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17.西の協力者(クロ視点)


『ここは吸血鬼が住む領地だ。……クレア様の、故郷でもある』


 赤い丸が付いた場所──ここに主を追放した愚か者がいる。


 それが新たな吸血鬼の長である可能性は、非常に高い。順当な後継者である主を追放し、長の座を奪い取った者に、怒りを超えて殺意すら覚えるのは当然のことだった。


 しかし──しかし、だ。


 ここで怒りに我を忘れ、暴走して動くのは返って街を危険に晒すことになってしまう。


 吸血鬼が持つ力は、魔物の中でもかなり上のほうにある。

 今、作戦も無しに戦いを挑んでも……致命的なミスをしなければ我々の勝利に終わるだろう。


 だが、こちらの被害も無視できないものになる。


 おそらく、吸血鬼と一対一で戦って勝てるのは、我らブラッドフェンリルのみだ。

 他の魔物も主との契約で強化されているとは言え、奴らが相手では戦力として数えられない。どんなに強化されようとも、吸血鬼には遠く及ばないからだ。


 ──死者も怪我人も出したくない。


 それが主の願いだ。

 我らが抱く感情で、絶対の誓いを破ることは出来ない。


『皆、落ち着け。まずはラルクの話を聞こう。……話を続けてくれ』

『魔物について引き続き調査を進めていたところ、魔物が凶暴になっていると思われるもう一つの原因が、ここにあると分かった』


 吸血鬼の領地。

 一応警戒するように伝えてあったが……。


「にしても、よくそこまで行って無事だったな。吸血鬼は相当強い。歴戦の冒険者でも武器を捨てて逃げ出すほどだ。そんな奴らがうじゃうじゃ居る所に侵入するとか……考えただけで悪寒がするぞ」

『……実は、調査に難航していたところに協力者が現れ、その者が情報を提供してくれた』

『協力者……?』


 西の魔物ではない我々──部外者に協力する者が現れた。

 とても信じられないことだが、ラルクが言うのだ。その情報を聞いた上で更に詳しく調査し、確かだと判断したのだろう。


『…………信頼できるのか?』

『問題ないと判断した』


 慎重に動くラルクが、迷うことなくそう言ったのだ。

 ならば、我もその情報を信じよう。


『その協力者の身元は?』

『見た目を惑わす魔法が掛けられていたマントを羽織っていたため、未だに不明だ。……だが、身のこなしから見て、人型であるのは間違いないだろう』


 人型、か……。

 まさか本当に、人間ではないだろうな?


 しかし、人間が魔物に味方する利点がない。


『話を戻す。魔物の気性が荒くなっている原因が吸血鬼の領地にあると話したが……どうやら、吸血鬼は魔物を強制的に従わせ、奴隷よりも過酷な重労働を課しているらしい』

『吸血鬼が、魔物を……か』


 やっていることは我々も同じだ。

 しかし、我らは絶対に彼らを従わせようとは考えていない。


 この街にいるものは種族を問わず、仲間である。

 強制的に従わせる、ましてや奴隷よりも過酷な労働を課すなんて……決して許さない。


 吸血鬼はそれを良しと思っているのだろうか?


『それが原因で、吸血鬼の領地を離れる者が増加しているようだな。そのせいで働き手が減ったため、魔物を労働力として使っている。……酷いことに、新たな吸血鬼の長は魔物を消耗品としか見ていない。過労で倒れるまで動かし、使えなくなったら処分。新たな魔物を攫ってくるらしい』


 どうやら、非道な行いを良しとしているのは少ないらしい。

 それに耐えられない者が領地を離れ、労働力が減ってしまった。


 ……自業自得だな。


 しかし、そのせいで様々な影響が出てしまっている。


 ラルクの報告を聞いて、こうなるのも当然のことだと思えた。

 吸血鬼によって同族を連れ去られ、使い捨ての道具のように働かされている。我々も同じ立場だったなら、怒り狂って仕方がなかっただろう。この仕打ちをされて、まだ『気性が荒い』程度で済んでいるのだ。


 最初に被害を受けていたのはエルフ族だと思っていたが、最も被害を受けていたのは問題視されていた魔物だった。


 主の言っていたことは、本当に正しかった。


 魔物はしっかりと吸血鬼との約束を守っていたのだ。

 先に破ったのは──吸血鬼だ。


 この所業は到底許されるものではないだろう。


 ラルクの報告は、全て協力者によるものだ。

 それらを完全に信頼したわけではないが、筋が通っていると判断した。


 協力者の正体は気になるが、まずは吸血鬼対策のために動き出す。


『ガッド。移住区の拡張を急いでくれ』

「ぁん? ……ああ、なるほどな。了解だ。ドワーフ族の全力を見せてやるわい」


『ゴールド、ミルド。人間もドワーフ族の援助を頼む』

「任せろ。いつもの二倍は働いてやるよ。……だが、木材が足らなくなりそうだな。資材調達の助っ人を集めてもらえるか?」

『すぐに通達しておこう。他に必要なものは?』

「大丈夫だ。足りない物が出たら、すぐに連絡する」


『エルフ族は、引き続きラルク率いる偵察部隊との連携を』

「お任せください。我々も十分な休みをいただけました。暇な者もすぐに働きたいと言っていたので、建設の方にも協力させてください」


『ラルクは調査を進めてくれ。他にも、会話のできる魔物を探して、可能であればこの街へ保護を』

『承知した』


 やるべきことは決まった。


『何か問題が起こった時はすぐに報告を。決して怠るな。──解散』

「『了解!』」


 報告会は終わった。

 今後の方針も決まった。


 我々は、我々に出来ることをする。最善を尽くすのだ。


 全ては──主の願いのために。


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[一言] 協力者……ね(某閑話の登場キャラを思い出しながら)
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