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34.吸血鬼の罠(クロ視点)

前回の後書きで「次回をお楽しみに!」とか言っておいてクロ視点です。


『吸血鬼が、我らの街に強襲を仕掛けた……だと?』


 助け出した協力者──吸血鬼から聞き出した情報。それは耳を疑う内容ばかりだった。


 我々が近場を嗅ぎ回っていたことは、向こうにも把握されていた。

 吸血鬼の刺客を送り込んできたのだ。そうだろうなとは思っていたが、まさかすでに街を襲撃することまで計画されていたとは……。


 あまりにも決断が早すぎる。

 考え無しと捉えられても仕方がない行動の早さだ。


「領主は、バーガンは、西の魔物を強制的に従え……中心へと向かった。……くっ、すまない。もっと早く知らせることもできたのに……」


 この男が早く行動できなかったのは、仕方がないと言える。

 先に情報を手に入れて知らせようとしても、西から中心へ行くのは危険だ。アルフィン達、エルフ族が街まで辿り着けたのは奇跡に近く、たとえ吸血鬼だろうと一人だけでは無理がある。


 もし無事に街に辿り着けたとしても、我らと接触するのは難しかっただろう。

 街には結界が張ってある。

 ただの結界ではなく、自我を持った結界だ。

 魔力やその者が抱く思考を読み取って敵か味方かを自動的に判断し、敵ならばどのような手段を用いてでも束縛しようと働くだろう。


 以前の侵入者の件で、吸血鬼の魔力は学習したはずだ。

 次も見知らぬ吸血鬼が街に入ってきたら、また同じように拘束して意識を奪っていただろう。


 結果的に、この男は我らが来ることに賭けた。


 強襲の件で西の魔物が多く拉致され、強制的に従わされ、最悪戦争にも発展する戦いに連れていかれた。

 西の魔物が激怒して更に凶暴化するのは明白だ。ならば我々がすぐに調査をしに来るだろうと考え、この集合地点で待っていたらしい。


 襲撃に遭ったのは、その時だったと男は言う。


『他の皆は? 一緒ではないのか?』

「……分からない。昨日から、連絡が取り合えなかったんだ」

『ほぼ間違いなく……他の協力者達は、捕らえられているだろうな』


 ラルクの呟きに、我も同意する。


 この集合地点は、森の中でも特に迷いやすい場所にある。

 単なる偶然で見つけられるものではなく、場所の特定をした上で襲撃を仕掛けたのだろう。


 協力者の動きは、相手に筒抜けだったというわけだ。


 吸血鬼側からすれば裏切りに等しい行為。

 捕らえられていても不思議じゃない。


『牢獄のような場所に心当たりは?』

「領主の、クレアお嬢様のお屋敷に……地下へと通じる道があったはずだ。多分、そこに……」


 主が継承するはずだった屋敷。

 そこに協力者が捕らえられている、か……。


 助け出すには、吸血鬼の長が居ない今がチャンスだ。


 だが────


『相手の目的は、これだろうな』


 協力者を助け出し、他の仲間が捕らえられているとの情報を知って、屋敷に潜入させる。

 裏切り者が救出されるのは問題ない。相手は、我々が戻ってくる前に本拠地を叩けばいいと思っているのだろう。


 おそらく、捕らわれの協力者達は重傷を負っているはずだ。

 ラルク曰く、協力者の数は二十人前後。それらを守りながら街に帰還するのは、我とラルクの実力をもってしても苦労する。


 奴らの狙いは、我々の『足止め』だ。


 ここで協力者を見捨てて帰るのは容易だ。

 しかし、その選択をすれば──主は、我を叱るだろう。


 助けられる命があった。

 なのにどうして見捨てたのか、と。


『…………その、屋敷に案内してくれ』

『クロ。いいのか?』


 ラルクが意外そうに尋ねてきた。


『仕方ないだろう。助けられる者を見捨てて戻れば、主に嫌われてしまう』

『……ハッ、確かにな。俺もクレア様には嫌われたくない』

『ならば──決まりだな』


 街には頼れる仲間がいる。それに主の結界も……。

 我々が居なくても、皆なら大丈夫だろう。


「ありがとう、ありがとう……!」


 大粒の涙を流す吸血鬼の男を背に乗せ、我らは走り出す。

 本当は主専用なのだが、今は文句を言っている場合ではないだろう。


『………………』


 遥か遠く、敬愛する我が主の姿を思い浮かべる。

 街の皆はあの御方を大切に思っている。だから、きっと大丈夫だろう。


『託したぞ、皆』


 そして我が主。

 どうか、どうかご無事で──。


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