表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/175

16. 活気を失った場所(クロ視点)


 主が長い眠りについてから、一月が経過した。

 最近になってようやく、身じろぎや寝返りなどの動きらしい動きをしてくれるようになった。そのことに一先ず安心したが、目を覚ます気配は今のところ……まだない。


『クロ。定期報告の時間だ』

『…………ああ、すぐ行く』


 主が休まれているからと言って、我々は止まっていられない。

 今も尚、西側で確認されている魔物の生態変化。それの対処をしなければいけない。


 主が動けない今、我々が主の街を守るのだ。


『シュリ、主のことは』

『はいはい。何があっても必ず守るわよ。だからクロは自分の役目に集中してきなさい』


 ラルク率いる偵察部隊による定期報告。

 主要メンバーが集まる報告の場に、統括が出席しないのでは話にならない。


 本当は、本当に主の側から離れたくないのだが……精神の休息を行っている主の近くで、我々が話し込むわけにもいかないだろう。

 だから我は、溢れんばかりの気持ちを抑え、報告のたびにシュリかロームに主のことを託すことにしているのだ。




 迎えに来たラルクと共に神殿へ向かう。

 ここは我々が重要な話をする時に決まって使う、いつもの場所だ。


 すでに我以外の者は全員集まっていた。


 だが、どこか彼らの顔は疲れているようにも見える。

 …………皆、いまだに目覚めぬ主のことを心配しているのだ。


 主が目を覚まさないことは、すでに街全体に伝わっている。

 そのせいかこの街には、以前までの活気が無くなっているようにも感じられた。皆、それぞれに割り当てられた仕事を十分に発揮できず、集中力も散漫になっているのだ。

 今ここに集まっている者達は、なるべくそういった感情を表に出さないように心掛けているが……少数で居る時までは暗い感情を隠しきれないのだろう。かく言う我も、同じ気持ちだった。


 だが、いつまでもこの空気でいるのはダメだ。



 ──気持ちを切り替えよう。 



『…………始めるか』


 我の一言によって、定期報告会は始まった。

 そこからは皆も暗い感情を押し殺し、真剣に話し合いに取り組む姿勢を見せてくれた。流石はこの街を支える者達だと感心しながら、我はラルクの報告に耳を傾ける。


『まずは偵察部隊。四度目の調査に向かった際に何度か野良の魔物と遭遇した。その際に戦闘になったが、問題なく撃退した』


 偵察部隊はすでに四回、西側へ偵察に行っている。

 二回目、三回目はこれと言った成果は得られなかったが、総合して分かったことがある。


 西の魔物は、主が言ったような温厚な魔物ではなくなっている。

 むしろ気性が荒くて、他区域に生息する魔物よりも厄介だと、我々は判断した。


 主の言葉が正しいのであれば、それはあり得ないはずなのだ。


 しかし、実際にそれは起こっている。

 今まで無害だったエルフの集落が、魔物の手によって滅ぼされたことが確たる証拠だ。


 我々はこの原因が、吸血鬼にあるのではないかと考えた。

 主の証言により、吸血鬼の長が変わったことはすでに分かっている。

 その新たな吸血鬼の長によって、長年交わされていた『約束』が無効になり、魔物が持つ本来の姿が目立つようになったのだろう。


 ──それだけではない。

 西の魔物が今まで平和に過ごしていた分の反動が出てきて、魔物はより凶暴になっている。


 今回の調査は、それを確かめることが目的だった。


『結果から言うと、予想通りだ。他の区域に生息する魔物と比べて、西の魔物は気性が荒くなっている。……よくよく考えてみれば、すでに分かっていたことだ。ブラッドフェンリルが居るにも関わらず、愚かにも魔物は牙を向けて来た。他区域の魔物でも試してみたが、魔力に怯えて姿すら現さなかった』


 魔物はなにかれ構わず目に入ったものと敵対する傾向にあるが、命を捨ててまで襲いかかるほど馬鹿ではない。


 相手が格上だと分かれば即座に逃げ出し、勘の良いものは気づかれる前に何処かへ隠れてしまう。

 しかし、西の魔物はラルクを前にしても牙を向けてきた。これは異常だ。


「そういや、強い魔力をぶつければ弱い魔物は背を向けて逃げていったな」

「冒険者がよく使う手段だな。無駄な戦闘で体力を消費しないために、この撃退方法はギルドの方でも勧めていた。効果は間違いないが……西の魔物にはそれが通用しないってことか?」

『その通りだ。遭遇した魔物全てに試しても、結果は同じだった』

「……やっぱり、元々予想していた反動が原因なのか?」

『それもある……が、更に調査を進めたところ、原因は他にもあることが分かった』


 ラルクは西側の地図の一部に、赤丸を付けた。


 西側の中でも特に開けた場所だ。

 魔物が好んで住み着くのは魔力が留まりやすいところ──例えば木々が生え揃った場所とか、暗い洞窟の中とかがそうだ。


 一見すると何も関係ないような場所に見えるが、これは……。


『ここは吸血鬼が住む領地だ。……クレア様の、故郷でもある』


 瞬間、その一室は殺意に満たされた。


かなり多くの方から王国視点を書いてほしいとの意見が届いていますが、後々しっかりと出す予定なので、それまで気長に待ってくれると嬉しいです。


「面白い」「続きが気になる」

そう思っていただけたら、下の評価とブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ