表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

170/175

30.暗黒微笑……?


「さぁ試合も一巡して、次からは準々決勝です!」


 3回戦や4回戦、そのあとの試合も全部見終わった。

 ひとまず参加者全員が一回戦い終わって、今はちょっとした休憩時間。


「この先も激しい戦いが繰り広げられると予想したため、実況解説の助っ人をお呼びしましたぁ! 人間のリーダー的存在。過去に冒険者ギルドのギルドマスターを務めていたミルドさんですっ!」

「どーも。よりによって、なんで俺が呼ばれたのか謎だが……まぁ、折角もらった役目だから精一杯解説させてもらうぜ」

「ちょうど良さそうな人を探していたら、1回戦敗退して暇そうにお酒を飲んでいたのを見つけたのよ」

「思っていたよりどうでもいい理由だったな、おい」


 準々決勝からは、解説席にミルドさんも加わるみたい。

 ギルドマスターだったのもあって、ミルドさんの観察眼は人間の誰よりも優れている。きっと、戦いのことがあまり分からない観客の人たちにも、丁寧に解説してくれるはず。いい人選だと思う。


「さて、休憩時間が終わり次第、次の試合が始まるわけですが……ミルドさんは誰が優勝すると予想しますか?」

「無難なのはクロだろうな。フェンリルの名は伊達じゃないし、クレア様の契約で更に強くなっている。……正直、この街でフェンリルとまともに戦える奴は、同じフェンリルだけだろうよ」

「なるほど。では同じフェンリルであるシュリ選手はどうでしょう?」

「彼女も初戦では圧倒的な力を見せつけていたが、戦闘はあまり得意じゃないと本人が言っているからな。人間の体になってから本気で戦うのは今回が初めてだろうし、動き慣れていないって点が不利に働くかもしれない」


 シュリは今回、人間の体のまま参加している。

 戦い慣れているフェンリルの身体に戻ってもいいけれど、この機会に人間の体での戦い方を知りたいんだって。


 だから、本来の力を出し切れないところが弱点になるだろうって、ミルドさんは予想したんだね。


「ミルドったら、中々痛いところを突いてくるわね」

「でも、諦めない……よね?」

「もっちろん! 愛娘が見ているのだから、情けない姿は見せられないわ!」

「ん、応援してる」


 クロにもシュリにも頑張ってほしいけれど、シュリは私のママだから、勝ってほしい。

 そう言ったら力一杯に抱きしめられた。胸が顔に当たって苦しかったけれど、シュリに抱きしめてもらうのは安心するから、これが嫌だとは思わない。


「クロと決闘か……何年ぶりかしら」

「戦ったこと、あるの?」

「すごく昔に一度だけね。その時は豊かな森が、荒野に変わり果てていたわね」

「どうして? 喧嘩しちゃったの?」

「え? えーっと、理由はなんだったかしら……ごめんなさい。昔すぎて忘れちゃった」


 クロとシュリはよく小言を言い合っているけれど、仲が悪いわけじゃない。

 むしろ信頼しあっているんだなって、お互いを見ていればわかる。


 だから、一回だけ本気で戦ったことがあるのは正直意外だった。

 その理由が気になったけれど、何年も前すぎて忘れちゃったみたい。……残念。


「多分、心底くだらない理由だったはずよ。食べ物の好き嫌いとかそんな感じのやつ」

「それで荒野にしちゃったの?」

「……まぁ、私たちにも若い時があったのよ」


 シュリは目を細くして、どこか遠くを見つめながらそう言った。


「もしクロとシュリが本気を出したら、観客危ない?」

【大丈夫なの!】


 そんな疑問を口にした時、空から赤い球体が舞い降りて私の周りをぐるぐると回った。

 私の魔力で作り出した、結界のカイちゃんだ。


【マスターの魔力があれば私の強度は世界一なの!】


 カイちゃんは常に街を結界で覆って、みんなのことを守ってくれている。

 そんなカイちゃんが大丈夫って自信満々に言うなら、信じてもいいのかな。


【本当にやばそうになった時は、マスターの魔力を沢山貰うの!】

「ん、必要な時はいつでも言ってね」


 私が魔力をあげればあげるほど、結界の強度は上がるみたい。

 もちろん私の魔力でみんなが安全になるなら、喜んで協力する。私も貢献する。


「クレアちゃんの魔力で守ってくれるなら、決勝も安心して本気を出せそうね」

「──あら、お義母様。決勝の話をするのはまだ早いのでは?」


 横槍を入れる声は、フィル先生だ。


「なぁに? その言い方、まるで私に勝つつもりでいるように聞こえるのだけれど?」

「ええ、その通りです。たとえ神話級の魔物が相手だろうと、負けるつもりはありません」

「ふふっ、面白いじゃない。やれるもんならやってみなさい」

「その余裕な表情をすぐに歪ませて差し上げます」


 二人が笑顔で会話している。

 それなのに、その背後にはとても黒いオーラが見える。

 ……なんだろう。関わったら面倒なことになりそうな予感がする。


「カイちゃん。大変だと思うけど頑張ってね」

【久しぶりの登場だから、私も張り切って精一杯頑張るの!】

「ん、期待してる」


 みんな、やる気は十分みたい。

 成功を祈って、全員でこのお祭りを楽しもうとしてる。


 一致団結っていうのかな?


 こういうのは嫌いじゃない。

 前はうるさいし快適に眠れないと思っていたから苦手だったけれど、いつの間にかみんなと楽しく過ごすことが好きになった。


 だから、私もこのお祭りは最後まで楽しみたい。


 …………でも、どうしよう。

 ちょっとだけ、ほんのちょっと……眠くなってきた……かも……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ