19.夢の終わり
夢の中は、とても心地が良い場所だ。
誰の邪魔も入らなくて、自分だけの世界に浸れる。
私はそんな夢の中が大好きだった。
そして、今はもっと好きになっている。
「……パパ」
私の隣にはパパがいた。
屋敷にいる時に使っていたベッドの上で、二人で横になっている。
パパの温もり。パパの全てを感じられるように、ギュって後ろから抱きついている。そのせいでパパの顔は見えないけれど、これが一番安心する……。
こんなに甘えたのは、初めて。
夢の中だから目覚めたら全部消えるって知ってるけど、私がやりたいと思ったから、こうしている。
ずっとこうしているのには、理由がある。
夢からの目覚めが近づいている。
それはつまり、パパとの本当のお別れが近づいているんだ。
離れたくない。
でも、離れなきゃいけない。
みんなを待たせている。
これ以上、迷惑を掛けられない。
「パパ、私ね……?」
夢はもう、私の望みのままに動いてくれない。
だから、パパも何も言ってくれない。目の前にいる人は、そこから感じる温もりは全部嘘になっている。
それはもう、ただの人形だ。
パパに似ているだけの、無関係なものだ。
……それでも、これだけは言ってお別れをしたかった。
「私、パパの子供に産まれて良かったって……思うよ」
こんなに自分勝手で、堕落している子供がいたら、いくら血が繋がっていても普通は呆れられて、見捨てられると思う。
でも、パパはそんな私を愛してくれた。
私のわがままを、文句ひとつ言わずに聞いてくれた。
私は本当に──幸せだったんだ。
「本当はパパともっとお話ししたかった。一緒に遊びたかった。ずっと居たかった」
私達は、吸血鬼。何千年も生きる種族だ
だから、また後でも大丈夫だって甘く見ていた。
パパが言ってくれた通りに、自分のやりたいことだけを優先していた。
大切な人との別れは寿命だけじゃない。
そう気付いた時には……パパは居なくなっていた。
「だから、もう後悔したくない。急な別れが来ても、笑顔で誰かを見送れるように……頑張る」
頑張るから、どうか見守っててください。
大好きなパパが応援してくれるって思えたら、私はきっと大丈夫だから。
「………………」
「……パパ?」
パパが寝返りを打って、こっちを見た。
その顔は、もう真っ白に塗り潰されていて何も見えない。
ああ、もう本当にお別れなんだ……。
そう思って悲しくなる。
「パパ。ありが、っ──」
これで最後にしようと思った。
でも、感謝の言葉を言うより早く、パパが動いた。
──私は、パパの腕の中にいた。
これは夢の中。
でも、もう夢は私の望む夢を見せてくれない。
目覚めが近づいている。
お別れの時が近づいている。
そう思っていたのに……最後にこれは、ずるいよ。
「──、────」
耳元で囁かれる、とても小さな言葉。
私にはしっかりと……届いたよ。
「うん。私も──」
視界が真っ白になっていく。
パパの姿が薄れて、温もりが消えていく。
トンッ、とパパは私の胸を叩いてくれた。
その拍子に、お互いの距離が離れた。
顔が見えた。
パパは笑っていた。
いつも向けてくれた優しい目だ。
最後のわがままに付き合ってくれて、ありがとう。
私、頑張る。
すっごく頑張る。
だから、絶対に応援してね。
「さようなら、パパ」
そして私は目覚めた。
最初に視界に入ったのは白色だった。
目を開けるのも一苦労なほどの、眩しい光。それは真横からきていた。
『──キャアッ!』
『っ、シュリ!』
懐かしい声が聞こえる。
でも、それはすごく焦っているようにも聞こえた。
「…………んにゃ……?」
光はより一層、強くなる。
そして、ようやくそれが落ち着いたと思ったら────
「え、えぇえぇえええええ!?!??!!?」
見知らぬ女の人が、全裸で、私の隣に座っていた。
「おじさんがクレアちゃんのお父さんになってあげるよ……うぇへへ」
↑代理パパさんになってくれる方が居ましたら、すぐに交番までお越しください。
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