番外編:ネコちゃん様(猫の日)
猫の日にノリと勢いで書いた短編です。
時系列的には3章完結後のお話。
若干のキャラ崩壊……あ、いや、よくよく考えればいつも通り?なので一応注意です。
「な、なんですかその格好は……!?」
私は今、過去一番と言っていいほどに驚愕していました。
「んにゃ? どこか、変……?」
気がつけば目の前には私のご主人様──レア様が座っていました。
……いや、それはいいのです。私はレア様の忠実なる僕にして、お姉ちゃん(自称)なのですから。彼女が私の近くにいるのは至極当然のことなのです。
しかし、レア様の格好がいつにも増して可愛すぎることに、私は驚愕していました。
服装はいつもの可愛らしいフリルがついた白いワンピースのお姿。
伸ばしっぱなしの髪型には可愛らしい寝癖がピョコンと跳ねており、本来の可愛らしさとは別の可愛さとあどけなさを引き立たせています。とても愛らしくて非常に良きですが、これもいつも通りです。
問題なのは彼女の頭部と腰!
なんと! レア様に猫のような耳と尻尾が生えているではありませんか!
ただでさえ可愛いの限界点を天元突破しているレア様に、さらに可愛い要素が追加されているですって!? これはなんということか……! これは事件ですよ、もはや事件になってしまいます! 血で床が真っ赤に染まって大変なことになります。もちろん私の鼻血です!
「? フィル先生……?」
コテンッ、と静かに傾けられる首。その拍子にピコピコと揺れる耳と、先程からレア様の背後で揺れ続けている尻尾。真っ直ぐにこちらを見つめるつぶらな瞳。その小さな口元から発せられる鈴のような綺麗な声色で呼ばれる私の名前。あ、あぁ、あああああああああっ────!
「グフォぁッッッ!!!」
「……!」
吐血しました。ついでに鼻血も噴出しました。
それはもう思い切り。
ネコちゃんレア様の可愛さに耐えきれなかったのです。
……正直なところ、あまりレア様の前で不格好な姿を見せたくなかった。そのために毎日特訓をしていたのですが、今回のは反則です。今までの特訓が全て無意味だと思わせるような圧倒的『尊さ』の物量によって、脳の容量はいとも容易く限界を迎えてしまいました。
ですがご安心を。
レア様はもちろん、愛用されているベッドシーツやお布団は汚れていません。いくら限界を迎えていたとしても、そこは従者として最低限の理性を保たなければ。
「フィル先生、大丈夫? どこか痛いの……?」
──あ、ダメです。
理性だけでもと思いましたが、こっちも限界です。
「っ、うぅ……!」
視界がぼやけてきました。
予想以上に多くの出血をしてしまったせいか……。
────悔しい。
貧弱な体に、ではありません。
レア様の可愛らしいお姿を、これ以上、この目に焼き付けることができないこの状況が──すごく悔しい。
ああ、このお姿をもっと見たい。
これを眺めながらご飯を沢山食べたい。そして抱きしめたい。匂いを嗅ぎたい。沢山なでなでしたい。一緒に眠りたい。手離したくない。
この空気も、この光景も何もかも!
でも……本当に限界、です……。
「ああ、でも、それでも……」
それでも、最後にこれだけは……これだけは……!
「レア、様……最後に一度だけ、一度だけでいいので……にゃん、と……」
「…………にゃうん?」
────────あ、むり、尊い────────
「…………ん、ぅ?」
フィル先生が眠っている。
私のお世話係として来ていたはずだけど、いつの間にか一緒に眠っていたみたい。
疲れているだろうし、起こすのも可哀想かなと思って寝顔を眺めていたら…………フィル先生は急に笑い始めて、少しづつ、その……笑った顔がちょっとだけ怪しい感じに変わっていった。
でも、なんだか、心なしか喜んでいるみたい?
すごく怪しいのに、すごく幸せそうなフィル先生。……どんな夢を見ているのかな。
「ふぇ、うへへへ……レアさまぁ、にゃんにゃんしましょぉぉぉ……」
…………本当に、どんな夢を見ているんだろう?




