそんな声を掛けていた。

 ロームやミルドさん達は、私の前に並んだ魔物達を整理して、喧嘩が起こらないように色々と補助してくれている。


「はい、いつもありがとう。頑張ってね」


 シュリが容器にシチューを入れて、それを受け取った私が魔物に手渡す。

 必ず「ありがとう」、「頑張ってね」の声も忘れない。



 ──先日、私がみんなに『お願い』したこと。



 私が変なことをすれば、みんなが困っちゃう。

 だから余計なことはせずに、街のみんなのために何が出来るかを考えた。


 その結果、私はみんなに料理を配ろうって思った。


 根本的な解決にはならないけれど、少しでもストレスが和らげば良いなって……。

 でも、私は料理ができないし、一人だけで色々な物を準備するのは無理だから、シュリ達にも手伝ってもらって、ようやくこの計画を実行することができた。


 鍋などの容器はガッドさん達、ドワーフが。

 シチューはアルフィンさんが率いるエルフ達や、料理が得意な人間さんが作ってくれた。


 他は列の整理。

 シュリはシチューが入った容器を私に渡す役。

 それで私は、列に並んでくれた魔物にシチューを配る。


 急な計画になっちゃったけれど、みんな文句を言わずに手伝ってくれた。

 これの告知も急になったのに、街に住む全員が嬉しそうに列に並んでくれた。そして私がシチューを配れば、みんな笑顔になってくれるんだ。


 その顔を見られて、私はもっと嬉しくなる。

 私がやっていることは意味があるんだって……そんな気持ちになれるから。


「オ、オデ……! クレア様ノために、頑張ル!」

「うん、ありがとう。すごく嬉しい……でも、無理だけはしないでね?」


 これで、やっと半分くらいが終わった。


 みんな、美味しそうにシチューを食べてくれる。

 シチューは沢山作ってあるから、無くなる心配はしていない。落ち着いたら私も、みんなと一緒に食べたいな。


『大盛況だね、姫様』

「ローム……うん。みんな嬉しそう……私も、嬉しい」

『姫様には感謝しかないよ。ちょっとのストレスなら仕方ないって諦めていたけど、おかげで活気が戻ってきた』

「……ん。やっぱり、笑顔が一番」


 勇気を出して良かった。

 みんなが優しくて良かった。

 大変なことにならなくて、本当に良かった。


 心から安心していると、ミルドさんが小休憩のために戻ってきた。

 片手をあげて挨拶してくれたから、私も同じように返す。


「クレア様にここまでされたら、情けない姿は見せられねぇな。相手が何であろうと、負ける気がしないぜ」

「そう言ってもらえて、嬉しい……はい、ミルドさんもシチュー、どうぞ」

「おっ、ありがとさん!」


 ミルドさんは「うめー!」って言って、すごく美味しそうにシチューを頬張った。

 すぐ食べ終わって元気が出たのか、じゃあまたなって列の整理に戻っていく。まだ休憩していればいいのに……疲れないかな。大丈夫かな。


『それじゃ、俺も持ち場に戻ろうかな』

「ん、ロームも疲れたらすぐに休んでね?」

『あはは、心配ご無用だよ……って言いたいところだけど、姫様の顔が見たくなったらすぐに戻ってくるよ。それまで、姫様も頑張ってね』


 最後に頬をひと舐めして、ロームも整理に戻っていった。


 私も気合を入れ直す。

 あと半分。私が眠くなる前に、頑張って終わらせちゃおう。




「いつもありがとう。頑張ってね」


 この言葉を何回言ったんだろう。

 もう一生分は言ったかもしれないって思い始めた頃、ようやく最後の一人に配り終わった。


「配給は終わりよー! まだシチューは残っているから、食べ足りない子は自由に持って行きなさーい!」


 おかわりの分は、自分でやってもらうことにした。

 それも含めて私が配るのは、流石に厳しいってシュリが止めたから。


「はいクレアちゃんも。一緒に食べましょう?」

「……ん、ありがとう」

「ええ、こちらこそ。私達のために、ありがとね」


 最初に行った時は不安でいっぱいだったけど、みんなの協力のおかげで上手くいった。


 ……本当に、やって良かった。

 すごく疲れちゃったけど、心からそう思う。


 容器とスプーンをもらって、シュリと一緒に並んで座る。

 近くで甘い匂いをずっと嗅いでいたから、私もお腹空いちゃった。早く食べたい。


「……いただきます」

「はい。いただきます」


 両手を合わせて、スプーンを持つ。

 シチューを掬って口に運ぼうとした──直後、




「っ、ふざけるなぁあああああああああ!!!!!」


 地面を震わせるほどの怒号が、街全体に響き渡った。


【お知らせ】

 明日の更新はお休みです。


「面白い」「続きが気になる」

そう思っていただけたら、下の評価とブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ