32.最悪の初対面2(クロ視点)
『クロ。生存者を見つけた……!』
『っ、すぐに向かう!』
ラルクの気配があるのは、我が今いる場所から更に奥へと進んだ場所だ。
そこにはもう一つ大きく開けた広場がある。無論、そこからも濃厚な血の臭いが漂ってきていた。
『なんだ、これは……』
我はすぐにその場へ向かい──再び、絶句した。
広場の奥には真新しく作られた台座が一つあった。そこから滴る大量の血液。下には血溜まりが出来上がり、今も尚、その範囲を広げている。
「……、……ぅ、あ……」
少しでも空気が揺らげば、容易く霞んでしまうほどの弱々しい呻き声。
血溜まりの原因、台座の上。
そこにはマントの男が、痛々しい姿で磔にされていた。
腹部の服が裂かれて肌が露出しており、縛られた両手両足は千切れかけている。全身を痛めつけられているのか動ける状態ではなく、その者が着ているマントは大量の血を吸って赤く染まっていた。
それでも、男はまだ微かに動いている。
手遅れだったかと思っていたが、ギリギリ繋ぎ止めていたようだ。
しかし、その命が失われるのも時間の問題だろう。
すぐに救出して治療しなければ、本当に手遅れになってしまう。
『っ、くそ……!』
先にラルクが動いて磔台を壊し、落下した協力者を我の背中で受け止める。
『無事か!』
「……たすけ、……きて、くれた……、か……」
『ああ、いま傷を治して──っ』
顔を隠していたフードを退かしたのは、単に彼がラルクの言う『協力者』で間違いないかを確認するためだった。
ようやく拝むことができた、正体不明の協力者の顔。
それを視認した瞬間、我は思わず──その場から飛び退いていた。
人間よりも尖った耳。
赤色に怪しく光る瞳。
獣のように鋭い八重歯。
純粋と言えるほどに濃厚な魔力。
人間の姿をした──人間の敵。
それは我らが良く知り、我らが敵視する種族。
『吸血鬼、だと……』
どういうことだとラルクを見つめる。
だが、ラルクも知らなかったのか動揺を隠せていなかった。
『この男は、知っている……何度か、言葉を交わした』
『……本当か?』
『俺が、見間違えると?』
ラルクは一度も、他人を見間違えたことはなかった。
ならば本当にこの男──吸血鬼は、今まで我々に有益な情報をもたらしてくれていた協力者なのだろう。
今まで謎に包まれていた協力者。
決して素性を明かそうとしない、彼らの理由。
その理由が、ようやく分かった。
それはそうだ。正体を明かせるわけがない。
お前らが調査している原因は、自分達と同じ吸血鬼の仕業だと……そう言っても信じてもらえないと分かりきっている。
「……ぅ……あいつ、ら……急に、きて……」
男は、我々が動揺していることを知らない。
それを視認できるほどの余裕が、彼には残されていないのだ。
──どうする?
我は、この男を助けるかどうか……迷った。
ただの協力者ならば、まだ躊躇うことはしなかった。
しかし、この男は吸血鬼だ。
我が主が追放されるところを黙って見ていた者だ。
新たな長に逆らえば住処を失う。
森では魔物が凶暴化している。最悪、住処どころじゃなく命までも失う危険がある。
それが怖かったのだろう。
確かに、自分の身を守ることは大切だ。
しかし、だからと言って──主を裏切っていいわけではない。
我が同じ立場なら、我の立場がどうなろうと主の側にいる。
この身が朽ちる最後の時まで、あの御方のために尽くすと誓う。
我だけではない。
街に住む全員が、同じ思いを持っている。
なのに吸血鬼どもは、我が身可愛さに主を捨てた。
そんな者達を、我はどうしても…………許せない。
『…………今は、喋るな。傷口が開く』
先に動いたのは、ラルクだ。
胴体に巻きつけた道具袋から傷薬を取り出し、その飲み口を男の口に突っ込んだ。
『ラルク、お前……』
『協力者が誰であろうと、協力者であるうちは助ける。……彼は吸血鬼だが、彼らには様々な恩がある。それを仇では返せない』
『っ、そうだな……すまない。少し動揺していた』
『仕方ない。初めて吸血鬼を見れば、街の者なら誰でも同じ反応をしただろう』
ラルクの言う通りだった。
偏見を正当化するつもりはない。
しかし、それでも吸血鬼と聞けば、不快に思うのは仕方がないことだった。
『とんだ、初対面になってしまったな……』
集合地点に行けば、そこは襲撃を受けていた。
唯一そこにいた男は今にも死にそうなほどに重傷で、その正体は我々が敵だと認識していた吸血鬼だった。
全く予想していなかった展開だ。
今日は尽く、嫌なことばかりが起きる。
憂鬱の連続に、我は……深い溜め息を吐き出した。
実はブラッドフェンリル1、温情のあるラルクくん。
この機会に人気出して、いつかファンクラブ作ってほしい(?)
「面白い」「続きが気になる」
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