【コミカライズ記念】お悩み相談
祝、コミカライズ配信!!!
ということで番外編を公開いたします。
コミカライズは『マンガよもんが』というサイトで読めます。
3話まで無料で読めるので、この機会にぜひ!
よろしくお願いいたします!!
(時系列は第1章終わりくらいです)
月に一回、私は神殿に行く。
神殿は街で一番大きな建物。みんなが毎日交代で掃除しているから、ぐるっと見渡しても汚れひとつなくて、いつもピカピカな場所。真っ白だから余計に眩しく見える。
そんな豪華な建物だけど、中は思ったより殺風景で飾り物はとても少ない。あるのは必要最低限の物だけ。
神殿はあくまでもお祈りの場所。
だから、みんな私の石像──神殿の中に置いてある──にお祈りをして、お家に帰る。
そんな場所に、私は月に一回だけ行くことになっている。
別に、私もお祈りがしたいわけじゃない。
私が私自身にお祈りすることに意味はないと思うし、お祈りの対象が別の誰かだったとしても、そういうのに興味はないから。
それじゃあ、どうして神殿に来ているのか?
それは、えっと……ぼらんてぃあ活動?
たしか人間がよく使う言葉で、利益や見返りを求めないで誰かのために働くことを、そう言うんだっけ?
「実は昨日、友達と喧嘩してしまって」
「……そうなんだ」
「その時はついカッとなって色々言ってしまったのですが、俺にも悪いところがあったなって反省してるんです」
「……酷いこと、言っちゃったんだね」
私がやっているのは、お悩み相談。
きっかけは単純だった。
シュリの愚痴を聞いている時に、ラルクやロームも混ざり始めて愚痴大会になって、ふとした時に『姫様に話を聞いてもらうだけで心が癒されるよね』って言われた。
それから、どこから噂が出たのか私に話だけでも聞いてほしいって言い始める魔物が増えて、無視するのも可哀想だから私が起きている時ならいいよって許可を出したのが、事の始まり。
そして、いつの間にか月に一度の『お悩み相談』っていう行事ができちゃった。
お悩み相談は神殿にやってきた人たちのお話を聞くのがお仕事で、本当はそれを聞いて一緒に悩んだり、解決策を出したりすると思うんだけど……私はただ彼らのお話を聞いているだけ。
私も、何か力になってあげたいなって思う。
でもどうしてか、みんな私にお話ししただけで満足したようにお部屋を出ていくの。
もっと不思議なのは、すごく大変そうなお悩みも、私に相談した次の日には解決していること。
クロは『主に相談したおかげだろう』って言っていたけれど、私は本当にお話を聞きながら、合間合間に相槌を打っているだけ。どうしてそれが私のおかげになるのか意味がわからない。
でも最近は、みんなが喜んでくれるなら、それでもいいのかなって思うようになった。
「クレア様、ありがとうございました! お話を聞いていただけで、気持ちが楽になりました!」
「……もう大丈夫なの?」
相談者は急に立ち上がって、元気な声でお礼を言った。
その顔はとても活き活きとしている。最初、相談室に入ってきた時とは別人みたいだ。
「友達も神殿に来ているはずなので、今すぐ謝ってこようと思います!」
「……そっか。頑張ってね」
「はいっ! 本当に、ありがとうございました!」
ドタバタと慌ただしく出て行って、その後、すぐ近くで歓声が湧いた。
さっきの相談者がお友達を見つけて、無事に仲直りできたのかな?
「クレアちゃん、今日も大活躍ね」
「……そう?」
「ええ、クレアちゃんに相談したから、あの子も謝る勇気が出たのよ」
そうなのかな?
……やっぱり、よくわからないや。
「でも、」
「……でも?」
「みんなが喜んでいるなら、私も嬉しい」
契約を通じて、みんなの感情が流れてくる。
それはとても心地がいい。私もそれを感じながら眠ると、いい夢が見れるから、この感情は好きだ。
誰かの悩みを聞くのは、簡単なことじゃない。
時にはものすごく追い詰められた相談もあるし、怒りに任せた愚痴を聞くこともある。
でも、決まって最後はみんな笑顔になってくれるから、このお悩み相談が嫌だと思ったことはない。
私は、この街にいるみんなのことが好き。
みんなには元気なまま、この平和な日常を過ごしてほしい。
「そろそろ、終わりにしましょうか」
「……ん、終わりにする」
「今日もお疲れさま、クレアちゃん。またお願いね」
「うん。次も頑張る」
だから、私はお悩み相談を続けたい。
みんなの笑顔が見たいから、できる限り、ずっと……これを続けられたらいいなって、そう思う。