21.お祭りの始まり
──ドンッ! ドンッ!
大きな音が空に響く。
それは空気を振動させてこっちまで届いて、体がビリビリってなった。
『主。大丈夫か?』
「……ん。ちょっとびっくりしただけ」
事前に大きな音が鳴るよって言われてたから、心構えはできてた。
でも、想像以上に大きな音だったから少し体がビクッてなっちゃった。
「これは花火と言うもので、催しの際に打ち上げるんですよ。これを大空に打ち、音を鳴らすことで開催を祝うのです」
「花火……?」
「ええ。ほら見てください。お花のような模様が広がっているでしょう? 火薬が燃える色で花を描くので、花火と名前が付いています」
すごく大きな音を鳴らす花火は、人間の国で使われていたもの。
「盛大に催しを起こすなら、花火は絶対にあったほうがいい」ってミルドさんが言い出して、人間たちが大賛成したことで花火を用意することになった。
作ってくれたのはドワーフたち。
彼らも花火の作り方だけは知っていたみたいだけど、模様をどうするかって話ですごく盛り上がっていたみたい。
そんな彼らの苦労もあったおかげなのかな。
「たまには人間も粋なことをするわね。ちょっと音が大きすぎるけれど、確かにこれは素晴らしいものだわ」
「……ん。すごく綺麗」
私とかフェンリルは、人間より耳がいい。
だから花火の音にはびっくりするけど、空に打ち上がったお花の模様を見るのは楽しいかも。
『これで街の住民全てにコロセウムの開催を伝えられた。すぐに訓練場は民で溢れかえるだろう』
「ようやく、ね……楽しみだわ」
『俺達は不参加だけどねー』
『まぁ折角のお祭りなんだ。警備はこちらに任せてクロ達は楽しんでこい』
今回、フェンリルの中でコロセウムに参加するのはクロとシュリだけ。
残ったロームとラルクは不参加で、その代わりにお祭りの間の警備を担当してくれる。
クロとシュリに比べて二匹はいつも動き回っているし、フェンリル全てが参加しちゃうと警備が手薄になるってことで二匹が参加を辞退した。
本当は二匹にもお祭りを楽しんでほしかったんだけど、ロームとラルクが警備してくれるおかげで私達は何の心配もなくお祭りを楽しめるんだ。
「ありがとう。ローム、ラルク」
だから、これは感謝するのが正解なんだ。
全部任せちゃってごめんねじゃなくて、ありがとうって。
『うん。それで十分だよ。俺達の姫様』
『では、行ってまいります』
そう言って、二匹はお部屋を出て行った。
『では、我らも行くか』
「……ん、緊張する……」
今日、私はみんなの前で演説をすることになっている。
初めてのお祭りだから、みんな私の声を聞きたいだろうし、声を聞いたらみんなのやる気も上がるだろうからお願いだ! って、主催者側の全員から土下座までされたら、流石の私も断れなかった。
その時は仕方なく……って感じだったけど、改めてみんなの前で喋るんだって思ったら、すごく緊張してきた。
「クレアちゃん。緊張した時は手のひらに『緊張』って字を書いて飲み込むと緊張がほぐれるらしいわよ」
「……でも、緊張の文字……わからない…………」
「…………まぁクレアちゃんなら大丈夫よ!」
グッと親指を立てて、シュリは励ましてくれた。
…………どうしよう。全然気が楽にならない。
「それはそうと、レア様。昨日はしっかりと眠れましたか? 今日は長丁場なので、少し大変だとは思いますが頑張ってくださいね」
今日はお祭りだから、観戦のために長い時間起きてなきゃいけない。
でも大丈夫。
今日のために沢山眠って、沢山寝溜めしといたから、たぶん三時間くらいなら耐えられる……と思う。
「でも、無理だけはしないでね? 我慢できなくなったら遠慮せず寝ちゃっていいのよ。どうせお祭りは明日もあるんだし、いくらでも期間は伸ばせるように言ってあるからね」
「ん。わかった。無理しない」
シュリはそう言ってくれたけど、折角のお祭りだから私も起きて一緒に楽しみたいとは思ってる。
みんな、今日のために頑張って戦うんだ。
それを眠っちゃって見逃すなんて、寂しいもん。
「今日は、頑張ろうね」
私の言葉に、みんなが頷いてくれた。
──お祭り。
この街が作られて、初めての大きな行事。
みんな楽しめたら嬉しいな。
そして、みんな大きな怪我もなく終われたら嬉しいな。