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37.私にも出来ること1


 襲撃者がやってきて、5日が経った……のかな?

 ずっと眠っていたから正確な時間は分からないけれど、多分そのくらいだと思う。


 あれから意外にも、向こうは大胆に攻めて来ていないみたい。

 細かいちょっかいは何度か出してくるけれど、襲撃者全員で街を襲うとか、あの時の一発目の攻撃を打ってくるとか、そういうことはしてこない。


 でも、大勢で周囲を囲まれているから、みんな街の外に出られないんだって。



 相手は兵糧攻め……だっけ?

 そんな名前の作戦をしようとしているんじゃないかって、シュリが言っていた。


 相手は、こっちが蓄えている食料が少ないと思っているみたい。

 だから、こっちの食料が尽きるまで手を出さないで、何も食べられる物がなくなって弱ったところを狙おうとしているんじゃないか、って……。


 確かに、この街は全てから独立している。

 人間の街みたい他のところから食料を買わないし、交流があるわけでもない。


 食料に限界があるって思われるのは当然だけど、それは間違い。

 この街は十分な食料を蓄えている。殺した生き物の肉は長持ちするように加工してあるし、最近では農作物の栽培に成功したって報告を聞いた。


 こっちの食料が尽きることはない。

 私達は十分、自給自足できている。

 もしこのまま何もせずに暮らしていても、多分……数ヶ月は大丈夫なんじゃないかな?


 でも相手は、私達を『知能の低い魔物の集まり』だと思っているみたい。

 その程度だと舐め腐っているから、相手は兵糧攻めとか言う、今時誰も使わないような馬鹿げた作戦を仕掛けてきたんだー……って、ミルドさんが愚痴を零していた。

 みんなが馬鹿にされたことに、ミルドさんは怒っていた。

 そのせいで普段の五割増しで口調が荒くなっていたから、それを聞いたシュリが「クレアちゃんに変な口調が移ったらどうするの!」って注意していたけれど、ミルドさんの考えに反対しているようには見えなかった。


 相手は、こっちを馬鹿にしている。


 だから一斉に攻め込んでくるようなことはしない。

 私達は、遊ばれているんだって。



 ………………ちょっと、イラっとした。



 みんな、必死で頑張ってくれている。

 ここを良い街にしようと働いてくれるし、何かあったらすぐに助け合うし、困ったことがあれば種族関係なく手を差し出す。


 優しいみんなを馬鹿にされて……良い気分になるわけ、ない。


「…………ほら、見て……あのふくれっ面……すごく可愛いと思わない?」

「触ったらさぞかし、気持ちいいだろうな……あー、癒されるわぁ…………」

『それよりも、ほら……あの座り方。枕を抱きしめて三角座りとか……姫様らしくて可愛いすぎでしょ。やばいって』


 ヒソヒソ話が聞こえてくる。

 ちょっと恥ずかしくなったから、顔を枕に埋めて座り方を変えたら……さっき以上に「可愛い」って言われるようになった。…………どうして?


「…………みんな、うるさい」

「あら、ごめんなさいね? あまりにもクレアちゃんが可愛くて、つい……」


 文句を言っても、誰も悪びれた様子はない。

 …………むぅ。


 というか、どうしてロームとミルドさんは、ずっとこの部屋に居るんだろう。

 ロームは一時的に総司令をしていて、ミルドさんはその補佐だ。相手が攻めてこないとは言え、サボってて大丈夫なのかな?


 そう質問すると、ミルドさんはちょっと困ったように溜め息を吐いた。


「あそこは空気がピリついているからなぁ……あそこにいたらストレスで寿命が」

『ミルド!』

「──あ、っと」


 ロームの注意を受けて、咄嗟にミルドさんは口をつぐんだ。

 でも、私はちゃんと聞こえていた。


「ストレス……? みんな、ストレス……なの?」


 攻めてこなくても、ずっと敵から監視されている。

 それがストレスの原因……なのかな。


 …………そっか。普段通りの生活ができても、普通通りにはいかないんだ。


 私はそれを考えていなかった。

 いつも通りなら大丈夫だって、勝手に……。


「ち、違うぞ? ちょっと緊張感があるだけで、別に嫌ってわけじゃ……!」


 ミルドさんはそう言うけれど、誤魔化そうとしているのはバレバレだった。


「あーあ、口を滑らせたミルドは、後でお仕置きね」

「う、ぐっ……すまねぇ……」

『姫様。あまり自分を責めないで? これは仕方がないことなんだ。戦いが起きれば誰だってストレスを抱える。敵に囲まれている状況なら尚更、ね……』


 でも、そのせいでみんなが喧嘩したら?

 今まで仲良くしていたのに、こんなことで仲が悪くなるのは……嫌だよ。


 ……どうにか出来ないかな。

 みんなのために、何か出来ることはないかな。




「──あ、」


 あった。私にも、出来ること……。

 でも、私一人じゃ無理だ。誰かに手伝ってもらわないと、難しい。


「ん? クレアちゃん、どうしたの?」


 シュリはすぐに、私が何か言いたそうにしているって気付いてくれた。


「あ、あのねっ、えっと……お願いが、あるの」

「お願い……?」


 私は、思っていることをそのまま口にした。


 ……どんな反応が返ってくるかな。

 怒られるかな。そんなことをしなくていいって呆れられるかな。


 少しだけ、怖い。

 でも、みんながストレスを抱えているんだから、少しでも……みんなの役に立ちたい。


 ──その思いが伝わったのかな。


 シュリは抱きしめて、頭を撫でてくれた。

 ロームもミルドさんも、嬉しそうに笑ってくれた。


 その反応を見て、私も嬉しくなった。

 勇気を出して相談して良かった、って……すごく安心した。


感想A「クリスマスはクレアちゃんと雪山デートに──」

配下一同「あ゛ぁん???」


ご愁傷様です(合掌)


「面白い」「続きが気になる」

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― 新着の感想 ―
[一言] クリスマスは可愛い吸血鬼のよく眠る女の子とデートがしたいです
[一言] >あそこは空気がピリついて胃るからなぁ……あそこにいたらストレスで寿命が 胃の寿命か……(遠い目)
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