33.謝り方
私の言ったことに、クロは不思議そうな顔を浮かべた。
『謝るとは……どう謝ればいいのだ? 瞬殺してすまないと言えばいいのだろう──がっ!?』
全てを言い切る前に、クロの頭上からすごい速さで拳が降ってきた。
それはしっかりと脳天を捉えていて、メキャって音を立てながらくろの頭は床にめり込む。
クロを襲った犯人はシュリ。
どこか怒ったような表情をしているし、あのクロが本気で痛がっているから、相当な力で殴ったみたい。
ジロっと睨まれても当の本人は何処吹く風って感じで、微塵も悪いことをしたなんて思っていない。むしろクロを非難するように睨み返していた。
『なっ、何をする!? 今のは痛かったぞ!』
「馬鹿がもっと馬鹿なことをしようとしていたから、拳骨を入れただけよ」
『馬鹿とはなんだ。それならば、どう謝罪すればいいのだ!』
シュリは「そんなこともわからないの?」と、呆れたように溜め息を吐いた。
「瞬殺したことが悪いのではないわ」
『では、何が悪かったのだ』
「そうね……もし、クロが逆の立場だったらどう思う?」
『……ん?』
「絶対に勝てない相手がいる。それでも一矢報いたいと頭を悩ませ、死ぬ気で鍛錬に励んだ。ようやくその成果を果たす日がやってきた時、くだらない相手の都合で今までの努力が水の泡になったら? あなたはどう思う?」
クロは沈黙する。
しばらく考えた後、眉を落としてこう言った。
『腹が立つ、だろうな……それと、やるせない気分になる』
その言葉を聞いて、私は満足した。
何が悪かったのか気づいてくれた。そのことが嬉しい。
『だが、それを理解したところでどうすればいいのだ。我には謝罪の仕方がわからない……』
「そんなの自分で考えなさいよ」
打ち明けた悩みをバッサリと切り捨てられたクロは、目を丸くさせた。
「ヒントは出したわ。その上で答えまで教えてもらおうとするなんて、子供みたいじゃない?」
『そう、だな……確かにその通りだ』
決心がついたのかな。
クロは『失礼する』と言って、お部屋を出ていった。
「ふぅ……厄介な相手だったわね」
「クロ、大丈夫かな……」
「根はしっかりしている奴よ。これだけ説教すれば大丈夫だと思うわ」
私たちには人間の常識が欠けている。
だから、普通のことでも理解できなかったり、そのせいで喧嘩したりと問題が起こる時がある。
でも、私たちも知識ある生き物。
ちゃんとお話しすれば、人間の常識を理解することができる。
今回のことも、それが原因だった。
たとえ私のためを思った行動だとしても、さっきの試合は不適切だった。
悪いことをしちゃったら、謝るのが一番。
お部屋を出ていく姿には迷いが見えなかった。
だから、あれで大丈夫。
「──さ。私たちも気持ちを切り替えて、試合に集中しましょ」
「んっ、わかった」
試合はまだまだ続く。
私たちも、このお祭りを最後まで楽しまなきゃ。