24.強力な助っ人
【ピンポンパンポーン! 会場のみんなにお知らせなの! 参加者への説明が終わったから、10分後に一回戦目が始まるの! 今のうちにお手洗いを済ませておくの!】
「え、カイちゃん……?」
予想していなかった声に、私はびっくりして空──街を覆っている結界を見る。
【マスター! 私を呼んだの!】
すると、すぐ目の前に赤い球体がポワァって浮かび上がってきた。それが光り輝くたびにカイちゃんの元気な声が聞こえてくる。
「カイちゃんも、協力してくれるの?」
【そうなの! 戦っている最中に観客席に被害が出ないようにって、お願いされたの】
「ほら、魔法が弾かれて観客席に飛んでいったら危険でしょ? どうせ参加者は戦いのことに夢中で周りの危険なんて考えられないだろうし、もし戦闘に巻き込まれたら大変だと思って、ご主人様の結界にも協力をお願いしたのよ。カイちゃんはすごく頑丈だから、並大抵の攻撃じゃ壊れないでしょ?」
【もちろんなの!】
自信満々に頷いた……ように球体が上下する。
初めて聞いたけど、そっか、カイちゃんも私たちに協力してくれるんだ。
【マスターの街の大きなお祭りだから、協力するのは当たり前なの。仲間はずれにされるほうが嫌なの!】
「頼りにしてるわよー。……割と冗談なしに、ほんと、まじで……あなたの頑張り次第でこの大会の安全性が左右されるんだから!」
【任せるの! ブラッドフェンリルが束になって本気を出しても私は壊せないの!】
「いや、それはやりすぎ」
いつの間に、カイちゃんに協力のお願いをしていたんだろう。
びっくりしたけど、観客に被害が出ないようにって考えるのは当たり前だし、そのお仕事を任せられる1番の適任はカイちゃんで間違いない。
だって、私とミルドさんたちで頑張って作った最高の結界だもん。
「カイちゃん。みんなのこと、守ってね?」
【はいなの! マスターのお願いだから頑張るの!】
球体は元気に飛び回った後に、空気に解けるように消えていった。
でも、カイちゃんの魔力は会場内に強く残っている。透明になっているからわからないだけで、今もずっとみんなのことを守ってくれているんだ。
「レア様、ただいま戻りました。……? 何かありましたか?」
「ただいま、クレアちゃん──!」
入れ替わるようにやって来たのは、フィル先生とシュリ。
参加者への説明会が終わって、すぐに戻ってきてくれたみたい。
「ちゃんとお留守番できた? 寂しくなかった? ちなみに私は寂しかったわよ!」
シュリが飛びついてきて、ぎゅーってされる。
……ちょっと苦しい。
「あれ、クロは……?」
「あいつは前半戦の出場だから、控え室で待機よ。後半戦で私たちと交代」
「前半の15組をやって小休憩の後、後半の15組。その後にそれぞれの勝者で決勝戦という流れになっているようです。……かなりの長丁場になりますが、眠たかったら我慢せずに眠ってしまってもいいですからね?」
「んーん、今日のためにいっぱい眠ったから大丈夫。まだまだ起きてる」
折角のお祭りなんだもん。
私もいっぱい起きていられるようにって、今日のためにいっぱい寝溜めしてきた。
だからまだ眠くないし、初めてのことでワクワクもしているから、しばらくは起きていられると思う。
「それではレア様が退屈しないよう、私たちも派手に戦わないとですね」
「ん、フィル先生の魔法……すごく楽しみ」
フィル先生は人間の頃から十分強かった。
吸血鬼になったことで人間だった時より何もかもが強化されて、その上、強くなろうと頑張っていて毎日特訓を欠かさずにやっているみたい。
……どれだけ強くなったのかな。
その成果を見るのが、すごく楽しみ。
「むぅ……私だって頑張っちゃうんだからね! 相手をなぎ倒して、優勝しちゃうんだから!」
「ん、ママのかっこいいところ、いっぱい見たい」
「──っ、くぅ! そこでその呼び方は反則すぎる! 俄然、やる気出てきたぁ!!!」
シュリが戦っているところを見るのは、あの大きな炎の巨人が初めてだった。
あの時のシュリはすごくかっこよかった。だから、今回もそういう姿のママを見られると思うと、今以上にワクワクが止まらない。
シュリもフィル先生も、クロも……他の参加者も。
みんな、この日のために頑張って力を磨いてきた。だからみんなには全力を尽くして頑張ってほしいし、参加しない観客には、それを目一杯楽しんでほしい。
「さぁさぁさぁ! みんな待たせたわね! 参加者の準備が整ったわ! 観客のみんなも準備はいい? いいわよね? それじゃあ──お祭りの始まりよ!」
──ワァアアアアアアアアア!!!
歓声が湧き上がる。
待ちに待った第一試合が今──始まる。