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25.みんなが笑えるように

他視点の話にも数字を振りました。

それによって話数が変動しましたが、内容に変わりはありません。


 ミルドさんが提示した作戦は、


「まずはそっちで陽動を仕掛けてもらいたい。その隙に隠密行動ができる奴と、内部の構造を把握している俺とで、三人を連れ出す」


 という簡単なものだった。

 でも、それは言葉だけで、実際にやるとなれば難しい。


「そう、上手く行くの?」

「やるしかない。だが、危険は大きい」


 バレたら、どっちも危険なことになる。

 成功する可能性は低いけど、安全にやるにはこうするしかないと、ミルドさんは言った。


 クロもラルクも、その意見には賛成しているみたい。


『我は陽動に参加しよう。ラルクは三人の救出に向かってくれ』

『承知しました。当日はミルド殿に従いましょう』

「助かる。だが、陽動はそれなりに危険が伴うが、そこは大丈夫か?」

『無論だ。こちらでも精鋭を用意しよう。策は考えてある』

「……策? なにを、するの?」

『それは当日のお楽しみだ。主よ、どうか我に任せてほしい』


 クロが何を企んでいるのかは、わからない。


 でも、任せてと言われたから、任せる。

 適当なことはしないと思うし、失敗するとも思えない。


 私は、クロを信じているから。


「みんな、怪我……しない?」

『一番の安全策で行く。……そんな不安そうな顔をしないでくれ。精鋭で行くと言ったであろう? 大丈夫だ』

「…………うん」


 私は、こくんと頷いた。

 それでも不安になって、クロの身体を抱きしめると、クロは嫌がらずにそれを受け入れてくれる。


「……いい主を持っているな」


 ミルドさんは目を細め、優しい声でそう言った。


『ああ、自慢の主だ。だからこそ、不幸にさせるわけにはいかない』

『クロの言う通りです』


 当然のように頷くクロとラルクに、私は少し恥ずかしくなって顔を埋めた。

 ……ここまで堂々と言われるのは、まだ慣れていない。


『こうして恥ずかしがるところも、また可愛いのだ』

「……、………………」

『叩かないでくれ我が主。ちょっとだけ痛いぞ』


 本気で叩いているのに、クロは笑うだけだ。

 それがちょっとだけ、悔しい。


「──ハッ! あの三人も良い居場所を見つけたもんだ」

『ああ、ここは最高の場所だ。人間も魔物も関係ない。ミルドもここに住まうか? 貴殿ならば歓迎するぞ』

「それじゃ、ギルマスを引退することになったら厄介になろうかね。クレア殿が許してくれるかどうかはわからないが……」

「…………ん、ミルドさんは多分良い人。いつでも歓迎する」


 あの三人が約束を破ってでも頼った人だ。

 ギルドマスターっていう凄い人だから、上手く魔物を纏めてくれると期待している。……その時が来るまで気長に待とう。きっと眠っていればすぐだから。


「それじゃ、俺は一度戻って、あの二匹にもこのことを伝えてくる……っと、そうだ。誰か俺の見張りをするか? まだ完全に信用しているわけじゃないだろう?」

「……ん。ラルク、お願いできる?」

『承知しました。クレア様のお願いとあれば、俺も頑張りましょう』

「クロも、それで良い?」

『ああ。我もそれに賛成だ。ラルクならば、誰にも気づかれずに監視することも可能だろう。ついでに早くから下見もしてもらいたいと思っていたところなのでな』

「……ということで、ミルドさんにはラルクと一緒に行動してもらいたいの」

「おう、わかった」


 ミルドさんは快く承諾してくれたけれど、常に行動を見張られる側としては良い気分じゃないだろう。


「ごめんなさい。ミルドさんは三人が信頼しているから、私もあの三人の心を尊重したい。でも、自由にさせるわけにはいかないから……」

「気にするな。俺だってクレア殿の立場なら絶対に見張りを付けさせる。この程度で他人を完全に信頼するような緩い奴だったら、その場で切り捨ててただろうよ」


 どうやら私は、いつの間にか試されていたらしい。

 選択肢を誤っていたら、ミルドさんは言葉通り私を見捨てていたと思う。


 …………危なかった。


『主をあまり虐めてやるなよ』


 一応、クロが忠告を入れるけど、怒っている様子はない。

 これも上に立つ者として必要なことだと思っていたから、あえてクロは黙っていたのかもしれない。


 …………むぅ、みんな揃って性格悪い。


「悪いな。上に立つ以上、背中を任せる奴は自分で選びたいんだよ」


 ミルドさんはそう言い、ニカッと笑った。


「じゃあ、これからも贔屓してくれると嬉しいぜ、魔物の主さん」

『ではクレア様。しばしの別れとなりますが、必ずあの三人は連れ戻しますので、どうかご安心を』

「……うん。行ってらっしゃい」


 ヒラヒラと手を振り、部屋を後にするミルドさんの背中を、ラルクも追いかける。


 これで、私とクロだけになった。


「無事に行くと、良いね」

『成功すると良いではない。成功させるのだ』

「…………信じてる、から」

『ああ。主にそう言われたら、尚更失敗できないな』


 クロは笑う。

 私も、笑った。


 成功すると良いな、じゃダメ。


 成功させるんだ。

 みんながこうして、笑い続けられるように……。


「面白い」「続きが気になる」

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― 新着の感想 ―
[一言] >どうやら私は、いつの間にか試されていたらしい >「悪いな。上に立つ以上、背中を任せる奴は自分で選びたいんだよ」 助けてくれとお願いに来ておいて、更に図々しく試しておいて、この態度。 すこ…
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