35.激おこ
「…………むぅ」
外でみんなが動き回る頃、私はベッドで三角座りをしていた。
大きな枕をギュって抱きしめて、視界はじんわりと歪んで、それを見られたくないから顔を枕に押し付けて──。
「クレアちゃん。まだ怒ってるの?」
真上からシュリの声が降ってきた。
シュリは私を抱きしめている。私のことを全部見ている。
私がどうして怒っているのかも、どうして泣いているのかも。
それを理解していながら、私が何かやらかさないかを見守っている。
「みんな、嫌い」
「……お願いだから、そう言わないであげて? 襲撃者が乗り込んでくる前に、この街が滅んでしまうわ」
「………………(プイッ)」
無視を決め込むと、溜め息を吐くような声が聞こえてきた。
でも、知らない……!
「あーあ、ロームも変な気を遣っちゃって……そんなことだから、余計に面倒なことになっちゃったじゃないの。ねぇ?」
「………………」
「あらら、拗ねちゃって……でも、そんなクレアちゃんも可愛いわね」
可愛くないもん。
あと、拗ねてないもん。
「これは、クロが帰ってきたら凄いことになりそうね」
「…………クロ、は……私の味方だもん」
「ふふっ……ええ、そうね。あいつの主人愛は凄まじいわ。──勿論。私も負けてないけどね」
「…………ふんっ」
「……あ、はは……ロームめ、後で絶対に泣かすわ」
シュリは唸るようにそう言って、握り拳を作っていた。
上からは凄い圧力を感じる。怒っているんだろうけれど、私だって……ううん、私の方がもっと怒っている。
私は今、物凄く怒っていた。
ついさっきまで、みんなは襲撃者の件で話し合っていた。
──私を除いて。
急に街を襲ってきた襲撃者の件は、ローム達に一任することになった。
それはいい。
でも、問題なのはその後。
ローム達は、私を話し合いに参加させてくれなかった。
本当は私も力になりたいって言ったんだけど、みんなから「ダメだ」って断られちゃった。
今まで、どんな時でも話し合いに参加させてくれたのに、今回だけは自分達でカタをつける、って……。
どうして?
今まで、一緒にやってきたのに。
協力する流れだったのに。
……私が何かしたの?
嫌なことをしちゃったなら謝るから。
足手まといにならないように頑張るから。
だから、私も一緒に──
どんなにお願いしても、何度理由を聞いても、誰も教えてくれなかった。
そうやって理由を聞くたびに、みんなが悲しそうな顔をする。
変だってことは、私でも気付いた。
でも、教えてくれない。
私のお願いなら何でも聞いてくれたみんなからの──拒絶。
こんなことは初めてだった。悲しかった。私だけ仲間外れにされているみたいで、泣きそうになった。
『全てが終わったら話すよ。だからどうか、それまで俺達を信じて。ね?』
去り際、ロームに言われた言葉。
全てが終わったら話す。その約束をした。指切りげんまん。嘘をついたら針を千本飲ませるし、絶対に許さない。
「…………引きこもってやる」
「え、今さ──ンンッ! それは困るわね。クレアちゃんが顔を見せてくれなくなったら、この街は一日で水没するわよ? みんなの涙で」
「……水分補給だけはちゃんと取ってって、伝えて」
「そうやって心配してくれるあたり、本当にクレアちゃんは可愛いわね」
「っ、……ん!」
途端に恥ずかしくなって、私は毛布に包まった。
みんなが仲間外れにするなら、もう知らない。その言葉通り、本当に何もしないもん。後で助けてって言われても、無視してやるもん。………、……………でも本当に困っていたら──っ、知らない!
「あら、もうおやすみ?」
「ん!」
「それじゃあ、私もご一緒しようかしら」
「……ん!」
ベッドの軋む音がして、私は更に大きなものに包まれた。
シュリの匂い。シュリの体温だ……。
「何も心配しないで。貴女が目覚める頃には、きっと全て……」
別に心配してない。
みんなが大丈夫って言ったんだから、ダメだったら許さない。
そしたらすっごく怒って、いっぱい叱って、次から……は、仲間はずれは、ダメだ、って…………
「おやすみ、クレアちゃん。──大好きよ」
その言葉を最後に、私は……ゆっくりと目を閉じた。
クレア「おこだよ」
諸々の配下達
「っ!!!!(萌え、悶絶、鼻血、過呼吸、涙、合掌、五体投地、尊死、昇天)」