36.いつか来る未来のために
引きこもりを決意した、その翌日。
今日は一段と広場の方が騒がしかった。
……どうしたんだろう?
「シュリ……?」
シュリなら何かしているかなと思ったけれど、無言で首を振られた。
そっか。シュリは私とずっと一緒にいてくれたから、事の顛末を知らないんだ。
…………気になる。
「ダメよ。外に出るのは許さないわ」
気持ちが顔に出ていたみたい。
まだ何も言っていないのに、却下されちゃった。
「最悪なことにはなっていないみたいね。何か進展があればすぐに報告するでしょうし、今はゆっくり待ちましょう?」
「…………ん、わかった」
納得はしていない。
でも、私が出れば余計に面倒なことになるから、我慢する。
「ローム、元気かな……」
あれからロームは顔を見せに来てくれない。
クロとラルクが街を出ていて、シュリは私の側に付きっきり。みんなに命令できるのはロームだけだから、すごく忙しいみたい。
その代わりに、手の空いた人が様子を見に来て、私が起きている時は一緒にお話をしてくれる。おかげで暇な時間はないけれど…………みんな、外で起こっていることは何も教えてくれない。予想以上に徹底している。
「元気に決まっているわ。街の中で一番の戦闘狂よ? 久しぶりの襲撃者相手に、今頃張り切ってやっているはずだわ」
「……ロームが?」
「ええ、そうよ。……知らない? あいつ、ブラッドフェンリルで一番、好戦的なのよ。そのせいで何度、面倒事に巻き込まれたことか……今は少しだけ丸くなってくれて、本当に助かっているわ」
「へぇー、知らなかった」
クロと同じくらい強い、ってのは知っていた。
でも、まさか戦いが大好きだなんて……なんか、意外。
ロームは私を凄く丁寧に扱ってくれる。
私を『姫様』って呼ぶのはロームだけだし、その呼び名通り、私のことを本当のお姫様みたいに優しくしてくれる。
でも口調はちょっと軽いから、例えるなら……おチャラけた騎士さんみたいだなって思ってた。
そっか、ロームは戦うのが大好きなんだ。
大切な配下の意外な一面が分かって、ちょっとだけ嬉しい、かも……。
「前は、酷かったの?」
「そりゃあ酷かったわ。大陸を渡っている途中でも、何か強そうな気配がすれば問答無用でそっちに走って……いつも予定が狂っていたのよ?」
「じゃあ、その度に助けてたんだ」
「フェンリルは私達しかいないから、仕方なくよ。しかもロームったら天性の方向音痴で、誰かが付いていないとすぐに道を間違えるのよ。……ほんと勘弁してほしかったわ」
シュリはそう言って、昔のことを思い出すように小さく笑っていた。
文句を言っているように聞こえるけれど、本当は違うんだと思う。だって、過去にあったことで笑えるって、すごく良い思い出だったってことだもん。
……いいなぁ。
私もいつか、みんなとそうやって笑える日が来るのかな。
誰も私達の邪魔をする人がいなくなって、街が平和になって、ずっとみんなと一緒に眠れて……たまに起きて、あの時は大変だったねって思い出しながら、笑いたいな。
「…………早く、静かに暮らしたいな」
ポツリと、私は無意識にそう呟いていた。
周りが平和で、ずっと眠れる。
みんな一緒に暮らせる、私達だけの世界。
それのために、みんな今を頑張っている。
──私の願いを叶えるために。
今はまだ意地悪する人が多いけれど、きっといつかは平和になってくれるよね?
「……ええ、必ず……必ず私達が、クレアちゃんの描く理想を作ってあげるわ」
「ん、期待してる」
「その言葉が一番やる気になれるわね。何が何でもやってやる! って、思ってしまうわ」
「でも、無理しちゃ……ダメだよ?」
「分かってるわよ。クレアちゃんを置いて先に逝ったりしないわよ。……二度と、ね」
一人目のママは、私を産みながら死んじゃった。
だから顔は知らない。声も知らない。でも、先に逝かれちゃった悲しみだけは……残った。
シュリには、死んでほしくない。
もうママもパパも、失いたくないから……。
もちろん、他のみんなにも死んでほしくない。
大切な配下で、仲間だから…………ずっと、一緒なの。
だから──
「みんな無事だと、いいなぁ……」
今までは街が襲撃にあっても、みんな無事だった。
でも、いつも同じだとは限らない。
誰かが危なくなるかもしれない。
誰かが居なくなっちゃうかもしれない。
そんな未来は嫌だ。認めたくない。
だから私は……みんなが無事で居てくれますようにって、祈り続けるんだ。
明日から二日間のクリスマスシーズンが始まりますね。
皆様は何かご予定がありますか?
ちなみに私は無いです。強いて言うなら推しキャラと雪山デートしてきます(ゲームの話)。
もし予定があるよーって人は挙手してください。私が直々に呪いに行きます。
………………冗談ですよ……ふふふ。
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