20.これが終わったら
シュリが倒れちゃったから、ひとまず私はクロを呼んだ。
困った時のクロ。
そう教わった通りに名前を呼べば、クロはすぐに駆けつけてきてくれた。
『これは……なにがどうなっているのだ?』
でも、さすがのクロも状況を理解できなかったみたい。
だから私は、頑張ってその時のことを説明した。
シュリが疲れていたみたいだからマッサージをしてあげようと思ったこと。
そしたら急にシュリがむせて、気がついたらベッドが真っ赤っかになっていたこと。
ついでに謎の暗号みたいなものも残されていたこと。
うまく話せるか不安だったけど、クロは大体のことを察してくれた。
そして、あまり悩んでいる様子もなくクロは一言。
『放っておけば明日には目覚めるだろう』
「……え?」
『ああ、しかし……このままだとシュリが邪魔でよく眠れないな。……仕方ない。こいつは他の場所に運んで、今日は我が主と一緒に眠ろう』
仕方ない、って言ってる割には尻尾がすごく揺れてる…………じゃなくて。
「シュリのこと、心配じゃないの……?」
『彼女は我々にとって、かけがえのない仲間だ。だが、今回の件については羨ま──ンンッ! 自業自得すぎるから構ってやる必要はない、ということだ。……変な痙攣は続いているが、問題なく生きているしむしろ目覚めたら今まで以上に元気になっているはずだから、主も気にしなくていい』
気にしなくていい、って言われても……。
「すっごく怪しい動きだよ?」
シュリはずっと体を震わせていて、耳を傾ければ「うへ、うへへぇ……」って変な呻き声もあげている。これを見て大丈夫だとは思えないんだけど、本当に気にしなくてもいいのかな……?
『たしかに、これ以上は主の目に毒だな。──よし。すぐに別室へ運ぼう。ついでにシーツも変えないとだな。血に汚れたままでは寝心地も悪いだろう』
「あ、うん……ありがとう」
『お安い御用だ。少しだけ待っててくれ。すぐに終わらせてくる』
そう言い残したクロは、シュリとシーツを器用に咥えて出て行っちゃった。
しばらくして隣のお部屋でドッタンバッタンて騒がしい音が聞こえてきて、すぐに静かになったと思ったらクロが戻ってきた。
『待たせたな。では眠ろうか』
「う、うん……えっと、クロ……? さっきの音は、どうしたの?」
『ああ、気にしないでくれ。主との時間を邪魔されたくないから気絶している今のうちに縛ってきただけだ』
「…………え? いま、なんて……?」
『──っと、隣の部屋が長い間使われていなかったのでな。荷物で溢れかえっていたから軽く掃除をしていたのだ。しっかり、ゆっくりとシュリが眠れるように、な……』
あれ? 一回目と言っていることが違うような……?
…………ううん。きっと気のせいだよね。
「それじゃあ、クロ……一緒に寝よっか」
『うむ。最近は様々なことがあって一緒には居られなかったからな。久しぶりに主と眠れるのは嬉しいぞ』
「……ん、私も嬉しい」
街はどんどん大きくなってる。
そのおかげで住民のみんながもっと住みやすくなってるのは、私も嬉しい。
でも、その影響でみんなは、もっと忙しそうになった。
最近は一人で眠ることも多くなって、みんなとお話する機会も減った。
だから、久しぶりにこうしてゆっくりお話できるのは嬉しい。……本当はもっと沢山お話したいんだけど、クロが近くにいるからかな。すごく、眠くなってきちゃった……。
「あの、ね……クロ……また、一緒に、ねよう、ね……」
『ああ、そうだな。主が望むなら、いくらでも』
「今度は、みんなで……クロも、シュリも、ラルクもローム、も……みんなで…………」
『また皆で揃って眠るのも悪くない。最近は散歩もできていなかったからな。皆で日の当たる場所で、というのも悪くないだろう』
みんなでお外……。
そして、全員で並んでお昼寝するの。
ああ、それはすっごく……楽しいんだろうな……。
想像するだけで、今から楽しみ。
でも、今はみんな忙しくて手が離せないよね。
なら、このお祭りが落ち着いたらみんなで行こう。
フェンリルだけじゃない。フィル先生やリリーちゃんも一緒に、みんなで……。
「いつか、ぜったい……いきた、ぃ……な…………」